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「書く私」になる勇気をくれた出会い #やさしさに救われて

4年前のこと。

正体不明の感染症による突然の休校。
子どもたちだけではなく、私たちの外出が制限され、すべてが「閉じ込められた」日々が続いた。

次から次へと変わる指示にヘトヘトになり、休校中といえども私たちは、
毎日を張り詰めた気持ちで過ごしていた。

その頃、家と職場以外に私の居場所はなかった。

職場でも、休校中の業務、特にリモート授業について消極派が多く、すぐにでも取り組みたい私は職場に居場所がなかった。
「できることをやらない」現状にいらいらし、毎日やけっぱちで過ごしていたのだ。

そんな日常の中で、自宅の近くに「絵本カフェ」があることを知った。

小学校で先生をされていたオーナーが、早期退職をして開いた店だ。

前から気になっていたけれど、初めて行くには勇気がいる。
そもそも、「行きつけの店」なんてものは、私には無かった。

決まった店に酒を飲みに行くことや、喫茶店に行ったこともない私に
とって、「はじめて行く店」のハードルは思いのほか高かったのだ。

でも、この閉塞感いっぱいの日常をなんとか打開するために、何か行動するしかない。
ある金曜日、仕事を早上がりをしてその店を訪ねてみた。

なぜ、金曜日かって?
金曜日は、その店で子どもたちを集めての「お話し会」(読み聞かせ)が
ある日だったから。
初めてでも、少しハードルがさがるかな?と思ったのだ。

住宅街にあるその店に、子どもたちと親、近所の人が集まっていた。
オーナーのギター伴奏で歌い、絵本を読み、それが終わるとおやつタイムだ。
お話し会が終わる頃、こわばってがちがちになった自分の精神が、ほぐれていくのがはっきりとわかった。

その日がきっかけとなり、私はその店に足繁く通うようになった。

行くときは、いつも一人だ。

ぽつりぽつり、自分のことを話すようになったけれど、
これまで抱えてきた「しんどさ」を吐露してしまうまで、けっこうな時間を要したと思う。

もう、仕事を辞めてしまおうかと思っていた。

仕事のこと、家族のこと、思い通りにならないこと。
本が好きで、それを仕事にしたいと思っているけれど、
その難しさ。
生徒たちにしてあげたいことは山ほどあるけれど、自由にしてあげられない
もどかしさ。

「もう、限界なんですよね。全部やめてしまいたい。」

今まで我慢して、蓋をして、
だれにも言えなかったことを口にしたとき、涙が出た。

黙って話を聞いていたオーナーは、こう言ってくれた。

「いいんだよ、ここはそういう場所だから。」

親や家族以外に、そんな暖かい言葉をかけてもらえたのは何年ぶりだった
だろうか。

話していくなかで、
小さな本屋をやりたい。
その一方で、文章を書きたいと思ってきたけれど、
勇気が出ないことを打ち明けたとき、

「まずは、できることから やってみたら、いいじゃない。」

そう言ってもらえた。

休校で時間があったこともあり、
初めて「ブログ」というものを作り、
自分で文章を書き、公開した。

今考えると、恥ずかしいくらいの出来だったけれど。

そのことを報告すると、我がことのように喜んでくれた。

私の「ものを書く」出発点は、そこから始まっている。

もし、そのとき、その店に行っていなかったら、
ひげさんと、すみよさんに 出会っていなかったら、
その店で 出会った皆さんに、出会えていなかったら、
きっと、今の私はいない。

こんなふうにして、読んで下さる人がいる
noteというこの場に、私はいなかったと思うし、
ライターを志すなんて、思いもしなかっただろう。

あんなにいやだった、辞めたかった仕事も、
今は、ちゃんとした「逃げ場」があるから、
冷静に向き合い、最後までやりきりたいと思えるようになった。

新参者のわたしを、暖かく受け入れてくれたオーナー夫妻。

私にとって、とても重たい扉を開いて出会えたのは、
あたたかく、やさしい、コーヒーの香りがする
ほっとする、心の「居場所」だった。

親としての私、仕事をしている私、妻としての私。
そこに行き詰まりを感じていたとき、
何ものでもない私、素のわたしとしていられる場がある。
それだけで、わたしは自分を取り戻すことができたのだ。

苦しくて辛かった私が、
あたたかい人々が集う場所に救われたように、
今度は私が
ものを書くことで、そのやさしさを誰かに手渡すことができたなら。

「いらっしゃい」の笑顔と 一杯のコーヒーが
私の心を癒やし、支えてくれている。

たったそれだけのこと。
でも、誰かにとっては、
人生を救われる大きな出会い。

私の書く文章や言葉も、
まだ見ぬ誰かに届くことを信じて
これからも、
書き続けていきたい。



#やさしさに救われて

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