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映画館で彼に"向き合えたこと"がどれほど大事か

アカデミー賞を受賞し、今も話題となっている『ムーンライト』
本作は過去に映画業界からタブーとされてきた性的マイノリティを題材とした映画だ。

これが映画館で上映されていることがどれだけ素晴らしいことか、改めて考えた。

今までこの手の作品は公開されてもミニシアターや小さなスクリーンで細々としていることが多かった。もちろん見ていたのは本当に映画が好きな方々など、ごく一部である。

しかし、今回はアカデミー賞の受賞効果もあり、日本での宣伝費用も多く出せたため、シネコンの大きなスクリーンで大々的に上映されることとなった。(ファントムフィル様に感謝)。そうなると今まで鑑賞者は一部で留まっていたが、「あ、賞とったなら見てみようか」「これ今やってる中で一番大作みたいだな。」と言って何気なく見る人が増えるわけだ。

驚いたのは映画館で、

「これどんな映画だっけ?」
「あ、確かどっかで見た気がする。面白いらしいよ。見てみる?」

と会話している男子高校生がいたことである。
多感な高校生がシビアな題材の映画を見ることなんて、まずないだろう。友達と盛り上がれるアクション映画を普通選ぶ。

この作品の中では、直接的に映像では写してはいないものの、同性での性的描写も含まれている。そのシーンでは、月明かりの中、ゆっくりと、カメラが二人の男の姿を切り取っていく。

これがなかなか強烈なもので、館内にいた耐性の中おじさんなんかは、あんなシーン気持ち悪いと終了後に軽く罵倒するぐらいだった。

正直、自分も少し目を背けてしまいそうだった。

それでも映画館という閉鎖的な空間の中では、目を背け続けることなどできず、じっくりと向き合うことになった。

それは作品自体にも、自分に対しても。

映画というフィルターを通して、単純に美しいと思いながらも、自分がそうでない故に少しでもマイナスな感情を持ってしまったことは紛れもない事実だった。

おそらく前述した男子高校生は、鑑賞後に悪態をついたかもしれない。

友達がいる手前、わざと茶化して面白がったりするのが思春期の男子。

でも、あの暗闇の中で、シャロンという一人の人生と確かに向き合ったことは、彼の価値観を大きく変えただろう。少なくとも、この作品に出会わなければ存在しなかった何かが心のどこかに芽生えたはず。


映画は確実に社会を変えていく。

『ムーンライト』鑑賞を経て、そう強く感じることができた。


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