見出し画像

初めてのスキップ@2歳児との最終日

«登場人物≫
 Aちゃん・・・2歳児、夏〜秋に入園
__

2歳児クラスの担任をさせていただいてた時のこと。

この保育園は、野外活動中心で
かつ「さくらさくらんぼ」の要素をとりいれていた。
音楽教育、リズム運動と歌である。

途中入園のAちゃんは控えめというか
あまり自分を表現しない感じの子だった。

歌にもリズムにもあまり入らないし、
「ねんねち」というハンカチをずっと手に持っていた。
肌身離さず、そこそこ長い間。

体は大きかったのだが、月齢は低め。
言葉もあまり話すことなく、
表情も暗めだった。

_

そんなAちゃんと過ごした日々も
あと少しで終わりを迎える。

春の気配を感じる3月の末だった。

僕も引越しにともない退職が決まっていて、
 Aちゃんも転園が決まっていた。

控えめだったAちゃんも随分笑うようになり、
雨の日の翌日は、園庭で仲間とともに
水たまりに座り込んでぱちゃぱちゃしていたり。

ことばも随分増えてきて
最後の発表会では自分の名前を堂々とマイクで話し
スタッフみんなで感動したものだ。

年度末に入り、
Aちゃん含め、みんなの絆の深まりも感じ
表情や動きもどんどんワイルドさ?
本当のところ?かわからないが
そういうのが見え始めていた。

そして

退職前の最終保育日。
散歩先で、近くのグラウンドに行くことになった。
桜が咲いていたような気がする。

ひとりひとりの姿を目に焼き付けようと
いろんな子たちの姿を見ていた。

そしてふと目にした、
Aちゃんの姿に衝撃を受けた。

同じく途中入園で月齢の低いBちゃんと一緒に、
なんとスキップしているではないか!!
しかもいい表情。
なんというか、軽い。暖かい。
ほわっとしたこの空気感。

Aちゃんがスキップをしたのは
たしかこのときが始めて。
Bちゃんも、だったか。

リズム活動は週に何度かやっていたが
見た記憶がなかった。

まさか

最終日に二人で
こんなに気持ち良さそうにスキップしている。
こんなにありがたい姿を見られるとは・・・

思い出しただけで感動する。


___


これは奇跡?
それとも、
僕に何か伝えたかったのだろうか。

思えば僕は、
Aちゃんの育ちや姿を信じていなかったのかもしれない。
どこか”心配”があったり、「大丈夫かな」と思ったり、
みんなとの関わりや表情なんかを見て
そう思うことが多かったのかもしれない。

「わたし、大丈夫だからね」

って、伝えてくれたんだろうか。
本当にいい表情だった。


彼女がどうしてこのタイミングで
スキップをしたのかはわからない。

この年、まだ保育力もぜんぜんなくて(今もか)
「体当たりで過ごした!」という一年だった。
できるかぎり、ひとりひとりに寄り添おうと思いつつ。

必死だった。
がんばりすぎてた、のか。
それとも勉強がたりなかったのか。

必死すぎて
Aちゃんのような手のかからない子には
なかなか向き合う機会が少なかったかもしれない。
それだけに”心配”がどこかにあった。

もしかしたら
「僕がちゃんと寄り添わないと、Aちゃんはかわいそう」
みたいな僕から子どもたちへの依存?もあったのかもしれない。

だが、
僕がどうこうはちょっと置いておこう。
(もしかしたら大事だとも思うのだが、あえて)
Aちゃんは変わっていった。
Aちゃんだけではないのだけれど、
この最終日、みんなが輝いてみえたのだ。
本当に。

子どもたちは自分で育つ力があるんだ。
自分を生きる力があるんだ。

大人は、
心の底から。もっと深く魂から
「大丈夫」
そう信じる。

頭で、ではない。
深いところでだ。

それが大事なのかもしれない。
Aちゃんに、そんなことを教わったエピソード。


今はいくつになったろうか。

Aちゃんのお父さんもお母さんも、
お子さん想いの暖かい方で、
お二人ともよくAちゃんの話をしたものだ。
感動して泣いたこともあったなぁ。

Aちゃん、
大きくなりましたか。

どうかそのままで
そのままのAちゃんで、
この世界を照らしていくことでしょう。

生まれてきてくれてありがとう。

この3月になると、
いつも思い出す。
ありがとう、Aちゃん。

この記事が参加している募集

子どもに教えられたこと

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?