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SNS Shocking#7「音楽に己の美学と魂を」(ゲスト:LISACHRIS)

『THE FIRST TAKE』が炎上した。よく考えれば商業音楽でピッチ修正は不可欠だし、そもそも録音済の歌声かもしれないし、本当の1テイク目かさえ定かではない。企画タイトル自体がプロレスだと考えるべきだろう。それは既に昨年、本企画のステイトメントに記した通りだ。

では、それが悪なのだろうか。必ずしも私はそう思わない。当然エディットされた録音物にも感動し得るからである。ただ、音に魔法がかかっていればの話だが……。しかしながら昨今で成功といえば、バズを起こせたか/再生数や動員の数字がどうか、など表面的なことばかり。その価値に最適化した行く末は「〇〇っぽい音楽」が山積みになった創造の墓場だろう。

記事&ポッドキャストによるハイブリッド・インタビュー「SNS Shocking」第7回目のゲストとして紹介されたのは、プロデューサーのLISACHRIS。堂々とYENTOWNを去り、新たな出会いと自己更新を恐れない彼女はクリエイティブでない楽曲を「ただのシグナル」と一蹴する。

また音に魂を込めるためにフィジカルな練習を勧める姿勢は「打ち込みはギークでギャングな行為。本当の楽器じゃないパソコンで音楽を作るのがヤバい」と話していた約5年前とはまるで別人。その考えを覆すトリガーはミュージシャンから溢れる自信に受けた衝撃だったという。2023年の夏、彼女は何を考えているのか。

(写真:西村満、サムネイル:徳山史典、ジングル/BGM:sakairyo)


LISACHRIS(りさくりす)
アメリカ・ニューヨーク州クイーンズ生まれのプロデューサー。学生時代に経験したコネチカット州でのジャズバンドや、吹奏楽に音楽のルーツを持つ。これまでに多くのヒップホップ作品に参加しているほか、ソロEPを3枚、アルバムを2枚リリースしている。

Instagram:@__waterme_
X:@lichnisanshi


大事なのは作品とアティテュード


――前回ゲストのYuima EnyaさんはLISAさんのことを「自由の体現者」だと紹介してくれました。ご自身としてはどうお考えですか。

アメリカのミドルスクール時代、最初に触れた音楽がジャズでした。ジャズは生き様が大事ですから、それを体現したいと思っています。当時は譜面とか全然意味がわかりませんでしたけど(笑)。今も音のズラし方などに影響があるなと感じますね。

――先日リリースされたシングル「meightz」についても改めて教えてください。

2017年くらいに先輩・JNKMNが捕まった時に、自分を含めみんなの心の揺れを感じ、それを励ますように制作した曲です。2020年に出そうとしていたのですが、こちらのミスで出せずにいたんですよ。この3年は曲をひたすら作り貯めていて、これからはリリースをコンスタントにする予定です。そんな流れもあり、TuneCoreにInstagram感覚でリリースしてしまいました。

――また私は個人的に私は好きな日本人ラッパーのひとりが5lackなのですが、彼とアルバム『KESHIKI』に収録されている「SITT」でコラボされてますね。

「お兄やん」って呼んでます(笑)。私は個人で活動していますが、いつも才気あふれる方々と一緒に動いていて、音楽的な刺激を受けると同時に助けてもらってます。

昔は事務所にも入っていたのですが、自分が若かったしヤンキーすぎて辞めてしまったんですよ。正直、関わる人が多くなってきたのでサポートがほしいと感じることも増えてきました。特にビデオを作るのは個人だと大変で。

――着想はどんなところから得るのでしょう。

体験や感情が動機になることは多いですね。あとはその時に出会った人とクリエイトしていく感じ。ミュージシャンは気まぐれなので、ちゃんと関係性を築かないといけません。刺激を受けるのはミュージシャンかカメラマンの人と関わることが多いかな。

大事なのは作品とアティテュード。要するに「魂があるか否か」です。もしくは、ゆるキャラな人かな(笑)。どちらにせよ、音楽を一緒に鳴らした時に通じあえることが重要です。最近は、ゆるギャルトランぺッター・村口亜星とよく遊んでますね。


上:LISACHRISが鍵盤とギター、村口亜星がトランペットを演奏する5lack「SITT」のリミックス。

下:前座バンドに村口が参加した「村上春樹presents 山下洋輔トリオ 再乱入ライブ」を小池が取材したもの。彼が参加したバンドがプレゼンテーションしたのは、山下トリオの持ち味であるフリーフォームな演奏ではなく、50年代からヒップホップまでをカバーした広義なジャズだった。

ヒップホップは音楽ではなく政治


――最近は常に生楽器を自作に取り入れるようになった?

はい。自分でも演奏した方がいいと思いますし、楽器を触れないと病みます。それに自分が弾けないと人にバイブスが伝わらない気がしてて。

――「打ち込みはギークでギャングな行為。本当の楽器じゃないパソコンで音楽を作るのがヤバい」という発言をしていたLISAさんとは別人ですね。

確かに。バンドのみんなを引っ張っていくためには、ちゃんと弾けないといけないと。リハーサル時に演奏できなかったら、アイデアも理解してもらえませんよ。また最近のライブはバンドセットが多いですが、ソロの時はギターや鍵盤を弾いて歌ったりしています。あとはドラムパッド。あれが一番上手いかも(笑)。

打ち込みも自身にフィジカルな音楽が入っていないと無理な気がしますね。サンプルを使わないなら、打ち込むのは自分の手だし。ピアノの基礎練習はずっとしてました。

上:リリースされたばかりの新曲「猫憑き」。今回のポッドキャストでも冒頭に使用しているのでチェックしてほしい。

下:「SNS Shocking」の撮影は毎回、渋谷で行われている。東京都による道玄坂2丁目を「街並み再生地区」とする開発については今後も注視が必要だ。


――何事も「いかにバズるか」という風潮の昨今ですが、LISAさんの姿勢はそれとは全然違うと感じます。それに、もし有名になりたい/成功したいというマインドがあればYENTOWNに残ればよかった話ですから。

そうですね……ヒップホップは音楽ではないので。ただのシグナルというか、何なら政治。プロデュースされている人もアイドルですし。結構ヤバいなと思いますね、正直。

人間ってネガティブなことを言えば大体湧きますから、暴力的なビートに乗せて「俺はこうだ」とラップする。そのパワーでバズを作って大衆を動かすビジネスなんですよ。サブスクなどでも「シグナル/音楽」とジャンルを分けてほしいくらい。

――では、なぜLISAさんはシグナルではない、個性的な方向に進めたのですか。

幼少期から楽器に触れていたり、楽器のできる友達に恵まれたからですかね。特に事務所に入った時にミュージシャンの知り合いが増えたのですが、彼らから溢れる自信には本当に驚きました。

ヒップホッパーやラッパーと全然違うアティテュードだったんですよ。自分でもギターを弾くようになったのも、その衝撃から。やっばり楽譜を読める人は東大行けるくらいに頭がいいと思います。

もっと思想や主張を表現すればいい


――ファッションの界隈はどうです? LISAさんはそういった現場でもDJをしたり、モデルをしたりしてきたキャリアをお持ちですが。

ファッションに関しても最近は出演するイベントも選んでいます。ブランド「ステラ・マッカートニー」との出会いは大きかったですね。6年くらい前から私も段々とベジタリアンなライフスタイルにしていて、皮を使わないなどの環境に配慮した信念に影響を受けています。若い時は「シャネル最高」という感じでしたが、最近はカッコいいと思わなくなりました。

――ちなみにX(旧Twitter)を辞めたのはなぜ?

一度辞めて、今はまたやってます。フォロワーは60人くらいしかいませんが(笑)。辞めた理由は……忘れましたね。最近は思想強めな投稿をたまにする程度。みんな思想や主張があるなら、もっと表現すればいいのに。

次回のゲストは・・・


LISACHRISさんの変化する作品や勇気ある発言からも、ガチな表現者であることが伝わってきました。個人的な経験として、音楽そのものに対して興味の薄いラッパーやダンサーは意外と多い印象。逆も然りで、ミュージシャン側も周辺の分野をもっと知る必要があると思います。大事なのは「相互理解」と「真に表現を追求する」というアティテュードではないでしょうか。

さて、彼女が次回のゲストとして紹介してくれたのはベーシスト・カメヤマケンシロウさん。いよいよ私個人の周辺人脈から完全に離れて参りました。一体どんな話が聞けるのか、楽しみです。(小池直也)

<写真>
西村満
HP:http://mitsurunishimura.com
Instagram:@mitsuru.nishimura

<サムネイル>
徳山史典
HP:https://unquote.jp/  
X:@toquyama
Instagram:@toqu

<ラジオジングル・BGM「D.N.D」>
sakairyo
X:@s_aka_i
Instagram:@s.aka.i
YouTube:https://t.co/kq3T1zhbVL

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