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EC爆伸び時代における商業施設の価値ってなんぞという話

気づけば最後のポストから1年半以上経っていた。最後のポストが2020年07月で、その前は2019年の新しいプロダクトローンチで当時の記事は新しい取り組みをスタートした時にしたためたもの。

当時からこれまでの軌跡や、その後に起こったパンデミックを経てどのように社会、あるいは自分たちの考え方、取り組みが変化したかを本線としつつ、改めてタイトルにあるような商業施設の価値とはなんぞという話を自身の思考整理の意味も含めてこのタイミングに記しておきたい。
まずは 2019 年 10 月にローンチしたプロダクトについても少し触れておく。

詳細は過去記事に任せることとして、この時点では商業施設と消費者の「接点」たる、建物の中身をテクノロジーを通じて最適なものへと変化させるための支援がこの先の商業施設にとっても重要だと感じていたし、その考え方は今でも変わらない。

それから 2 年と少し。本日新しいプロダクトのリリースを行った。
詳細、背景やこれからについてはプロダクトを担当している竹信やCOO/CFOの薮本の記事を参照いただくのが良いだろう。

大きく変わったのは、そもそも商業施設とは自らも含む消費者にとって一体何が価値なのか、という問いに対しての自分達なりの現在の解であり、その部分を深ぼって触れていきたいと思う。

その答えの前に私自身のバックグラウンドに少し触れておくと、インターネット広告を中心としたデジタルマーケティング領域が長く、そのキャリアの中でオフラインが持つ可能性を再認識し、現在の会社の創業に至る。

ただし創業当初の解像度で言えば、これから EC を中心として様々な企業がデジタルを背骨に商品流通や販促活動がシフト、その上で実店舗の領域はメインストリームからサポーティブなものに変化し、実店舗領域にとって必要不可欠な商業用不動産の取引も伴った形でフレキシブル化、リキッド化が進むであろうというもので、これがサービス開始当初の 2015 年時点での考え方だった。
※筆者は商業用不動産領域で、フレキシブルに商業スペースを取引できるプラットフォーム「SHOPCOUNTER(ショップカウンター)」を提供している。

今振り返ると、これは半分正解で、半分不正解だったと思う。

正解とは(正解だと思える確信度のようなもの)何のことはない、自分達自身のサービスを必要としていただける不動産オーナー/不動産管理者の方々の増加とそれらの利用を希望する出店ユーザー数の増加、それらの取引数の増加である。

2020 年 4-5 月の初めての緊急事態宣言発令以降、実世界での新規の店舗展開のニーズというものは劇的に低下した。
常設店は言わずもがな世の中の人流が減ることで、新型ウィルスの特性もよくわからないままリスクを負って実世界でセールス、販促を行うことはフレキシブルであり低リスクでもあるポップアップのような形態を持ってすら抗えなかった。
しかし次の四半期、さらに次の四半期と時を経るごとにみるみる回復、成長していくトランザクション数。

これは一緒に働いてくれているメンバーの皆さんのありとあらゆる試行錯誤やその努力の結果に他ならない。本当に心強い人たちと一緒に働けている。

一方外部環境という視点で見た時にやはり新たな売上を生み出す、販促活動をするといった目的を持って店舗を出店する手段として、これまでのような5~10 年といった単位での長期的な賃貸借契約、それに伴う多額の保証金は避けられる傾向にあった。
時を同じくして私たちのサービスのユーザー数やトランザクション数はと言えば、右肩上がりに成長し 2021 年ではコロナ禍以前の 2019 年比で約 2 倍ほどの取引量を達成した。

多くの大手小売チェーン(専門店領域)の売上が 2019 年比で 100% を割るか少し超えるかといった状況の中、小売売上高に対して出店者数やその回数(または規模)という指標こそ異なり比較はできないものの、ポップアップ形式を活用した小売やプロモーションは我々の実績ベースだけでも大きく増加しているほか、ユーザーアンケートなどを通してポップアップのようなフレキシブルな店舗展開を望む出店者は多く、新たな時代の出店様式として着実に根付いてきている。

一方不正解だったという気づきは何か。
それはオフラインはサポーティブなものに移行する=店頭での売上ではなく、オンラインだけでは提供できない価値をオフラインも含めてサポートするという意味合いで考えていた点だ。
語弊を恐れずに書けば、店頭では中々売り上げが作れなくなるのではないか≒購買はECに寄せるのが合理的なのではないか、消費者はそれを求めるのではないかという仮説だった。

もちろん全てのカテゴリー、商材に当てはまるものではないという前置きはしていたものの、つまるところそのように考えいた。
しかし事業活動を続け、サービスを利用いただいている出店者の皆さんの売上などを見てきた限り少なくとも当面においては正しくない解釈だと改めた。
現在の解釈は、

人が欲しいものを、欲しい場所、欲しいタイミングで提供すると売れる(買っていただける)

だ。

これはオンラインとかオフラインとかそういった話ではなく、むしろ商材やその商材が提供される場所、そこに紐づくモーメントとそのモーメントの消費者心理こそが重要だと考えるようになった。(もちろん店頭での消費者接点以前の関係構築は言わずもがな)広義のマーケティングといった観点で捉えた時に何を今更、という話だとは理解しつつも、実体験を伴って本当に腹落ちしたのだ。

その前提を持って、上述した消費者にとっての商業施設の価値とは何か。
それは身体性を伴う形で(商業と身体性の関係はこのポストでは深掘りませんが重要だと考えている)

  • 商業が集積し、一度の来訪で複数の目的を果たせる利便性

  • 商業が集積し、目的がなく来訪しても時間を消費できるエンターテイメント性

だと言えるのではないか。
※余談だが集積やその形態についてはこのような研究も進み、少しづつその意味するところが科学的に明らかになってきており、都市設計のみならず商業施設作りにおいても適応可能な考え方ではないかと思う。

そしてこの2つの価値が正だとすると、商業施設運営にとって最も大事な部分は、「 利便性とエンターテイメント性を追求した形で常に消費者が求めるものがある状態を維持/更新し続ける」である。

つまり、どのようなテナントで構成する場にするのかというマーチャンダイジング消費サイクルに合わせて求められるものを提供し続ける(鮮度を保てる)運営/仕組みに他ならない。

ショッピングセンター業態は元々これらの観点から定期借家契約(ここでは大雑把に書くが借り始める日と退去の日があらかじめ決められており、基本的には退去の日をもって契約が終了する(※もちろん再契約や早期退去のケースもあるが詳細はここでは触れない)が基本だ。これは従来から目安となる契約期間は大きく変わっていない。

しかし、10 年前 20 年前と今日の消費サイクルのスピードは明らかに違う。
多くの人の手元にはいつでもインターネットと接続され、集合知や友人知人、1:n にいつでもアクセス可能な状態にある現在、その情報量と情報流通速度は何十倍何百倍にもなっているであろう事は明らかだ。
つまり、先ほど上述した

消費サイクルに合わせて求められるものを提供し続ける(鮮度を保てる)運営/仕組み

これは、求められるものを提供し続ける頻度と速度が上がることを意味する。

しかし商業施設の運営体制は一般的には大きく変化したとは言えない。
5~7 年の定期借家契約を基本としたリーシング活動がメインのまま、コロナ禍を経て出店側からの短期ニーズに応えなければならないシーンが増加している今もなおである。

前回のポストに 2030 年の商業施設はどのようになっているのか、という観点で様々な予測を書いた。
少しずつ実験が始まっている分野もあれば、実用化を始めている企業もちらほら出てきている。
しかし、前回のポストで抜け落ちた重要な視点として我々も含む消費者は商業施設に一体何を求めているかであった。

来店されるお客様を良く知り、お客様の体験価値を向上させる為の基盤

https://note.com/naosan/n/nf647ecf5a3c2

このように施設に来ていただいた「後」のことを中心に考えられていたポストであったが、そもそも最も大事なこととして、あるいは大きく変化しており対処が必要部分として、消費者にとって商業施設そのものの価値とは何か?行く価値は何なのか?
という点について再考し、辿り着いた現段階での結論が「集積と編集とその鮮度」であり、それを担保あるいはアップデートし続けるために真っ先に取り組むべきなのは商業施設運営におけるバックエンド業務、特に変化が著しいリーシング及びその附帯業務である。

もちろん全ての区画が短期化する未来が望ましいわけではなく、パーマネントな区画というのはあるべきだし、そうでないと消費者にとっての利便性を落とす業種や業態もある。テナント及び施設にとっての人材採用、内装投資も含め経済性の観点でも同様にあるだろう。

しかしテナントからの要請として短期化しつつある出店ニーズに対応することを考えれば、その一部をフレキシブル化していく事は避けられなくなっており、直近では 1 年間の定期借家契約が決まった、というような話も出てきている。
これは定期借家契約と捉えればこれまでの延長だが、筆者はフレキシブル化が進行していると捉えている。つまり、定期借家契約とこれまでのイベント利用、催事利用契約との垣根が溶け始めているということだ。

そして 1 区画に対して 5-7 年に一度行う業務フローやツールをもってして、例えば 1 週間出店 x 52 週をリーシング及びマネジメントすることは当然相当な苦労になる。

さらに 1 つの区画を一人の専任担当者だけで運用するならまだしも、そういったスペースが 1 つの建物に複数箇所存在し、その建物を数十や百単位で管理、その業務に関連する方も数十〜百人単位でいる場合、これまでのような紙やエクセルを利用した非同期的な空室管理、物理的なハンコが必要な稟議や契約書、従来のリーシングと近いプロセスでの情報共有や進行管理では運用難易度が高いのは明らかである。

そして最も重要な視点として、商業施設の本質的な価値であるどのような集積や編集であるべきか、入居しているテナントに対してどのような支援をすれば成果が向上するかというコア業務に割く時間が意識せずとも失われていってしまうこと、つまり未来価値に対しての現在投資が減り、その結果消費者の期待に応えられないものになってしまうこと。その点こそが目の前の大きな課題として立ちはだかると感じている。

少々脱線するが、過去在籍した会社のミッションに「人に人らしい仕事を」というものがある。
これはテクノロジーによって人が行なっている汎用的で反復的、計算的な機械が得意な領域は機械に任せて、人にしかできない仕事をできるようにしようという趣旨であり、個人的にも非常に共感が強い。
テクノロジー企業かくあるべしと捉えているし、その考え方は弊社も強く影響を受けている。

商業施設を運営する皆様が、煩雑な事務作業や工数がかかる管理から解放され、消費者と入居テナントにどのように素晴らしい場所を提供できるか、素晴らしい場所にし続けられるかというコアな仕事に貴重な時間を割いていくことこそが未来の商業施設を繁栄させる重要な現在投資だと考えている。

そしてその課題に真っ向から向き合い、解決するための製品及びサービスとして SHOPCOUNTER Enterprise をリリースしたわけだ。

タイトルの通り、新型ウィルスによって爆発的に成長した EC マーケット。
進行速度はさておき、まだまだ EC での購買が成長するその時代においての商業施設とは何なのかというテーマで書いてきた。

このポストを通じて特に商業用不動産に関わる皆様に伝わると嬉しいポイントとして、我々はこの産業における Disrupter ではなく Enabler であり続けたいと考えているという点である。
商業用不動産やその取引方法やそれにまつわる需要側と供給側の事務作業や管理業務。
皆さんの価値ある仕事を、その価値の部分をさらに拡張していくために機械を活用し、人間しかできない仕事に時間を割けるよう、人間が行ったほうがもっと有効な仕事を生み出し続けられるよう、
産業のバリューチェーンを、来たるデジタル前提の世界のものにしていくための伴走者だと自負している。

テクノロジーが進化した未来においても現実世界は存在し、商業用不動産は世界を支える様々な商いの貴重なインフラであることには変わらない。
AR, MR,Metaverse など進化の著しい仮想空間もしくは現実世界を拡張するためのテクノロジーも重要なピースになるだろう。
仮想空間か現実空間か?
もちろん真実は白か黒のような極端なものではなくグラデーションであることが大半ではあるが、少なくとも我々は現実世界が拡張されるような社会はより良い世界につながるのではないかと捉えている。

そして 2021 年の 10 月には会社のミッションを「すべての商業不動産をデジタル化し、商いの新たなインフラをつくる。」と再定義し、商業施設だけではなくあらゆる商業用不動産を次の時代に求められる形に適応し続け、消費者変化に合わせた形でその時代毎に生まれる新たな商いを支援する環境づくりに伴走していきたい。

新たなテクノロジーによって消費者が変わり、消費者に合わせた形で商いが変わり、商いが変わる形でインフラが変わる。
商業用不動産は間違いなく商いが変わりインフラが変わるその変化のタイミングに差し掛かっている。

まだまだ足りない。より良く出来るはず。
心からそう思うと共に、それは過去の努力や成果の否定ではなく肯定であり、限りなく大きい未来への可能性とその姿とのギャップである。

ギャップを埋めていくための銀の弾丸はない。
道のりは日々少しづつ書き変わりはするが地図はあり、目的地は定めている。

そして目的地に行く過程の産業全体のトランスフォーメーションという大仕事を成し遂げるためには様々な得意分野を持った仲間が必要不可欠であり、月並みな締めくくりにはなるが、この大仕事に興味を持っていただいた方がいれば、ぜひこちらの採用情報も参照してほしい。

採用のみに関わらず、お仕事のご相談はもちろんパートナーシップやその他雑談なども大歓迎なので、ぜひ twitter などから DM などお待ちしております。




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