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何がリアルなのか?〜ドラマとドラマチック

「ドラマ」と「ドラマチック」って全く違うものだと、ご存知でしょうか?いわゆるテレビや演劇などで「ドラマ」と言われるものは、「ドラマチック」なだけで、実は日常の実生活で起こっていることの方が、ずっとリアルな「ドラマ」です。 しかし、ドラマチックなドラマばかりを見ていると、リアルなはずの現実もドラマチックになってしまう。幻想の中で、生きているかのようになってしまう。日本にいると、まるで国全体がテレビの中にいるような錯覚に陥ることがありますが、これは、「リアル」であるはずの現実が「ドラマチック」化してしまった結果ではないかと思います。

 少し話がそれますが、演劇では、「リアルなドラマ」を作りだすために、「リアリズム」と呼ばれるジャンルがあります。「現実」みたいなドラマをやるんですね。今社会で起こっている問題を取り上げる。テーマは、「壊れてしまった家庭」とか、「社会で失敗したビジネスマンの話」とか、「セクシュアルハラスメントは、被害者の女性の家庭環境が問題だった」とか。日本でも最近は同じ傾向にありますが、アメリカでは、この種類のドラマはものすごく売れます。油ののった、社会でも認められている戯曲家がそうしたテーマの葛藤に満ちた戯曲を書き、大変ドラマチックに仕立て上げます。また、主流演劇業界、テレビ業界では、タイムリーな作品を舞台にあげることが、マーケティングに繋がるとされていますが、時代の関心ごとに合わせた作品は、単なる社会描写に陥り、ドラマチックに世間の主流の声をなぞることに留まってしまいます。

 「リアリズム」は、リアルなんじゃなくて、「リアルのように見せるスタイル」なんですね。テレビのソープオペラ(日本のテレビドラマ)でも、「こんなセリフ、実際の生活で言う?言わないでしょう。」みたいな恥ずかしいセリフ、あるでしょう。例えばこういう感じ。 

父:(口をきかない娘に向かってしばし沈黙したあと)「とうさん、わかってるんだ。母さんのことだろ?」

娘:(沈黙)

父:「父さんも、昨日母さんが出て行ってから、ずっと考えてたんだよ。ごめんな、わかってあげられなくて。」(娘の手に自分の手を当てる)

なんていうやりとりですね。いやー、仕事とはいえ、こんなセリフを喋る役者も、どうやって喋ったら良いの?って感じなんですけど。「リアル」じゃないんですね。劇の内容も、観客を楽しませるために作るので、「ドラマチック」に作ります。それを「リアルっぽく」見せる。 

優れた戯曲家になると、芸術的に、凝ったスタイルで「リアリズム」にハクをつけます。展開をひっくり返したり、構成を音楽や絵画のように書いてみたり。芸術的に作られているものでしたら、その美しさに酔ってしまい、それが理解できた自分に酔うこともあります。普段とは違う世界に連れて行ってくれた」と恍惚感に浸ります。ドラマチックです。美しく描かれたカオスの中で、もともと、自分と同じ境遇や同じ意見の人を、舞台やテレビで見たい観客に、「私の家庭はこうならなくて良かった」とか、「私の方がこの人たちよりも幸せだったんだわ」といった希望とか絶望感を、簡単に抱かせることができるんです。舞台の役者に自分を重ね合わせ体験するカタルシスにはパワフルなものがありますから。

この反対に、「あれはドラマだから」とか、「映画だから、ああ言うことになって。」「ドラマチックで、本当であるわけない。」という冷めた見方もありますね。でも実は、「ドラマチック」だと見せかけて、「リアル」なことを物語っている映画やテレビドラマもたくさんあるんです。ハリウッドの映画が後々起こることを示唆しているなんて話はよくあります。

ああ、なんだかわからなくなってきましたね、何がドラマで何がドラマチックなのか。 そうなんです、こうしてリアルな現実が見えなくなるのが、一番の問題なのです。

ドラマチックな情報や作品に向かう自分の中に、何が起こってきているか?感情的になって、エネルギーが頭に言ってしまってないか?一体、このドラマチックな作品はどういうメッセージを自分に与えているのか。リアルなドラマを見ている自分はどうか?何がリアルで、何がリアルじゃないのか?

テレビドラマ、映画、演劇などを見るとき、そこにハマってしまわないで、じっと観察して見ましょう。何を言っているのか?なぜこの作品を、今作ったのか?社会で起こってきていることと、この作品が今作られたこととは、どう関係しているのか?自分はどう感じるのか? 登場人物に対してどう思うのか?どんな感情が湧いて来るのか?などなど。

え?そういう目でテレビドラマや演劇を見ると面白みがなくなるって?そうですね(笑)。私も演出家の目で演劇やテレビドラマを見始めた時に、裏が見えて、全く面白くなくなったのを覚えています。でも、その分、人生がより面白くなりました。自分の人生が世界で一番面白いドラマなんですね。真の「タイムリー」は、自分の中で今、何が起こっているかだけ。そのレンズを通して、社会を、世界を見、宇宙を感じる、それだけです。

 自分の人生は、何にも比べることができない最高のドラマです。この世の中に一人しかいないあなたと言う主人公が、この世の中に一つしかない台本を書いていく。次にどう息を吸い込むか、何を食べるか、何をみて、誰と話して、といった全てのことが、ドラマの進行を決めて行きます。そう。今、この瞬間にもあなたは自分の人生の台本を書いているのです。

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