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「ので」「から」問題と『みんなの日本語』

普段、私が『みんなの日本語』で不自然だよなぁと思っているものの筆頭は「んです」を使うべきところで使っていないこと、その次が「理由のから」の多用です。どちらにも「ので」が関係していて、しかも日本語教師は「ので」を教えた後でも、ティーチャートークで「から」を使いがちだという印象があります。

なんとかならないのかなぁ、と思っていたんですが「ので」は接続も使用場面も微妙なものがあって、「から」のほうが単純明快で教えやすく、初級の段階で多少の不自然さは犠牲にしなければならない中、こだわる必要はないのか・・・ともやもやしていました。

そんなとき見つけた『いろどり』の「暑いのが苦手ですから」と「暑いのが大好きですから」という表現。文型シラバスではない『いろどり』がどうして⁈となりました。『いろどり』は全体が自然なので突然初級的表現が来ると『みんなの日本語』以上に不自然さを感じます。さらに、私の個人的な語感の問題でもあるようなのですが、「ので」と「から」について調べてみることにしました。

私が調べた中では東京外国語大学のモジュールの説明が一番納得できました。

「から」は「ので」に比べて、「これが理由である」ことをよりはっきりと明示するニュアンスがあります。そのため、聞き手にものを頼む表現(勧誘・依頼・命令)や、自分の行為の理由を述べる場合に「から」を用いると、自分の事情を一方的に言い立てる印象を与えます。「ので」を使うとそのようなことはありませんので、「ので」を使うほうがよいでしょう。

これです!どうも学生が使う「から」を聞くと言い訳がましくて、損をしている気がしていたのです。「自分の行為の理由を述べる場合」に、「一方的に言い立てる印象を与える」つまり、なんだか図々しいような印象を与えてしまうのではないでしょうか。。

そこで、もう一度『いろどり』を見直してみました。見事でした。

・私、ベジタリアンなので、肉と魚はだめなんです。・今日は自転車で来たので、飲めないんですよ。アレルギーがあるので、食べられないんです。・宗教上の理由で食べられないので、入れないでください。(以上初級Ⅱ3課)

・このシュウマイは味がついていますから、しょうゆをつけないで食べてください。(初級Ⅱ4課)・遊ぶところがいろいろあるから、一日中遊べるよ。・それに暖かいから、春から秋まで泳げますよ。(以上初級Ⅱ5課

『いろどり』の文法説明にある「個人的な理由を言う場合には、「ので」のほうが丁寧でソフトな言い方になる」のとおり、個人的なことは「ので」一般的なことには「から」が使われています。しかも、「ので」が出てくる初級Ⅱの3課まで、不自然な「から」もほとんど出てこないんです。上記の二つが特別なくらいで、あとは初級Ⅰ11課に出てくる「えびのアレルギーですから」ぐらい。アレルギーという命に関わることを今持っている文法力で表現するという意味では意義があると思います。お見事!

一方、われらが『みんなの日本語』はどうでしょう。

・熱がありますから、病院へ行きます(17課)・昨日も飲んだし、それに明日大阪へ出張ですから(28課)・大学院の試験を受けますから、今年は帰らないつもりです(31課)

やっぱり、私はこれらは「ので」で言いたい。それには、「ので」が出てくる39課までの道のりが遠く、「から」が定着しすぎてしまう…

でも、発見もありました。43課 練習B-8

A:資料が20枚ありますか。

B:1枚足りないので、ちょっとコピーしてきます。

このB-8の4つの練習は一見「~てきます」の練習なんですが、実は、個人的な理由をいう「ので」の練習にぴったり!『みんなの日本語』にもちゃんとありました。(こんなふうに『みんなの日本語』は隠しコマンドみたいになっているから嫌われる・・・)

自分の中で、整理ができたので、これからは「個人的な理由」を言うときは「ので」を使ったほうがいいと、チャンスがあるときに言おうと思います。

それにしても『いろどり』。初級Ⅱ10課に出てくる「ロイさん」だけ、全体的にあまり日本語が上手じゃなくて、「これも飲みましたから、お願いします」と言っちゃうんですが、「これも飲んだので、お願いします」と言えてたら、レジの人の怒りも多少は軽くなったんじゃないかなぁと思います。

言葉遣い一つで、学生の身を守ったり、危険な目にあわせてしまうこともあると感じています。文法的に正しいかどうかだけでなく、身を守れる日本語を支援していけたらいいなと思います。

※ちなみに、「から」と「ので」の違いを検索すると、日本語教育能力試験用の解説サイトが出てきます。その中で、「から」は主観、「ので」は客観という説明が散見されました。1952年の永野賢氏の分析によるもののようですが、その後、その分け方には疑問を呈しているものが多かったです。受験勉強のように、「から」は主観、「ので」は客観などという覚え方をしていると今回のような分析をするときに混乱が生じるだろうし、ちょっと大丈夫かなと思いました。参考までに、1つリンクをはっておくことにします。

『日本語学習者による原因・理由を表す接続助詞「から」「ので」の語用論的使い分け能力の習得を探る横断的研究』畠山衛 ICU日本語教育研究 2012年3月

*このnote内リンク*

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