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私のルーツを思い出したい時に見る映画 '大人の見る繪本・生れてはみたけれど'

監督 小津安二郎 1932 (サイレント)


1930年代は、私の心惹かれる時代だ。私の祖父母の時代。だって、みんなカッコ良く見えるんだからん。日本はその頃まだ着物が普段着の人が殆どだったのではないかな。お父さんは会社から帰宅すると帽子とカバンをお母さんに手渡し、そして背広を脱いで着物に着替える。日本社会でサラリーマンという働き方が始まったのが1920年代。そこには昭和初期の家族が描かれている。

私は、日本で一番人口の少ない県で生まれ育った。近所には空き地が幾つもあり、もちろん当時、土管も置かれていたよ。ほら、ドラエモンに出てくるみたいな。(もしかして、21世紀の今はドラエモンのに描かれている風景は変わってるかもね、きっと) 私の遊び場は、毎日、山の中。やっと補助輪無しで自転車に乗れるようになったある日、自転車で15分ぐらいのところに新しく建てられた市営住宅に遊具があり、初めて遠乗りに出かけた。風をきって回る鉄の遊具は、を私を宇宙へと誘う。すっかり夕暮れ時になり、家の近くまで来てみると、お友達のお母さん達が、行き先を言わずに出かけた私達を探していた。ちょっと怒られちゃった。うちは共働きで、私はかぎっ子。だから夕暮れに帰っても怒る親もいない。学校から帰宅して、テレビの音がしてストーブの上で洗濯物を乾かしている風景や、お母さんがおやつを出してくれて今日あったことなどを聞いてくれる。そんな情景にすごく憧れていた、子供時代。

もちろん時代背景はかなり違うけど空き地や、登場人物の着ているもの、御用聞き、鼻を垂らしている子、下駄や長靴の子供、ちゃぶ台や水屋。そう言えば、そんな光景が私の育った中にあったなぁと、しみじみ感じるのよ。この映画は、小津安治郎、特有の低い位置でのカメラワークが子供の目線と被るし、時には画面からはみ出したりと、彼の感性にはため息が出る。無声映画っていうのも、なんだかタイムワープしたみたい。

私は庶民的な物が好き。なんで惹かれるのかなぁ。きっとそれは何気に使っている物の中に、美を見るからなんじゃないのか?日々そこに住む人のよって使い込まれた存在感。物と人の共存。日用品に職人によって積み重ねられた、手仕事の価値を見出した民藝運動の創始者、柳宗悦が持っていた愛の目線なのかもしれない。

そんな暖かい愛を感じることができる。かつて私が欲しかった暖かい家。



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