里の朝、台所でショパン
使い込んだ流し台の横で極上の時間を始める。
昔馴染みの珈琲店で挽いてもらった豆が
フィルターの中で蒸れるのを待ち、
何回かにわけてお湯を注ぐ。
コーヒーの粉が見事に膨らむのを見ると
小踊りしてしまう。
今朝もいい感じだ。
芳香を吸い込むと
玉葱を切ってしみたままの涙目が
すっと落ち着いてくれた。
朝の儀式に私はショパンのラルゴをかける。
30年前のCDラジカセ…
よくぞ動いてくれました。すごくうれしい。
曇りガラスの北向き窓の外は、とても明るい。
コーヒーの前で頬杖ついてチョコをつまむと
今朝はウイーンのザッハトルテが浮かんだ。
王室御用達の菓子屋デメルとホテルザッハが
ケーキの本家を取り合った裁判沙汰の話。
マリア・テレジアの古い手紙にココアのシミが残っていた話。
ここから遠く離れた異国の逸話を思いながら
コーヒーとショパンを堪能する、
こんな朝の幸せもあるっていうのが
ようやくわかるようになった。
何十年もの間、
どれだけ前に進んでいるかばっかり気にして、
その場の生活は上の空に近かった。
第二楽章が終わるころ、
イヤホンを外すと、
テレビの大音量と一緒に母が私の名前を呼ぶ。
今日もタイミングぴったりで笑ってしまう。
大きく返事をして、
母さんもコーヒー飲む?と聞くと、いつも、
うん、という。
母は父の好きだったインスタントに砂糖2杯。
これまた格別の香りを漂わせる古いカップをかき混ぜる。
物置きになっていた実家の2階を片付けて、
こんな朝のことを書くようになった。
さて、これからどうしよう。
また郷里の図書館にいって
ノートを開いて考えてこようか。
この曲を昨年すでにご紹介されている方がおられます。
アダージョ・バッハさんがアルプ・スナフキンさんだった頃の記事です。
山と本、芸術に造詣の深い紳士です。
投稿からは久しく離れておりました。
久しぶりの記事を
ご覧くださってありがとうございます。