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(1)起業家になった必然的なはなし。

私の起業のきっかけは、とても必然であり、不純な動機である。

必然とは、自分が起業家の家庭に生まれたために、細胞レベルでそれが組み込まれていたということ。子供のころから父が社長業だったから、なぜか私にとっても当然だった。でも物心がついたときにふと悟ったのだ。私は父の会社を継ぐのではなく、自分で一から起業するのだと。

メーカーを経営する父親の業種は、製品づくりの過程には不可欠な「不純物や金属や異物を取り除く探知機」を製造する特殊機械メーカーである。第一種無線技士という国家資格のもとにその機械が作られ、それを必要とする日本全国、世界の企業に対してゼロから企画し、製造され、販売までを行う企業だ。なぜだか父は子供たちに自身の会社を継がせようとしなかった。いや、正しくいうと、父は今も、よわい80を超えたが、現役社長であり、社長の椅子をいまだに譲っていない。何度か後継者を育てたし、考えたようだが、不運が重なり継承できず、いや継承したくなかったのではないか。だから、いまだに移譲していないように思うのだ。

よく飲食などで秘伝のタレを極秘に管理し、決められた人物にしか教えない話があるが、父はさらに言うなれば、誰にも秘伝のタレを教えない上に、教えられない。職人はうまく説明がつかないのか、聞いてもさっぱりわかる説明が得られない。異物を探知するその機械は無線の周波数で探知していくが、その使用環境によっては相当な電磁波やノイズの影響を受けるという。そのため「定型の機械」がなく、その都度、環境に応じ設計を変えているという。

「これは自分にしかできない」という前向きな勘違い。

あたかもノーベル賞を受賞される研究者の先生ような独自理論と、探求心、自尊心、そして楽しくて仕方ないという遊び心によって事業がなりたっている。

それを悟ってからは、私も社長にはなるのだろうが、父の業種を継ごうなどとは考えることはなかった。ただただ、そのような父のもとで育ったがゆえに、「探求心」「自尊心」「遊び心」の3点セットだけが継承され起業したのだ。理由は、そう定めて生きてきたから、というでしかない。だから、これがしたいわけではなく、すべては探求心なのだ。(つづく)

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