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ガッと手を伸ばして

 公園に鳩の大群がいた。ベンチに向かって歩きだすけれど、鳩は退かない。そこへ4、5歳くらいの男の子とお父さんがやってきた。大声と共に走り出した男の子に、鳩の大群はたまらず飛び立って行った。

 風が舞い、落ち葉がトコトコ歩くように地面を滑る。公園のグランドでは、親子がキャッチボールを始めている。お父さんのボールを男の子はなかなか取れない。よく見るとソフトボールくらいの大きさである。当たったら痛いのだろうな。それでも男の子は、ボールに手を伸ばしていた。


 今日は最後の介護福祉士の実務者研修の講座があった。そこで、胃ろうや鼻腔の経管栄養のやり方を学んだ。当然、難しかった。慣れない言葉、名称、しつこい程の確認行為。何かに似ている、そう、自動車学校だ。共に命に関わる事だもの、しつこくて当たり前、基本は大事なのだよ。

 教室に入る前、昼休み後、帰る前、体温を計るのはコロナ感染防止の為だ。いつもより熱が高いのは、情報の処理能力が落ちている脳が、最大限仕事をしているからなのだろう。無理しているのかな、とも思う。それも今日まで終わるのだ。ありがとう脳!頑張ってくれて。


 時間になったら、実技のテストを合格した人から帰っていく。私は最後から2番目。終わって帰ろうとすると、ひと足先に済んでいた同じ班の人が待っていてくれた。…や、優しいなぁ。デイサービスに勤めている彼女は実技での声かけも柔らかで、見ていてほっとする方。そして同年代。

 バス停までの数分間、お互いの職場の話をしながら歩く。彼女の職場は、なんと10連勤の時もあったとにこやかに教えてくれた。そして、1月にある試験の話。そこで会えると良いですね、なんて言いながら、彼女は右に、私は左に別れて行った。見上げた空は色彩を失い始め、群青色の夜に変わろうとしていた。


 帰りがけ、実家に寄る。昨夜、ベットからずり落ちて立ち上がれないと、母から電話があったのだ。すぐに、タクシーを飛ばして実家に行った。幸い頭は打ってなく、背中がちょっと赤くなった程度だった。持ち上げてベットに戻した。色々話したげな母を残し、明日また来るからと言い、家に戻ったのが昨夜23時過ぎ。久しぶり深夜の匂いを嗅いだ。

 今日はお寿司を買っていき、両親が食べ終わるのを待って実家を後にした。あっという間に19時を回っていた。15分ほどバスを待ち、自宅の方へ向かう。近所のスーパーに入ると、入り口付近には、真っ赤なリンゴ、黄色いバナナ、黄緑色のキャベツに緑色のピーマンなど、鮮やかな生鮮食品が溢れていた。体調と胃袋に相談しながら、物色していく。

 幸せな時間。買い物に時間を割くことを無駄だと思う人もいるだろうけど、私にとってはパラダイス。棚には沢山の物が溢れていて、何より選べる自由がある。なんてありがたいのだろう。どんどん奥に入って行くと、ある場所から足が動かなくなった。鰻だ!鹿児島産の鰻だ!


 夕食は鰻飯と卵のスープ、お漬物を頂こう。一日頑張ってくれた、脳や身体に鰻のパワーを注入して、明日からはまた、仕事を頑張るのだ。新しい病棟ではまだまだひよっこだけど、負けないぞ。球が当たったって、慣れないボールにも手を伸ばして行くんだ。




  こんな心意気でね!







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