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12の感覚

人間は五感を持って生まれてきていますが、「感覚」と呼ばれるものは、どうやら五つにとどまらないようです。アントロポゾフィスト(人智学者)で教育者のルドルフ・シュタイナー*によると、人間には、「魂への入り口となる」十二の感覚が備わっていると言います。この十二の感覚とは何でしょう?

以下、”THE 12 SENSES:Rudolf Steiner’s Expanded View of Human Sensory Experience” を翻訳してみます。 
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私達の意識は、肉体の意識から始まる。

最初の4つの感覚は、運動や知覚体験のレベルの感覚。

  • 触覚(境界線や端、体と体でないものの区別などを感じる)

  • 生の感覚(内に宿る命の感覚ー私は今どう感じているのか、「体という家」に気づきをもたらし、認識する)

  • 自分の動きの感覚(運動感覚、活動している体を感じる、運動感覚の記憶)

  • バランスの感覚(空間にある自分の存在を知っていること、ラバンのディメンショナル・クロス**のように、空間に個人個人をしっかり固定する自分の視点)

次の4つの感覚は、質の意識、そして「魂に対する感覚」

  • 嗅覚(良い・悪いー本能的な倫理観の体験と繋がる)

  • 味覚(何が健康でそうでないか、体への摂取の調整に関する典型的なガイドー外界から受け取るものに関連する、又は文化的な嗜好ー自己と世界との味感のエクスチェンジ、文化的ジェスチュアと繋がる)

  • 視覚(世界の色ー「世界の魂」に関する色)

  • 暖かさの感覚(温度ー私達の周りにある世界に対する私達ー「暖まる」ことによって、全ての感覚を感じとり、感知力が目覚めるーこれは、「外の世界へ私達を連れていく関心、私達の熱烈な宇宙規模での関心の始まりである)

最後の4つの感覚は、シュタイナーによると、「崇高な感覚」です。これらの感覚を刺激して、拡大することなしには、強い孤独と「魂の枯渇」に苛まれるでしょう。

  • 聴覚(感知のスパイラル状推移に関連する ー 実際の物理的な音をきくことによって、内容と意味を感知する。聞いている内容を感知することから始め、次にそのエッセンスや原型を感知する。付記:精神的世界がこのプロセスを通して顕示される)(バランス)

  • トーンと言葉の感覚(音が言葉や話に変形するにつれて、言いたいことを表現する必要性にかられる ー 私の言葉が私の思考を着飾っていくのだ。。意味性を発見していくことが、人間の主要な意識の活動の一つである。注釈:これは、「動きの感覚」を広げた概念に繋がる ー 私の思考が動き、私の言葉が動く、私はを動かす。ー 空間はこの相互に繋がる「物議」によって活性化されるのだ。)

  • 思考の感覚(それはどういう意味だ?私は何を意味しているのだ?これは、私たちの思考が展開する過程 ー 私達がどのようにして、自分自身の思考、そしてもしくは思考と思考の間のつなぎめを追い従うのかということである。思考の動きは型と内容を作り始めるので、これは、ある意味、凝縮の過程だと言える。)付記:この感覚は心理的ジェスチャー***を発展させる過程とどう関係しているのか?)(人生)

  • 他人のエゴの感覚 誰かと遭うことによって、私達はその人から強い響きを受けとります ー それは、共感、又はおそらく「後ろにある感覚」というもの。注釈:この感覚には、「あなたのことを感じる。。。」という相互の繋がりがあることで、触覚と関連している。

 いかがでしたか? なかなか面白いですね。シュタイナーのコズミックな視点が伺えます。自己、他者、世界との繋がりや精神世界と感覚の関係も垣間見えます。最初の4つの感覚が、体の動きを通しての空間の感知、自分の存在の認識、次の4つが周りにある世界(外)を中を通して見分ける感覚で、最後の4つの「崇高な感覚」に、音に関するものが2つ含まれているのは、とても興味深いです。思考、言葉、体、空間の関わりを説き、「他人のエゴの感覚」は、「触覚」と関わりがあり、他人を「感じる」ことと説くシュタイナー。コミュニケーションの基本ですね。感覚は、「自分、他人、世界」が繋がっている、その意識の根本には、シュタイナーが言う、「肉体の意識」がある。

「魂に対する感覚」で私が最も予期していなかった感覚は、「暖かさの感覚」です。たしかに私の子供の頃から比べると、現代社会では、「熱くなって」何かに全身を投げかけること、「熱狂」することが、少なくなってきていると感じます。なかなか熱くならないのです。人間にはもともと、「宇宙的な規模での熱烈な関心」を抱く、そういう感覚、能力が備わっている。そして、それを刺激して、広げていくことなしには、強い孤独と「魂の枯渇」が待っていると言うシュタイナーの言葉に、深く共感を覚えます。


*ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner 1861-1925年) 旧オーストリア帝国出身の神秘思想家、哲学博士 ウィーン工科大学で物理学や数学などを学んだのち、ワイマール版ゲーテ全集・自然科学編の編集委員として活躍 20世紀に入ると同時に、ロシアの神秘思想家 H・ブラヴァツキーの創始した神智学運動に加わり、1912年、アントロポゾフィー(人智学)協会を設立 独自の精神科学に基づいて、哲学・思想・教育・医学・農業・建築・芸術・社会論などの分野に業績を残した。

**ラバンのディメンショナルクロス
 ラバン身体動作表現理論 とは、ルドルフ・フォン・ラバン (Rudolf von Laban, オーストリア, 1879-1958)を中心とするドイツ表現主義舞踊の創作者らが1920~40年代に構築した、心理状態と身体運動の相関関係を規定する理論である。 英語では Laban Movement Analysis, LMA と称される。ラバンはまた,キネスフィアを空間の中で如何に捉えるかを提示し,こ れをディメンショナル・クロス(Dimensional Cross)と呼んだ。
 
***心理的ジェスチャー
シュタイナーに影響を受けた俳優、教育者マイケル・チェーホフの演技テクニックの一つ。これはキャラクターの心理や目的を具体化した動きである。体全身を使い、最高度にまで高められたエネルギーも持って行うことで、キャラクターの根幹や台本で求められる雰囲気に身につけることができる。

 マイケルチェーホフテクニック図表と用語
演技をする際に用いられる専門用語は様々あり、またマイケルチェーホフテクニックにおいても独特な専門的な用語が多くあります。そのテクニックの用語の中には、「役作り」や「目的」といった一般的な演劇用語から使われている場合もありますが、「楽の感覚」や「心理的身振り」などチェーホフ自身が作った語句も多くあります。
www.michael-chekhov-tokyo.com

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