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はじめましてが遅すぎる


遅ればせながら、自己紹介です

すみません。2カ月半前、#何が正解なのかわからない シリーズを唐突にnoteに立ち上げ、そのままひとりで突っ走ってしまった井川直子です。
ひと息ついてほかの人のnoteを見たら、みなさん自己紹介から始めていらっしゃるではないですか!
たしかに、私のnoteを読みながら、この人誰?ってうすうす疑問に思っていた読者も多かったかもしれませんね。

というわけで、だいぶ遅れましたが自己紹介です。
私は主に食とお酒まわりの「人」をテーマに、書く仕事をしています。ノンフィクションやエッセイです。くわしくはこちらから。


『イタリアに行ってコックになる』のこと

遡ると、最初に書いたのはイタリアに行ってコックになる』(柴田書店)という本。取材したのは2002年です。今からは想像がつかないかもしれませんが、当時のイタリアは「石を投げれば日本人コックに当たる」といわれるほど大勢のコックたちが修業していた時代。
まだ何者でもない。何者かになりたい。そんな若者たち24人を現地で取材したルポルタージュです。

コックたち


じつは、どうしようもない衝動で、つい書いてしまった原稿です。私はそれまで畑違いの、広告の文章を書く仕事をフリーランスでしていました。

2001年、イタリアのピエモンテ州を旅したときのこと。日本人観光客もいない田舎町だったのに、小さなトラットリアで日本人コックが働いているではありませんか。
彼から「たしかにレストランの客席に日本人はいないけど、厨房のドアを開けると日本人コックがうじゃうじゃいるよ」と聞いて、急にドキドキしてしまいました。

当時は就職氷河期です。「自分のやりたいことがわからない」「やりたいことより、できることを」といわれた世の中にあって、「やりたい」という気持ち1個で海を渡る人たちがいた、ということにドキドキしたんです。
しかもリュックと紙袋だけ持って、丸の内線に乗るみたいにひょいっと、飛行機を乗り継いで。

どうしても会って話を訊いてみたくなってしまって、私も飛行機に乗りました。で、イタリアで彼らと話し、帰国後にとにかく書いてみた。

他人の人生を訊いてしまった責任

広告のコピーといわれるものは短いので、長い文章は書いたことがない未知の領域です。なのでとにかく書いちゃおう、と始めて、一応最後の句点は打てました。(電化製品の説明書は読まないタイプです)

しかし勝手に書いたはいいものの、さて、私には出版社につてがありません。売り込みということもしたことがないので、どうすればいいのかもわからない。

とりあえず知人の知人の……というごく細い糸は、はかなくちぎれやすいということを知り。出版社宛に原稿を送ると、おそらく持ち込み担当者の机に山積みされているであろう長い時間を堪えねばならないことも知り。

正直、グレる寸前でも投げ出さなかったのは、他人の人生を訊いてしまった責任にほかなりません。その人の人生において大事な部分を聞かせてもらったからには、責任は果たさなくちゃいけない。
自分で止めてしまっては申し訳ない。世の中に出して、伝えなきゃいけない。当時はそれだけでした。

出版社の利益とか、この本の意義、存在価値なんてことは、申し訳ないけどグレかけの書き手には考え及ばず。

ありがたいことに、食の専門出版社である柴田書店の編集者が原稿に目を留めてくださり、2003年に『イタリアに行ってコックになる』として発刊されました。

イタリアに行ってコックになる


「やりたいことがわからない」のは私自身

自分自身についていえば、たとえばこれを機にライターに転職したいなどともあまり考えていませんでした。
というか「職業」を目的にしたことがない。それがコンプレックスでもあって、「やりたことがわからない」のは、ほかならぬ私自身のことでもあるんです。

ただ私の場合、遠くの「こうなりたい」は全然見えないけれど、目の前の「訊いてみたい」とか「書いてみたい」ことならわりと見つかる
で、書いてみれば、そのちょっとだけ先にまた何か見えてくる。その繰り返しの人生です。

ちなみに「本を出したい」というのとも違いました。
たとえば映画の脚本でも、伝えられればそれでよかったんですけど、自分にできる現実的な手段が文章を書くことと、書いたものをまとめる、ということ。
noteもリトルプレスもなかった時代の、凡庸な私の発想です。

誰かの背中を押せたなら

『イタリアに行ってコックになる』は、書き手の技量でいえばとてつもなく、つたない文章です。若気の至りな写真を見るようで、読者にも、取材を受けてくれた24人にも、出版社にも申し訳なく、穴があったら埋めたいくらいで、長年手にとって読み返すこともできませんでした。

でも雑誌の取材でイタリア料理店を訪れると、本棚に本書が立ててあるというシェフが想像以上に多かったんです。重版もしていないのに、不思議(笑)。
「あの本を読んでイタリアへ行きました」とか「海外修業を諦めていたけれど、やっぱり行きたいって家族を説得したんです」などと言ってくださる。

そういえば、SHIBUYA CHEESE STANDの藤川真至さんもnoteに書いてくださっていましたね。


つたないなりに、必要な人の心に届いていたんだと、こうしてゆっくり知っていくことになりました。誰かの背中を押せる、なんてことは、西陽の強い部屋で顔の右半分を灼きながら書いている最中には考えもしなかったことです。

長い間、けちょんけちょんに思ってきてごめんなさい。今度は自分の本に申し訳ないと思う、ややこしい初めての本。ですが、書き手としての私のはじまりは、たしかにここからです。



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