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深夜の百貨店・笑いの吸血鬼と新人ガードマン

この記事が虹倉きりさんの「noteを朗読する企画」で取り上げられました。読むより聴いたほうが迫力満点です。物書きナレーター、虹倉きりさんの見事な朗読をお楽しみくださいね。

虹倉きり@note朗読
深夜の百貨店・笑いの吸血鬼と新人ガードマン
作:ナポリタカオ 時間6分47秒

こちらがYouTube版です。

深夜の百貨店、懐中電灯を片手に歩くガードマン

ナポリ氏が22歳で放送作家の弟子になったばかりの頃、当然ながら仕事はまったくなく、アルバイトに頼る日々を過ごしていた。

そのひとつがガードマンである。ガードマンのおもな仕事は、工事現場の交通誘導と百貨店の警備。

百貨店の警備は入り口に立つ場合もあるが、百貨店の中を歩いて巡回したり、従業員の荷物チェックをしたりする。

巡回は交代で定期的に各階を回るほかに、在庫商品が置いてある倉庫の中に入って不審者がいないかどうかもチェックしていく。

深夜の時間帯なら1日働いて1万円もらえたので、深夜の時間帯を選んでバイトしていた。

今の時代はどうなっているのか知らないが、当時、深夜の警備は消灯した店内を、懐中電灯を片手に数時間おきに巡回していた。

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ひとりが宿直室に残り、あとふたりくらいが巡回していたと記憶している。

A階段から奇数階をひとり、B階段から偶数階をもうひとりというように分担があったと思う。

ひときわ怖い倉庫のチェック

言うまでもなく、暗い店内を懐中電灯を片手に歩くのは怖い。とくに怖いのは、各階にある在庫倉庫のチェックだ。

ドアを開けて中をのぞくだけではない。広い倉庫内は商品の箱が積まれていて物陰もできているので、不審人物がいないかどうか、歩きまわって確認しなければならないのである。

SF、オカルト映画などでおなじみの宇宙からの凶暴な生命体が潜みやすい、まさにその場所。

映画ではたいてい以下の感じになるはずだ。

序盤の肝試しのシーン。エキストラ俳優が陽気にドアを開けて入ってくる。「へっ、なんでもねえじゃないか」などと間抜けな顔でそこらをうろつきまわる。

すると突然、奇怪な声とともに物陰から生命体が。腰を抜かすエキストラ俳優。あっけなく、グサッと噛み殺される。こんなのが定石だ。

新人だったナポリ氏がそんな妄想にさいなまれていると、ある先輩が耳元である知恵を授けてくれた。

「ドアを開けたら、『おい、そこのお前!』って声かけるんだよ。本当にそこに誰かがいたら、人間の心理として『えっ?』って立ちあがるから」

そうか?反対に見つかって怖いという心理から、こっちにとびかかってくるんじゃないの?真偽のほどはともかく、怖がりなナポリ氏はそれを信じて毎日、実行したのである。

潜入者発見!とうとう事件は起きた

そんなある日、試練は待ち受けていた。

「おい、そこのお前!」

いつものようにドアをあけて声をかけた途端、暗がりからすっとなにかが立ちあがったのだ。

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「ああっ!」

驚いて腰を抜かすと、暗がりの影はゆっくりこちらにやってくる。人間のようだ…。

知的生命体じゃなかった。事件を起こしたばかりの凶悪犯か?!ここに逃げ込んだのか。

オレは運が悪かった……お母さん、ごめんなさい。放送作家として芽も葉も出ないうちに、オレは明日になったら大都会の百貨店の倉庫の片隅で、冷たくなって発見されるんだ。

いや、巡回から帰ってこないオレを不審に思って、ほかのガードマンがやってくるからもうちょっと早いかも。

ああ、そんなことどうでもいい。逃げようにも、身体が凍り付いて動かない。

暗がりに向けた懐中電灯の光が、恐怖でブルブルと震える。すると…。

光の輪の中に、男が吸血鬼のような笑いを浮かべてゆっくり姿を現した。

「あ!せ、先輩! なぜ、ここに?!」

そうか、この男はここで商品の盗みを働いていたのだ!ところが、予想に反することを彼は言った。

「へへへ、本当にやってるかどうか、確認してみたかったんだよ」

男は楽しそうに、手の内にまんまと落ちた者をあざ笑った。

はめられた!彼は走って真夜中の暗い倉庫に先回りしておいて、息をこらし、ナポリ氏を待ちつづけていたのだ。

罪深いまでの無邪気な性格。彼はこの性格ゆえにナポリ氏をさらなる恐怖に突き落とすのだ。

後編はこちらです!


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