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鎌倉、こんな店がありました ~1~

まだ梅雨とは言え、気温が高い日が続くようになったので、すべてのサンダルをシューズ・ボックスに入れる作業をしていたら、下駄が出てきました。

この夏は祇園祭の巡行、宵山の中止が発表になっているので使う機会が大幅に減りそうだと思っていますが。

急に祇園祭?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、実はこういう本を書いています。

と、いう事を伝えるためではなく、今回は下駄のお話。

今、予約がとりずらいお店になっている「鎌倉 一平」さん、の場所に以前履物屋さんがありました。

ものごころがついた頃からずっとあったお店ですが名前を憶えていません。(どなたかご存知でしょうか?)

今はわずかしか残っていませんが、以前の鎌倉は和装のためのお店がもっともっと沢山あって、丸髷を結って普段着の素敵な着物をお召しになった雰囲気のある年配のご婦人が多い地域でした。

そのお店で私が買ったのは実は1回だけ。

ですが、初めて自分でその場で鼻緒を選んですげてもらう形で下駄を買ったお店でもあり、忘れられません。

すでに祇園祭り通いを始めていた頃でした。

一度、適当なお店で(最初から鼻緒もついたタイプの)下駄を買ったところ鼻緒状に足をすりむいてしまいました。

歩きすぎた事が一番の原因ですが、もっと快適な1足をと思っていた時たまたま通りがかってお願いしたのです。ちょうど今頃の時期でした。

店番をしていたオーナーでもあったご高齢の女性に相談しながら黒の塗りの2本歯の「台」(「芳町」とも呼ばれるタイプです)に沢山ある「鼻緒」から白に黒の縦じまを選び、中央で鼻緒を台につける「前つぼ」はお勧めに従って赤の1足にしてもらいました。「前つぼ」を「台」に固定した結び目を隠し、保護する「前金」は梅の金具でした。

すげるから待っていてと言われてすすめられた「ハッピーターン」をいただきながら待ちました。

何とものんびりした、でも気持ちのいい時間で使い込まれた道具を使って鼻緒はこうやってすげるのだ、と興味津々で眺めていました。

仕上がってから、台の上で履いてみるよう促されましたが靴と違って合っているのかどうか正直なところ分からなかったのです。

気持ちの良い足入れではありました。

その実力を知ったのは使い始めてからです。

祇園祭は見方にもよりますが、私はかなり沢山歩きます。

1日3万5千歩と携帯が(正確かどうかは分かりませんが)計測するだけの距離を歩いてもちっとも痛くもならず、もちろん鼻緒で足が擦れたりもせず、快適であり続けています。

続けています、と書いたのは、かなり歯が擦り減ってきてしまってもう鎌倉市内のおつかい位にしか使いませんが、愛着もありますし、緩んで来たりもせず、歩きやすくてやめられないからです。

今もあったらならと願わずにはいられません。

この後割合すぐ時折閉まっているのを見かけるようになり、そして閉店して更地となってしまいました。何があったのかは分かりません。

切ない気持ちで眺めていました。

息子さんなのか若い男性が最後お店の物を半額で売っているのも見かけましたが、何となくそういう形で買いたいと思えず、行かず仕舞いでした。


1回の訪問でしたが、その時にその女性が話されていた、鼻緒を浅草から仕入れる話、今は減ってしまったけれど、昔はすごく売れて仕入れが追い付かなかった事、ちゃんと合っていれば「いくらあるいても大丈夫」という事など忘れられません。

小上がりの畳の上でどこにそんな力が、と思うような力でぎゅっと占めてくれた鼻緒は今も緩みもせず、きつくもならず私の足元にあります。

祇園祭で鉾をおいかけ、御神輿をおいかけた足元です。

閉店して次のお店になると以前は何だったっけ?と忘れる事も多いのですが、こんな忘れられないお店もあります。

そんな昔の事をふと思い出しました。





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