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幕末の海で 男神がささやく

それは確かに耳から入る言葉ではなかった。
脳ずいから頭全部に染み出るような。
数日前に開国の舞台浦賀を巡ったときの
ことを書こうと思う。

なぜか気になる場所がある。
理由のわからぬ感情が湧き出る。
私にとって浦賀とはそんな存在だ。
初めて訪れのは20年前、
黒船来航の書物を読んだのきっかけ。

奉行所与力、香山栄左衛門。
黒船に乗船しペリーと交渉に当たった人物だ。
世間的には年長の中島三郎助が有名だけど、
米国の記録には
上司から香山に代わったことで
双方に友情が芽生えたと書かれている。

ペリーは交渉に皇帝を出せと要求し、
江戸幕府は皇帝の次に高位の者と大嘘をついて与力を出した。
相手の言いなりでは威厳を保てぬらしい。
香山は幕府の現状把握の甘さに、
怒り心頭だったに違いない。

身分を偽った香山は開国以後、目立つ部署には出ずに役人人生を終えている。
我が国を開国に導いたのは、彼の本質的魅力と侍の覚悟だと私は思っている。

数えるほどの資料にしか登場せず、
風貌もわからないのに
私は彼に惚れ込んだ。我ながら困った性格。

細長い浦賀港の東と西に『叶神社』がある。

西の社は香山が奉納した『白龍』の額があり
何度か詣でたが
東の社は今回が初めてだった。

お宮への段を上がり始めてすぐ、

コロコロっと何かが石段を転げ落ちた。
見ると、麦わら帽に巻いた飾りの縄紐が切れ、
飾りの玉が落ちていた。

ふと、なにかが外される予感が漂う。
お宮に手を合わし終えると裏山の石段がある。
案内によると、本殿はこの上らしい。

寄らずにいくのも後味が悪い。
急な石段を何十段、かなり登って着いた所は、
野生的な太い木々が茂る。

木々に守られた小さな本殿と
『勝海舟の断食の跡』だ。
開国後アメリカへ発つ前、勝海舟は社の井戸で禊をし、本殿前の地面に座し、長い航海の安全を祈願し食を絶って体を整えた。

香山栄左衛門、通訳をした堀達之助、勝海舟。
命懸けで開国に臨んだ彼らを想い浮かべた。

この平和にいる自分、感謝だよな。
あたりまえのことが胸に浮かんで、
すると、不気味な景色に日が差し、
アゲハ蝶2羽が前をヒラヒラ飛んでみせた。

西海岸に移動し、浦賀奉行所跡へむかうと
以前には幾つかあった建物が、
一切無くなり市の指定文化財になっていた。

その広い砂地を見たとき、忽然と
2ヶ月前に踏んだアラブの砂地が蘇った。

鎖国とは日本人をも永久に締め出した策だ。
海で遭難した日本人を救った外国船が、
彼らを帰してやろうと送り届けているのに
幕府は大砲を向け拒絶した。

祖国を前に失望し泣き崩れる日本人を、
異国の船乗り達が慰めたという。
私は漂流民だったのかもしれない。

砂地の奉行所を後にすると、

裸足、裸という言葉が浮かんだ。
漂流者の姿か?ヌードのことか?と思うと、
速攻で、違う!と返してくる。

…素のまま、ということか?
そうだ、そうだ、と男の言葉が側にいる。

そうだ、龍、須佐、八神、為朝、
あらゆる男神がおわす地を私は歩いていた。

すのままにしろ、という男神の囁きは
センサーのことなのかもしれない。
センサーの発信受信機は魂にあるのだろう。
魂をむき出しのまま、ということか。

私は今、幕末と現代に関わる話を書いている。
刀を持たないサムライが出てくる。
筆が止まった理由を
自分の怠惰のせいだと責めていたら、
そうではないと夢で伝えられ、
夜明けを待って開国の海に行った。

おかしな告白なのだけど、
30年前から美しい地球が好きだよ〜と言って
地球が終わる話を聞くと、何も出来ないくせに泣けてきた。

なのに今回、
そうはいかないのだ、と、
淡々とした太い声が脳ずいから滲みでる。
ああ、地球はいつか人間を追い出すのだろう

その時、新種は生き残り、古い種は絶える。
それが宇宙の理なのだと。

先日、立ち寄った本屋で速攻見つけたのが、
月面着陸に成功したアポロ宇宙飛行士を取材した立花隆氏の本だ。

最後の章を締め括る宇宙飛行士が語っている。

ガイヤに新しい種が生まれる。
それは人類が地球外に生息し生き残るために、
自ら生み出した種だ、と。

鎖国、月面着陸のアポロ、領土争い、破壊行為、人間を覆う大量で根深いグレー気分。
それら諸々を経て、人間は未来に
予想外の新種を生み出すのだろうか。

お前ごときがなにを言っていると言われても、
地球に必要な開国があるのかもしれない。

浦賀駅への帰路を歩く。
忘れられた地元政治家のポスター、
都合により休む美容室の貼り紙、
シワシワの手で新聞配達をする老いた男性、
ここに通い続けるクレイジーな自分、
いろんなものが見える。

泣けてきた。
神なるものはすべてを愛しみながら、
然るべきことをするんだ。

そうである、とすぐに湧きでて空に広がる。
だからこそ、愛しめ、と。

心ある人々、企業、芸術家、科学者が、
ガイヤの事実に向き合い、
世界で行動をしている。

新しい種の芽生えに加わるかどうかは、
自分次第なのだろう、きっと。

愛しめ、また言葉が青空に拡散していった。

いただいた、あなたのお気持ちは、さらなる活動へのエネルギーとして大切に活かしていくことをお約束いたします。もしもオススメいただけたら幸いです。