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『おとなの週末』に学ぶ、文章の「つかみ」の書き方

雑誌に学ぶ、文章の「つかみ」の書き方。

今回取り上げるのは、『おとなの週末』2023年7月号の第1特集記事「三ツ星おにぎり」です。さまざまなおにぎり店のレポート記事ですね。

飲食店のレポート記事のつかみというと、

・佐賀の郷土料理が堪能できる居酒屋
と店の概要から入ったり、
・下町情緒が残る谷中銀座商店街の外れに店を構える
とロケーションから入ったり、
・ミラノの高級リストランテで5年間修行した店主が2019年にオープンしたイタリアンレストラン
と店主の紹介から入ったり
・1910年に創業した老舗のかまぼこ店
と創業年から入ったりするのが定番ですが、上の例はどれもちょっと平凡ですよね。

では、何をつかみに持ってくるか? 「三ツ星おにぎり」の記事では、次のようなつかみが見られました。たとえば三軒茶屋の「おひつ膳田んぼ」の記事。

この何気ないおにぎりに、どれだけの想いが詰まっているか。 店主・岡野さんの米にかける愛は果てしない。米はさまざまな品種を全国の産地から。毎月4~5品種が順次登場する。自らも新潟県十日町市で米作りに携わり、さらには店の屋上に水田まであるというから驚く。だって、ここ三茶よ? 創業は1996年、代々木に本店を持つ。

『おとなの週末』2023年7月号・P20

「店主・岡野さん」から入っても、「米はさまざまな」から入っても間違いではありませんが、ややインパクトにかけますよね。

それに対し、「この何気ないおにぎりに、どれだけの想いが詰まっているか」と強調する一文をつかみに持ってくると、どうでしょうか。
ものすごくこだわっていることが一文で伝わってきますし、「具体的にどんなこだわりがあるの?」と先を読みたくなりますよね。

インパクトということでは「店の屋上の水田」から入る手もありそうですが、「この何気ない」から始めたほうが、文章がスムーズに流れやすいかもしれません。

一方、こちらは渋谷「戸越屋」の記事のつかみ。

まずは具がはちきれんばかりのこのボリュームを見て。手にすると、ずっしり重い。オーナ曰く 「大塚の名店『おにぎりぼんご』 が好きすぎて、自分でも店を開きました。ぼんごインスパイア系おにぎりですね(笑)」。とは言っても、ただのマネっこじゃない。 全国のおにぎりを食べ歩いて研究を重ね、素材に味にトコトンこだわっている。

『おとなの週末』2023年7月号・P23

 「まずは○○を見て」と写真を見てもらうことで、興味を引くパターンのつかみです。「見てください」「見て欲しい」でも良いですが、この場合は「見て」のほうがインパクトがあります。
 せっかく写真があるのですから、文章だけではなく写真も使って引き込んでいくというのはアリですよね。

 代官山「OMUSUBI CAFE」の記事のつかみも参考になります。

おにぎりの味には作り手の人柄も表れるのだと思う。素朴な形に詰まったやさしさは店主の矢澤さんの真っすぐな姿勢そのもの。 和食の料理人として約20年、まかないで評判だった「おむすび」に着目し、自身に子供が産まれたことをきっかけに「家族に作るように、 安心でやさしい味を届けたい」と無添加のお惣菜とおむすびの店を始めた。

『おとなの週末』2023年7月号・P25

「和食の料理人として約20年、まかないで評判だった『おむすび』に着目し…」、もしくは「素朴な形に詰まった…」から始めたくなるところですが、つかみとして少し弱い感じもします。

それと比べて、「おにぎりの味には作り手の人柄も表れるのだと思う」と書き手の主張から入ると、どうでしょうか。
客観的な文章のなかに主観的な文章が入ってくると、読んでいてひっかかるので、興味をひきます。

また「おにぎりは人柄も味わうものだ」という書き手の価値観をつかみに持ってくることで、おにぎりの新たな楽しみ方を読者に伝える役割も果たしています。

雑誌の特集記事をひとつ見ていくだけでも、いろいろな「つかみ」のネタが得られますね。ぜひ参考にしてみてください。


※私が書いた「文章のつかみ」に関する本もよかったらどうぞ!




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