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【Opera】新国立劇場『ウェルテル』

 2016年の初演時に感じたのは、これは「ドイツの物語」なのだということ。第1幕で背景いっぱいに広がる緑の森が印象深かった。今回、同じプロダクションを再び観て、その印象はますます強くなった。オペラとしては、「内面的なフランス・オペラ」もしくは「流麗なドイツ・オペラ」という趣で、今回は特に藤村実穂子さんはじめ主要キャストにドイツもの巧者が配されていたので余計にそう感じられたのかもしれない。それは、「ゲーテの物語を描いたオペラ」としては、とても正しい描き方なのだと思う。

 第3幕、シャルロットが手紙を読んでいる居間の窓の外を、ひっきりなしにふわふわと雪が落ちてくる。シャルロッテの孤独、後悔、苦悩、悲しみが雪に投影されているようで、美しく、心に残る場面だ。

 キャスト陣ではやはり、シャルロット役の藤村実穂子さんが異次元の素晴らしさ(ピアニッシモのコントロールの凄さ!)。持って生まれた声、訓練して身につけた技術、そして声による表現力(演技力と言い換えてもいい)。この3つを備えた歌手が「名歌手」と呼ばれるのだと思うが、藤村さんは疑いもなく日本が生んだ「名歌手」のひとりである。

 その分、タイトルロールのサイミール・ピルグの歌唱の粗さが目立ってしまったのはやや残念。声自体は後半になるにつれて上り調子によくなってきて、第3幕「オシアンの歌」は見事な高音でブラヴォーをもらっていた。ただやはり「声による演技」の細やかさの点では不満が残る。

 日本人歌手たちは、おしなべてレベルの高い歌唱を披露。ソフィーの幸田浩子さん、ここのところ以前に増して表現に奥行きと安定感を感じるが、活き活きと明るく幸せな少女を「声で」見事に表現していた。シュミットの糸賀修平さんの伸びのあるテノールはいつも耳に残る。いずれもっと大きな役を歌う人だろう。

2019年3月24日、新国立劇場。

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