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こーなってもああならないし、ああなってもこーならない

みなさまこんにちは。今日も元気でお過ごしでしょうか15

私たちの人生には、「あーなってもこうならない」し、「こーなってもああならない」ことが多々あります。でも、私たちは何故か、 「こーなったらああなるし、ああなったらこうなる」と思い込んでしまう傾向があります。

例えば、何かを人に伝えたり話したりする時、「私がこう言うと相手はああ言うに決まっている。ああ言うと、こうなるに決まっている」と思い込む。「いつもそうだから」という正当な理由があるんですけど、これって、よく考えてみると、パブロフの条件反射です。あの実験では、犬に何かしらの合図を与えて、それと食べ物を与えるタイミングを一致させ、Aが起こるとBが起こる因果関係を記憶させるのですが、何回かこのサイクルを繰り返すうちに、合図があると、犬が食べ物を予期して唾液を出し始めます。ワンちゃんの芸などもこうやって仕込むようです。

 私たちの中に仕込まれているロジック、因果関係には、様々なものがあります。生理的な種類のものはもちろん、仕事や恋愛関係でも、自分が知っている因果関係に沿って「こーなったらああなる、ああなったらこうなる」と思い込むことが多いのです。「私がこう言うと相手はああ言う。そして、ああ言うとこうなるのだ」

しかし、果たしてそうでしょうか?、こうした頭の中に組み込まれてしまった因果関係に疑問を持ち、独自の創作のアプローチでその枠を崩していった芸術家や思想家は少なくありません。太田省吾さんもその一人です。*

演出家故太田省吾さんの沈黙劇『水の駅』では、様々な過去を抱えた人物が、壊れた水道の蛇口のある場所に立ち寄っては去っていくシンプルな設定の中で、様々なドラマが身体表現を通して繰り広げられます。そこに立ち現れてくるのは人間の不思議さです。老夫婦、赤い水筒を持った女の子や大きな荷物を運ぶ男達二人がとる行動は、予期しないものばかり。蛇口のすぐ前で抱き合い始めたり、蛇口の上に飛び乗ったり、二人同時に蛇口に口をつけて水を飲み始めたり。。。「まさかこれはないだろう」と思うことばかり起こるのです。行動と行動の間は、沈黙です。観客の想像力はワイルドに広がっていきます。

天啓劇場「水の駅」

シェン・ウエイと言う振付師も「こーなってもああならない」奇抜な時空間を作り出します。彼の作品を観ていた時、美しいダンサーが舞台を華やかに彩ったかと思うと、全く予想もしないところで、100個を超えるおもちゃのアヒルが一斉にステージをゆっくり横切る場面がありました。あれには「まさか!」と度肝を抜かれた人が多いのではないかと思います。由緒あるダンスコンサートでこれやるんですか?って。鬼才と言われる振付師のウイリアム・フォーサイスなんかも、マインドを吹っ飛ばす瞬間を作り出す天才です。

One Flat Thing ウイリアム・フォーサイス

「こーなってもああならない」瞬間を体験する時、私の中で何かがプチっと壊れます。脳みそに空間ができて、お腹の底から笑い出したい衝動に駆られるんです。期待を裏切られるってこんなにも楽しいものです。

 芸術ではなくても、日常生活で「こうなってもああならない」を生み出していくことは、可能です。いつも同じことが起こ理、いつも同じ反応をしているとしたら、まずは、自分の「こうなったらああなる」を見直してみてはどうでしょう。大きなことが難しければ、小さいことから試してみるのが良いです。テーマがコミュニケーションであれば、口調を少し変えてみるとか、反応する前に必ず一拍おいてみるのも良いです。いつも人に勝たなければ気がすまない人は、負ける練習から入ると良いでしょう。

 「こーなってもああならない」を一度味わうと、それがいかに自由な瞬間であることか体験できると思います。ぜひ実験してみてください。

*太田省吾さんの『水の駅3』という作品は、1998年に演出助手をさせていただいたこともあり、身近に彼の創作アプローチを吸収した時間でした。その時のことに関しては、英語ですが、こちらに書いてあります。

太田省吾
1970年より、転形劇場主宰。「小町風伝」(第22回岸田國士戯曲賞受賞)「水の駅」「地の駅」「やじるし」等の作品を発表。国内のみならず、欧米、アジアなど世界的な活動を展開。84年紀伊国屋演劇賞団体賞受賞。1988年劇団解散後は、1990年~2000年まで藤沢市湘南台市民シアター芸術監督、94年近畿大学教授、99年京都造形芸術大学教授を歴任。「風の駅」「更地」「砂の駅」「ヤジルシ-誘われて」「だれか、来る」などを国内外で上演。93年第1回タシュケント国際演劇祭グランプリ受賞。98年第6回読売演劇大賞作品賞受賞。著作に、戯曲「小町風伝」「裸足のフーガ」太田省吾劇テクスト全集、演劇論集「舞台の水」「劇の希望」「動詞の陰影」など多数。(戯曲デジタルアーカイブより)

ウィリアム・フォーサイスは、アメリカ合衆国における主要なバレエダンサーのひとりで、現代の最も先端的なバレエ振付家。モダン・バレエを解体し再構築することで、現在のコンテンポラリー・ダンスの歴史を造る。モダンダンスの歴史の中では、マース・カニンガムジョージ・バランシンが創った抽象的な振付が存在したが、ウィリアム・フォーサイスはその身体言語を先鋭的な解釈で提示したといえる。その作品と手法はコンテンポラリー・ダンスの範疇で語られる。(ウイキペディアより)

シェン・ウエイ
Born in China’s Hunan province in 1968, the son of Chinese opera professionals, Shen Wei was trained from youth in the rigorous practice of Chinese opera performance and traditional Chinese ink painting and calligraphy and was a performer with the Hunan State Xian Opera Company from 1984 to 1989. During his student years, he studied Western visual art, which propelled an interest in modern dance. In 1989, he began modern dance training at the American Dance Festival’s (ADF) program at the Guangdong Dance Academy in China. In 1991, at the age of 23, he became a founding member of the Guangdong Modern Dance Company, the first such company in China. Upon receipt of a fellowship, he moved to New York City in 1995 to study with the Nikolais/Louis Dance Lab and, in the same year, was invited to create work at the American Dance Festival. In July 2000, he founded Shen Wei Dance Arts (SWDA) and his company quickly entered the international touring circuit. (Shen Wei Dance Arts より)


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