見出し画像

うそつきで ごめんね

3月24日は、1年の締めくくりの 修了式。

そして、 離任式でもある。

 今までお世話になった先生方とのお別れの日。

 見送られるのは、もう、何度目になるんだろう。


 3月始めに、職員の中で内示があり、私の異動先が決まった。

 内示を受けた自分は、意外と淡々としていた。

 正直、あまり気が進まないけれど、文句は言うまい。

「ご栄転」なんて、言葉もあるけれど、何をして栄転というのかしら。

 複雑な気持ちを抱えながら、授業へ向かう。

離任式まで、決して生徒には知られてはいけない。

 ぱしぱしと顔をたたいて、「いつも通りの顔」の自分を確かめてから 職員室を後にした。


 新聞発表があり、離任式で発表されるまでは、人事異動は内緒にしておかなければならないのだ。

 うっかり口を滑らしてしまえば、お終いだ。

 この日から、嘘つき生活が始まる。

何食わぬ顔で、あと、20日。

 この秘密を 守らなければ。


 今の時期、生徒達は、もう、次の学年のことを考えている。

 小学校から、来年の1年生が来る「体験入学」が行われる時期だ。

 今年はコロナのため、こちらから「出前授業」をしたが、そこに行った先生は、次の1年生の担任になる、とか、いろいろな都市伝説並みのうわさが立つ。

 卒業した生徒の兄弟なんかもいたりするので、保護者の中でも、きっとそんな話が出ているんだろう。

 在校生も、修学旅行やら、新年度早々に行事がある学年もあり、年度末から準備をする。

 授業でその内容を関連させて作文なんぞ書かせた日には、

「先生も行くんですか?」とか、質問攻めになる。

 「行けると良いね~」とか笑いながら言いながら、胡麻化すのだ。

 本当は行けないんだけどね。

 異動になってしまうことは、まだ言えない。

いろいろと、ウソを言ってしまっている。

 みんな、本当に、ごめんね。

 生徒に感づかれないように、こそこそと特別教室にある荷物を片付け、 誰も居ない放課後に、車に積み込む。

  何だか、自分が悪いことをしているような気分になる。

 3月24日までの辛抱だ。


  その日が済んだら、すべてが白日のもとにさらされる。

  ということは、私がついてきた数々のウソが暴かれることになるのだ。

「先生、行かないって言ったじゃん。」

 「えー 何で?」

 「英語、どうすんの!?」

 「次の先生、誰!?」

  だいだいこんな感じで責められる。

「ごめんね。」

  何で謝っているんだろう。悪いわけでもないのに。

 でも、謝らずにはいられない。

  薄々気づいていたのに、こんなことを言う君たちに、私のほうが、だまされていたのかもしれないね。


  ずっと、だましていてごめん。

ようやく、本当の事が言えるよ。

 君たちの 卒業する姿を見送りたかったけれど、それは叶わなかった。

  それだけが、心残りかな。

でも、ここまで一緒に来られて楽しかった。

  君たちなら、きっと大丈夫。

  出会えて 良かった。

  この言葉は 決して うそじゃない。

6年間 ありがとう 

  そして さようなら。


  ”Au revoir!  ”

  ”Je suis ravi d’avoir fait votre connaissance.”

https://youtu.be/pbhtW4rLaS0

 












この記事が参加している募集

#仕事について話そう

109,959件

サポートありがとうございます。頂いたサポートは、地元の小さな本屋さんや、そこを応援する地元のお店をサポートするために、活用させていただきます!