見出し画像

デジタル化を進めても成果が出ない企業が気づかずハマっている落とし穴

DXコンサルをやっていると、当然デジタル化の話は毎日のように聞くことになる。


「○○の自動化やるぞ!」

「△△システムのリニューアルと改善するぞ!」

「部門間データの集約とビッグデータ解析やるぞ!」


デジタル化に関する「方向性の議論」は盛んだが、「質の議論」をそれほど聞かないのはなぜだろう


自動化をしても、その質が低ければ生産性はむしろ下がる。

システムをリニューアルしても、質が悪ければ成果はでない。

データの集約や解析をしても、実行の質が悪ければ役に立つインサイトは得られない。


「デジタル化」という見えやすくわかりやすい取り組みにとらわれて、「デジタル化の質」という測りづらく、見えづらい部分はなおざりになっているのではないか。


デジタルか否か、ではなく「質」が問題

画像1

そのような課題意識から、方向性は正しいもののエグゼキューション (執行・実行) の質が低いものを「弱いデジタル」と呼んでいる。方向性が正しく、かつエグゼキューションの質も高いものが「強いデジタル」。


弱いデジタルは生産性をむしろ下げる

画像2

質の低い、弱いデジタルは効率化とは逆の結果をもたらす。多くのコストがかかり、社員の能力を抑制し、事業戦略を制限する。

リモートワークのために何億円もかけて有名ベンダーのハードとソフトを導入し、ネットの専用線を引く。リモートワークが増えると専用線がパンパンになり、オンライン会議もままらない。オンライン会議専用パソコンはいつも満席。

テクノロジーをフル活用して動作の検閲システムが導入される。Google禁止、Zoom禁止、Slack禁止、SNS禁止、ファイル共有禁止、動画禁止、セキュリティの名のもとに、禁止禁止で社員に何もできなくさせる。

新しいことをやろうとすると社内システムが足かせになってデータの利活用や連携もままならず、ERPの稟議プロセスで全グループ会社の全幹部が閲覧、合意が取れず何も決められず何も進まない。

若手の社員は愛想を尽かして優秀な人からやめていく。

これが弱いデジタル。

デジタル化が競争優位につながらなければ意味がない

画像3

一方、強いデジタルは、より安いコストではじめられ、社員ひとりひとりの能力を最大化する。

競合との差別化になり、利益率を改善して新たな挑戦のハードルを下げる。

企業活動として投資を行うなら、それが競争優位性や顧客への付加価値につながらなければ意味がない。


人月のジレンマ

「弱いデジタル」で象徴的なのが、SI業界で言われる「人月のジレンマ」に陥っている企業だろう。ITシステム開発の発注者と受託者の間でモチベーションの相反が起きるというものだ。

「弱いデジタル」に陥っている企業は、そのITマネジメントレベルの低さによりこのジレンマから抜け出せずにいる。

画像4

経済産業省でもDXレポート2.1でこの問題を構造的な問題と捉え、指摘している。構造的な問題なので、業者が悪いとか、発注者のレベルが低いとか言うものではない。原因をきちんと認識すれば解決可能な課題である。


人月による見積もり算出の問題点

画像5

ジレンマに陥るひとつめの原因は、見積もり方法にある。

請負型プロジェクトの見積もりは、「人月単価 × 人数 × 期間」という形で見積もられる。

受託側が売上を最大化しようとすると、なるべくレベルの低い人材をなるべくたくさん投入し、なるべく時間をかけて開発したほうがよい、ということになる。これはあくまでモチベーションの力学に関する問題で、個々のプロジェクト・個人の善意を否定するものではない。

受注側は、その妥当性についてアサインされる人員のレベルと費用の妥当性を精査すべきだが、情報格差・リテラシの格差が存在するため、多くの場合は不可能だろう。


請負契約は検収ゴールになりやすい

画像6

もうひとつは、目的意識の違いだ。

先のDXレポートで指摘されているのは一般的な請負契約型のシステム開発だ。請負契約は、納品物に対して対価が支払われる。

契約では納品責任、瑕疵担保責任、遅延損害、SLAなどが定めれられ、これらは発注者にとって大きなメリットである。

一方、構造的に、契約が締結された時点で発注者と受注者の間でモチベーションの相反が起こることは否めない。

すなわち、発注者は支払う金額が決まっているのであれば、事前に競技されていない部分も含めて最高品質のものを求めるようになる。極論すれば開発チームの労働環境や、技術的課題などはお構いなし、ということになりかねない。

受注者は、もらえる金額が変わらないのであれば、なるべく少ない工数で成果物を仕上げ、検収をもらうのが利益の最大化を目指す合理的な行動になる。見積もりはあくまで見積もりなので、より少ない人員、より少ない手間で仕上げようと考える。


成果フォーカスは発注者のリスクが大きい

画像7

近年、アジャイル開発が非常に礼賛されている。

DXレポートでも、アジャイルであることがデジタル化が進んでいる証拠であり (DX評価基準など)、先進的な企業はアジャイル開発が当たり前、というような風潮である。

確かに、アジャイルは仕様変更に対してより柔軟で、KPIやUXなど成果指標を達成するための改善フィードバックサイクルを回すことに向いている。

ただ、柔軟であるがゆえに目先の方向を見失いやすく、ビジネスオーナーのマネジメント・意思決定がイケてないといつまでたっても成果物が仕上がらない、進まない、といったことも起こりうる。

また、納品責任や瑕疵担保責任も全て発注者のリスクとなるため、発注サイドのシステム開発におけるマネジメントリテラシーが低いと逆にコスト高になることも考えられる。

アジャイルなアプローチを用いて顧客体験の最大化という成果を得るには、発注者自身がリスクを取って舵取りを行う高いレベルのマネジメント能力が求められる。

エンタープライズアジャイルを導入するには、まず経営者からアジャイルの文化を学ぶ研修を受ける。現場だけではなく経営トップのリテラシ向上が伴わなければ柔軟な予算管理ができず、プロジェクトのアジリティは担保できない。


結局、「強いデジタル」とはなんなのか

以前、「DXコンサルが絶対に言わない後ろめたい真実」という記事を書いたが、まず第一に「人の問題」なのだと思う。

画像9

画像8

「弱いデジタル」に陥っている企業は、導入技術やソリューションに対してまともな選定ができていない。

プレゼンのうまさや、導入事例や、実績やブランドといった目くらましを真に受け、気持ちのよいくらい無駄な投資をしている。

ITやデジタルビジネスというのは、情報格差を利用して儲けるものだ。

私自身もIT側なので大きなことを言えた義理ではないものの、あまりに大胆にぼったくられると (無駄な投資をすると) 、社会全体が沈んでしまうような気がして、ちょっと気にしている。

DXを目指すなら、デジタルよりまずは人に投資せよ

画像10

もちろん、短期的な目線からはパートナーや外注をうまく使って成果を出す選択肢は欠かせないが、平行してより中長期の目線で人材獲得・人材育成を頑張ったほうがいいだろうと思っている。

「採れない」「育たない」とボヤいているだけでは済まない。

そこは仕事なので、簡単でなかったとしても、なんとかしないといけないと思う。経営課題というのはそういうものだと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?