僕と拠り所12〜恋時雨 前編〜

千秋「あのね…ちょっと相談があるんだけど」
高一の夏、学校にも慣れてきた俺たちはいつもと同じ道、いつもと同じ時間の電車に乗って帰る途中だった。

千秋「ごめん…」
そう言って可逆を出し千鶴が俺の頬目掛けて拳を振るった。

千鶴「主!くらえーい」

ペチンと、か弱く俺の頬で止まった小さな手をデコピンで跳ね返した。

木こり「なんだよ急に…解離が居なくなって神体を足立から返してもらったって俺と千鶴の契約がまだ残ってるからそんなに吹き飛ばされんよ俺は…」

間一髪の差で俺も可逆を出していたのでなんとか間に合ったがいったいどれほどの力で俺に殴りかかろうとしていたかは定かではない。

木こり「別に千鶴はもう返しても良いんだけどさ…」

千鶴「嫌だ!」

木こり「毎回このやりとりだから…まぁ預かって害があるわけじゃないし…なぁミチオ」

ミチオ「そうだね!千鶴がいてくれるとこれまで以上に楽しいもん!」

千秋「そうじゃなくて!」

向かい合わせの列車の座席で下を向いたままモジモジと体を動かしている。

千秋「あのね木こり…ミチオが欲しい…」

表情は見えないが声の震えや動きからからかなり恥ずかしがっていることが見て取れる。

木こり「ほ〜」
千鶴「ほほ〜」
ミチオ「ん?どういうこと?」

千鶴が俺の方を見てグッドサインをしている。

木こり「前にもこんなことあったような…」
千鶴「あった!あった!」

木こり「あついね〜…気持ちはわかる…分かるさ…でも」

ちょっと可逆使ってミチオと契約してみろよと千秋に促し、恐る恐る千秋がぐるぐると回る赤い球体をミチオに向けると灰になってボロボロと崩れてしまった。

ミチオ「あっ、ごめん…」

木こり「これが王位の特権ってやつらしい…俺らの関係は誰がどうしようと解けない。どんなに仲が悪くなって二度と顔を見たくなくても、俺たちは離れられない。唯一この契りを解くとしたら俺が死ぬかミチオが天命を使えばもしかしたら出来るかもしれない。当たり前だけど、わたす気は無い。この関係がなくなるなら死んだほうがマシだな。」

ミチオ「木こり…」

その時俺の頬を強く引っ叩かれた。

木こり「あいたっっっ」

顔を上げると立ち上がって赤面した千秋が涙をこぼしながら叫んだ。

千秋「そんなこと知ってるよ!あんた私の気持ち何にもわかってない!」

それと同時に周りの視線が一気に千秋の元へと集まる。

乗客の声「何?喧嘩?女の子泣かせるなんて最低だね」

恥ずかしさのあまりどさっと腰掛け俯いて前髪の隙間から見える千秋の顔はとても可愛かった。
そして痛い視線と空気が俺の心を砕こうとしていた。

木こり「ごめん…」

ミチオ「ちあ…」

俺はミチオの肩を叩き首を横に振った。
ここでミチオが話すと余計拗ることがわかったからだ。
とりあえず今はこのままにしておこうと思った。

お前がそんなに叫ぶなら俺だってそれ以上に叫びたい…
お前だって俺の気持ち…何にもわかってないくせに…

ぽんと肩を叩かれ隣を見ると千鶴がまたグッドサインをしながら目を輝かせている。

そうしているうちに徐々にスピードを緩める列車は俺たちの住む町の駅に停車した。

誰も口を開くことなくその場を立ち外へ出て改札を潜ると目の前にいる千秋が両手を上に伸ばし背伸びをする。

千秋「ん〜っしゃ!今日家行っていい?」

木こり「はっ?今日?もう夜なんですけど…」

千秋「なんかスッキリしたし…お礼にご飯でも食べさせなさいよ。」

木こり「なんでだよ…なんでそうなる…」

千秋「元はと言えばあんたのせいなんだから」

ミチオ「ねぇ2人とも…なんかごめん…僕のせいで…」

俺はミチオの後ろに周り後ろからぎゅっと抱きしめた。

木こり「誰もお前のせいじゃ無いさ…はぁ〜モテる男は辛いね〜」

ミチオ「えっ?モテる?そりゃ今いる皆んななら神体で背中に乗せて空を走ることくらいは出来るけど…」

木こり「モテるって…意味違うし、女の子から愛されるってことだよ!」

ミチオ「愛される?千秋に?」

木こり「そそ!好き好き〜って」

ミチオが俺の腕から離れ後退りしているにも関わらず俺はそのまま話し続けた。

木こり「羨ましいよな〜千秋もブスってわけじゃ無い…あっいやどちらかというと可愛いほうだからなぁ〜ミチオも罪深いよな〜…あのね…ミチオが欲しい…あーんミチオ!ミチオ〜ははは!まじウケ…」

後ろからものすごい殺気を感じて振り返ると目の前には風を切ってこちらに飛んでくる右ストレートが見えた。これは避けられないと判断する前にその拳は俺の頬に直撃した。

千秋「もういい加減にして!昔から本当にバカね」

木こり「あ、あひ…ふ…ふいまへん」

俺は悶絶しながら地面に倒れ込んだ。
すると後ろから、木こり自転車取ってきたよと白々しい態度できたミチオもまた悶絶して地面に倒れ込んだ。
視界の先には千鶴がグッドサインをして勝ち誇った顔をしている。

木こり「あの…さっきからなんなのそれ…」

千鶴「グーーーッド」

千鶴も別の意味で恋を欲しているんだなと思った。


顔にあざができるであろうと頬を抑えながら自転車を押す。
その隣には千秋がいる。
普段はあんまり気にしてなかったけど、意外に距離近いな…これって周りから見たら俺らって付き合ってるとか思われちゃうよなと一人で勝手な妄想をしていると先に千秋の家に着いた。

木こり「んじゃ今日はこの辺で…」

千秋「ちょっと待ってて…すぐ来るから!」

ドタドタとレンガ敷の庭を走って玄関を開けると数秒したのちに2階の電気がついた。
あそこが千秋の部屋かぁ〜と思いながらボッーと眺めていると
千秋母「あらっ木こり君?久しぶりじゃない!晩御飯でもどう?2人ともまだで食べてないんでしょ?」

木こり「は、はい」

千秋母「なら、うちで食べて行かない?今日はカレーを作りすぎちゃってそれっもよかったらどう?」

ミチオ「やったカレーだ!」


ドタドタと階段を下りサンダルで千秋が駆けてくる。

千秋「ちょっとお母さん!出かけてくる!木こりんち!泊まるかも!」

木こり「はぁ?何言ってんだお前!」

千秋母「今ね木こり君とうちで食べないって話してたの。もし泊まるんだったらうちに止めてもいいんじゃない?」

千秋「ちょっとお母さん⁉︎」

ミチオ「千秋のお母さんのカレー食べたい…」

千秋「ミチオ⁉︎」

千秋母「ん?ミチオ君?」

木こり「おい…千秋…」

千秋「あわわ…ごめん…」

千秋母「こんなところで話しててもしょうがないから木こり君上がりなさい!」

千秋「なんで…なんでよ…」


なんでこんな展開になってるんだと少々困惑していだが、ミチオも行く気満々だし、今回は千秋の家に初めてお邪魔することにした。

なぜか千秋のお母さんが振り返り様にこちらに向かってグッドポーズしているが…俺は千鶴の顔を見て、そのまま着いていくことにした。

玄関のドアに差し掛かった時に背後に何か感じたが、俺は振り返りはしなかった。

千秋父「おぉ!木こり君!うちに上がるのは初めてかな?なんかそんな気しないけど…いらっしゃい。」

大きめのワイングラスで中身はおそらくウィスキーだろう。
それをローテーブルで飲み干した千秋のお父さんはにっこりと微笑みそう言った。

木こり「多分…初めてだと思います。お邪魔します…」

まぁまぁと、床にポンポンとこちらに座りなさいと合図された俺は隣に座ることにした。

千秋弟「うるせーと思ったら…木こりかよ…ねぇちゃん初めて家に入れたの誰かなと思ったら…新鮮味に欠けるわ…」

そう言って風呂上がりの肌着でお腹を掻きながらドアを開ける千秋の弟の姿が見えた。

木こり「おぉ?翼くん?随分とデカくなって…」

ゆうに180センチを超える身長が昔とは信じられない光景だった。

ドタドタと2階から凄まじい物音がするが、俺は構わず千秋の家族と食卓を囲んだ。

千秋母「はぃお待ちどう様。こんなものでごめんね!ゆっくりしていってね!あ!あとお風呂も沸いてるからいつでもどうぞ!」

ブーッと千秋のお父さんがお酒を豪快に吹き出した。

千秋父「と…とと…泊まるのかい?木こり…君…お泊まりなのかい?」

木こり「いや…あの…そんなつもりはなくて…泊まります!千秋の部屋で!お泊まりです!」

何を言っているんだ俺は…咄嗟に思いもしない言葉が口から…
横を見るとミチオが金色に輝いた人差し指を俺の方に向けている。

木こり「天命………⁉︎」

くすくすと笑うミチオのことを見ながら絶対に帰りますと何度も言うが、言葉が反転してしまう。

木こり「ミチオ…ミチオーーーーーー」

そんなつもりはない…1ミリも…そんなつもりはないんです。
そんなことを頭の中で何度も繰り返しながら俺は顔を真っ赤にして俯くことしかできなかった。

千秋「ハァ…ハァ…木こり…準備オケ…」

息をあげながら階段を降りてきてリビングに来た千秋は余計にこの場の空気を凍り付かせた。

千秋父「何言ってるんだお前…」

千秋「今日、うちに泊まるっていうから…」

千秋のお父さんが今度はつぎたてのグラスを溢した。

千秋父「いくらなんでも早すぎやしないかい?木こり君…確かに千秋は昔から木こり君の話ばかり…一体いつからそんな…かか…関係に…」

千秋、木こり「いつからって…最初から?」

千秋、木こり「はっ…⁉︎」

この時、俺たちは完全にミチオの手中に収められていることがわかった。

柱の影の方から、千秋のお母さんと千鶴がグッドポーズをしてるのが見えたが…それになんの感情も抱くことができなかった。

千秋父「そうか…そうなら私は木こり君で良かったと思う…千秋が言ってたんだ…好きな人ができたらこの家に連れてくるねって…今まで千秋は男の子をこの家に入れたことがなかった…そうか…ずっと千秋は我慢して…木こり君も…2人ももうそんな歳か…」

千秋のお父さんが涙を浮かべながら手のひらで顔を覆っている。


千秋「違う!違うのお父さん!しかもそれ言ったの私覚えてないし…」

木こり「マジで誤解です…」

千秋母「はいはい…酔っ払いは寝なさい…明日も仕事なんだから!はいこれ、千秋の分!」

木こり「あの!すいません!お母さんのカレーめちゃくちゃ美味しいのでもうふた皿用意していただくことはできますか?」

千秋母「ふた皿も?そんなに食べれるの?」

木こり「大丈夫です!お腹空いてるし…もう我慢の限界で…」

おかわりすればいいのにと、千秋のお母さんは立ち上がり湯気が立つご飯とカレールーをよそってすぐに出してくれた。

ミチオ「いいの?僕の分まで…」
千鶴「わしの分も…」

木こり「普段千秋はどうしてるのかなって…お母さんにふた皿出してって言ったらびっくりしてたから普段千秋は一緒にご飯食べないんだなと思ってさ。」

千鶴「昨日は天井裏のネズミを食べたぞ…」

木こり、千秋「えっ…」

千鶴「わしは蛇だからネズミ好きだから構わない。」

木こり「こうやって、神様にもご飯を…神様っていうか…なんっつーか一緒に食べたいじゃん?」

ミチオ「木こりのお母さんは毎日僕の分も作っててくれるんだ!昔は変な顔してたけど今は当たり前って感じ!」

木こり「それじゃ!」

皆「頂きます!」

ミチオがハフハフカレーを頬張る姿を見て千鶴も真似をする。
フーフーと千秋が千鶴の分まで冷ましているところを見て、俺たちの昔を思い出した。

木こり「ミチオ!天命!千鶴が口にするとスプーンまで灰になる!」

ミチオ「やってるよー!」

千鶴「ハムッ……旨い!」

金色の人差し指をクルクル回しながらウインクをしてカレーを頬張る。
これもいい思い出だなと皆んなで食べるカレーはいつも以上に絶品だった。

千鶴「人間の食べ物旨い!」

千秋「今までなんで気づかなかったんだろう…千鶴も食べたかったよね。ごめんね。」

千秋父「千秋〜大人になって〜う〜っ」
千秋母「こら、私たちはもう寝ますよ!」

食べ終わる頃に千秋のお父さんとお母さんは寝室へと向かった。

千秋弟「ねぇーちゃんの邪魔したら悪いし、俺も寝るわ!木こりおやすみー!」

そう言って立ち上がる姿を見て本当に大きくなったなと3個しか年が離れていないのに体の構造に疑問を覚えながらもその後ろ姿を見送った。

リビングに静寂が訪れる。

千秋「お風呂入ってくれば…」

木こり「お前から入れよ…」

千秋「悪いけどあんたはここで寝なさいよね!」

木こり「わかってるよ…」

千秋「別に…」

ピンポーンとインターホンが鳴った。

千秋の母親が対応しているらしい…
数分経ったのちにリビングのドアが開いた。

千秋母「ほら、木こり君のお母さんが持ってきてくれたわよ!着替え!それじゃどうぞごゆっくり。」

バタンと扉が閉まり、千秋がその後を追いかけて出ていった。

ミチオ「千秋…怒ってるかな…」

木こり「いつも通りだと思うんだけど…」

千鶴「恥ずかしいんだと思う。」

木こり「恥ずかしいだろうけど別に一緒に寝るわけじゃないし…そりゃ俺だって…」

千鶴「女心ってやつ…おまいらはわからないんじゃろ」

ミチオ「ん!っていうか、千秋のお母さんのカレー、木こりのお母さんと味似てた!美味しかったなー」

木こり「千鶴は風呂入んないのか?」

ぐいっと顔を近づけて千鶴が目を輝かせている。

千鶴「入ったことがない…木こりと入りたい!」

こうしてまじまじと見るとやっぱり千秋にそっくりな千鶴を見て少しドキドキした。

木こり「お前ら、逆だったら上手く行っただろうに…」

千鶴「ん?」

木こり「あっ!ちがっ…違う」

ミチオ「千秋のこと好きなんでしょ!」

木こり「ミチオまで!」

ミチオ「いやいや、見てたらわかるよ…」

千鶴「無論、最初から」

両側のほっぺたにぐりぐりと拠り所の頬が当たり、余計に恥ずかしさが増した。

木こり「暑苦しいって!」

ミチオ「フーン」
千鶴「フーン」

ミチオ「やっちゃえ!」
千鶴「オーーー」

グリグリ攻撃を継続してやられる中で、拠り所の温かさを感じながらも恥ずかしさを隠しきれなかった。

木こり「もう、やめてーーーーー」


千秋「あんたら何やってんの?」


千鶴「はっ!スキャンダル…」

ミチオ「木こり〜おりゃ〜」


千秋「これタオル…」

勢いよく投げられたタオルがミチオの顔にヒットする。

俺の目の前にはキャミソールと短パン姿の風呂上がりの千秋の姿があった。

木こり「おい…服着ろって…」

千秋「着てるし…あんた何言ってんの?次、早く入りなさいよ。」

木こり「あぁ…あぁ…わかった…ごめん。」

背伸びをして腕を伸ばしている千秋の脇のラインに目を離せなくなりながらも俺は風呂場へと向かう。

バスルームと書かれたドアを開けるとそこにはほのかにラベンダーのすっきりとした甘い香りが漂っている。

ミチオ「千秋のお風呂だ!」
千鶴「初お風呂〜!」

木こり「こらこら…ちょっと待ってってば…」

急いで服を畳んで2人の後に続くと自分の家の風呂よりもはるかに広く大人3人でも余裕で入れるであろう浴槽が鎮座している。

木こり「でっけ〜」
ミチオ「大きなお風呂!楽しそう!」

2人で勢いよく飛び込むと、千鶴が服を着たままもじもじしている。

千鶴「恥ずかしい…」

ミチオ「あったかいよ!おいでよ!」

木こり「なぁーにお前の裸見たところで欲情するやつなんかここにいないから安心しろよ!」

なぜか千鶴は幼いままの身体で成長が止まっている。

千鶴「いや…そういうことじゃない…これ…」

バゥッと自身の服に手を当てると千鶴の服が消え、裸になった。
その体には全身にキラキラとした白い鱗のようなものがついており、少し、ボロボロとして見えた。

木こり「あ〜そういうことかぁ…それならなおさら安心していい!だって千鶴は蛇の神様だもん!逆に綺麗だよ!」

少し千鶴の顔が赤くなってるような気がした。

千鶴「ほんとか…汚くないか…」

ミチオ「もちろん!おいで!」

そーと湯船に足を入れると全身の鱗が震え上がった。

千鶴「あっちぃ」

ミチオ「それが気持ちいいんだよ!さぁ!」

そーッと静かに体を震わせながら少しずつ湯船に浸かっていく。

千鶴「はっ、入れた…これがお風呂…気もちぃ」

木こり「スッキリするでしょ?ほら、もっと肩まで…痛⁉︎」

見ると、手の平から出血していた。ぷかぷかと大量の鱗が浮かんでいる。それはまるで刃物のように鋭かった。

ミチオ「大丈夫?」

木こり「大丈夫!大丈夫!しかしこれ、すごいな…鉄壁の防御…」

千鶴「すまない…脱皮しちゃったみたい…」

むくむくと、千鶴の身体が大きくなる。体つきが少しふくよかになった気がする。

木こり「わぉ…なんか大きくなってる…」

千鶴「ん?わーほんとだ!おっぱい!」

木こり「やめろよ…」

ますます千秋に似てきて少しドキドキしてきた。
その感情を抑えながらも、お風呂に浮かんだ鱗を一つ一つまとめて浴槽の上の物置スペースに乗せていく。

ミチオが千鶴に頭と体の洗い方を教えて一緒にやっていると脱衣所から声が聞こえた。

千秋「ねぇ…上がったら話したいことあるから…」

木こり「ん?何?」

千秋「いいから早く上がって!」

3人で目を合わせながら俺はミチオの身体を洗うことにした。
ミチオ「こういうの良いよね!」

木こり「なんだよ急に」

ミチオ「ほらだって、いつもは僕たちだけじゃん?なんか家族が増えたみたいで良いなって!」

千鶴「お前たちが毎日こんなことしてるなんて思ってなかった…明日から、千秋と2人で入れるかな…」

木こり「千秋と離れている時間も長かったんだ、今日のこと話せば明日からそうしてくれるさ!皆千鶴のこと大好きなんだから。」

千鶴「うん!」

そう言いながら満面の笑みで振り返りグッドポーズをしている千鶴にちょっと心が温かくなった。


風呂上がりに置かれていたバスタオルを使ってパジャマに着替えた俺はリビングに戻る。

そこには牛乳を用意して千秋が待っていてくれた。

ぽんぽんとこちらに合図して俺と目が合うと、その後ろを見て口に含んでいた牛乳を吐き出した!

ミチオ「いやーやっぱりお風呂は最高だね!」

そうだ…なぜ忘れていたんだろう…
ミチオは風呂上がりに必ず全裸で過ごしそのまま俺と一緒に眠るということを…

木こり「だーーーーー!ミチオくん!!!」

ミチオ「ん?」

その後には成長した姿の千鶴も見えた。

木こり「だーーーーー!千鶴?服は着なさい!どんなに暑くても!湯上がりが快適でも!服は身につけなさい。」

涼しくて気持ちーと男のそれをぶらんぶらんさせてる姿に俺は可逆を出した。

木こり「こら…良い加減にしなさい…服を着ろ服をーーーーーー」

バゥッと音がして今まで通りの格好に戻った2人は暑い暑いと襟元ををばたつかせた。
その様子にホッと胸を撫で下ろした千秋がまた千鶴を見て目が点になった。

千秋「あんた…大きくなった?」

千鶴「お風呂で脱皮!イェーィ!」

千秋「みんなと違って、大きくならないなと心配してたら…そういうことだったの?」

ミチオ「何もお風呂だけが原因じゃないと思う。千鶴とか、もしそのほかに爬虫類、両生類の拠り所がいるなら、成長点は脱皮に影響すると思う。千鶴はお風呂がトリガーになっただけだね!」

木こり「それがこの鱗…」

千秋「そうだったの…なんか悔しい…こんなに千鶴といるのにわかってあげられなかったなんて…」

木こり「しょうがないさ…これからは好きにさせてあげると良い。んで…話って?」

千秋「とにかく…ここじゃお母さんたちに聞かれるとまずいから、私の部屋に行くよ…」

木こり「え?」

千秋「ほら!みんなの牛乳持って!」

キャミソール姿の千秋の胸元に目がいってしまった。
何よと、千秋も顔を逸らし、お盆に乗せられた牛乳を運んで階段を登った。

千秋「あんまりジロジロ見ないでよね…」

木こり「なら、下で話せよ…」

千秋「あーうっさい!」

バンと押されて千秋の部屋に入ると、大きめのベットに小物類が綺麗に並べられた机と、テーブルが置かれていた。

フローリングの上に敷かれたカーペットは肌触りが良く、部屋のそこらじゅうから千秋の匂いが漂ってくる。

木こり「千秋…俺…初めてなんだけど…」

千秋「私も初めてだから…最初に入れたのがあんたなんて…最悪…」

お盆をテーブルの上に置いて、床に腰掛けると、千秋は机の椅子を俺の方に向けて座った。
太ももの奥の方まで見えた気がして俺は困惑して、牛乳を飲み干した。

木こり「ゴクリ…」

千秋「あんたどこ見てんのよ…変態…」

木こり「あっ、いや…」

ミチオ「それで話って…」
千鶴「恋の瞬間…」

千秋「ちょっと黙ってて!」

4人の空間にまた、沈黙が続く…

千秋「あんた…ミチオと…ど…どう…」

様子がおかしい…なんだか、千秋が目が虚でだらんとしているようだ…

ミチオ「千秋…」

ミチオが近寄ると千秋はミチオの手を振り払う。

千秋「あ、あんたは黙って…」

ミチオ「千秋?もしかしてお酒飲んでる?」

千鶴「はっ!父ちゃんの…」

千秋「大体…あんたが悪いのよ…私をこんな目に苦しませて…」

木こり「酔っ払ってるのか?」

千秋「ちがーーーう!」

だめだ、完全に正気を失っている。

その時、俺はふとさっきの違和感を思い出した。

ミチオと千鶴の方を見ると、少し透けて見える気がする。

ミチオ「どうしたんだい?木こり?」

木こり「あっ、いや…違うんだ…」

俺はその違和感が確信に変わったことに気づいた。

ミチオの耳が出ている…神体の耳が…千鶴の丸い眼光も鋭く縦長になりチュルチュルと舌を伸ばしている。

木こり「これは一体…どう…どういう…」

ミチオが俺にクルクルと金色の人差し指を回しながら何か呟いている。

ばたりと、千秋が俺の膝に崩れてくる。

千秋「お酒なんか…飲んでない…私はただ……」

木こり「千…千秋…俺…なんか…変…」

俺は千秋のだらりと伸びている手のひらを自分の胸に寄せた。視界がぐるぐると回り、今にも倒れそうだ。

ミチオ「ちょっとそのまま、2人はいい感じに…」

2人は立ち上がると、ドアノブに手をかけた。
その瞬間そのドアノブは灰になりドアだけが軋みを立てて少し開いた。
その時、ミチオの顔が一瞬狐になった気がした…般若のように怒っている狐の顔に

木こり「ミチオ………千鶴まで…どこに……」

千鶴「散歩…2人の邪魔したくない。」

俺の身体がどんどん暑くなりフラフラとして真っ直ぐな体制を保てなくなる。

千秋の頭が、地面に当たらないように俺は両手で支えると、自分の身体も床へと倒れ込んだ。
ずりずりとはだけた服で千秋が俺の顔の位置まで擦り寄ってくる。

ラベンダーのようなほのかに甘い香りが俺の鼻腔を刺激して、心臓が張り裂けそうなほど脈打つ。

木こり「千秋…俺…」

キャミソールから片方の胸が今にも溢れそう。
千秋の鼻も俺の鼻とかすかに触れている。

千秋「木こり………」

木こり「千秋…」

千秋「木こり……お願い…」

キスをしてと言いたいのだろうか…それとも身体を触ってと言いたいのだろうか…俺にはそんなこと理解できなかった。
ただただ強く握られる手のひらをそれよりも強く握り返すことしかできなかった。

木こり「千秋…⁉︎」

千秋「わからずやね……ほら」

吐息が俺の口にかかっている。
今にも触れてしまいそうなほど、千秋の唇はすぐそばにある。

木こり「ミチオが好きなんじゃないのかよ…」

千秋「バカね…」

木こり「じゃあ…」


本当の沈黙が2人を襲った。

柔らかい唇と今にも溶け出しそうな匂いに俺は溺れた。

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