室田尚子

音楽評論家。NHK-FM「オペラ・ファンタスティカ」パーソナリティ。 オペラ、コンサー…

室田尚子

音楽評論家。NHK-FM「オペラ・ファンタスティカ」パーソナリティ。 オペラ、コンサートなどのレビューを中心に掲載していきます。

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  • 室田尚子のレビュー/Concert編

    コンサートやリサイタルのレビューをまとめています。

  • 室田尚子のレビュー/Concert-Opera編Vol.1

    コンサート形式のオペラのレビューをまとめています。

  • 室田尚子のレビュー/Opera編Vol.4(2023)

    2023年に舞台で鑑賞したオペラのレビューです。

  • 室田尚子のレビュー/Opera編Vol.3(2022)

    2022年に舞台で鑑賞したオペラのレビューです。

  • 室田尚子のレビュー/Stage編

    ミュージカル、ストレートプレイなどのレビューをまとめています。

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二つの『蝶々夫人』〜現代におけるポリティカル・コレクトネスとオペラ演出の問題

 図らずも1週間に2つの『蝶々夫人』を鑑賞することになった。それもとても対照的な演出だ。ひとつは兵庫県立芸術文化センターでの佐渡裕芸術監督プロデュースオペラで演出は故・栗山昌良。兵庫では2006年、2008年に上演されており、さらにそのほかの舞台でも何度となく上演されてきた、ある意味「定番」のプロダクションである。もうひとつは東京二期会が5年前に初演した宮本亞門演出のプロダクション。こちらは、ゼンパーオーパー・ドレスデン、サンフランシスコ歌劇場を回って再び東京に戻ってきた「最

    • オペラの解体、その先へ〜【Opera】アンドロイド・オペラ『MIRROR』/『Super Angels excerpts.』

                         (Photo by Kenji Agata ©︎ATAK)  2022年にドバイ万博で初演、翌23年にパリのシャトレ座で上演され大きな話題となった渋谷慶一郎作曲のアンドロイド・オペラ『MIRROR』が、ついに東京に上陸した。渋谷のアンドロイド・オペラは、2018年の『Scary Beauty』、2021年新国立劇場で初演された『Super Angels スーパーエンジェル』に続く3作目。主役のアンドロイドもオルタ2、オルタ3、そして今回

      • 【Review & Interview】務川慧悟×ナターリア・ミルステイン 公開リハーサル

         6/18(火)に東京芸術劇場コンサートホールの人気シリーズ「VS」に登場する務川慧悟とナターリア・ミルステイン。ストラヴィンスキーの三大バレエを2台ピアノで演奏するという意欲的なプログラムだが、その関係者向けの公開リハーサルが、前日の今日、東京・青山のスタインウェイ&サンズ東京で行われた。通常の演奏会のゲネプロのように通しで演奏するのではなく、「僕らが普段どんなふうにリハーサルをやっているのかを見ていただきたい」という務川の希望で、「ペトルーシュカ」を互いに話し合いながら合

        • 【Opera】オッフェンバック『美しきエレーヌ』(演奏会形式)

           東京芸術劇場のコンサートオペラVol.9はオッフェンバックの傑作オペレッタ『美しきエレーヌ』。オーケストラ付きの原語上演は日本初演だそう。オッフェンバック、ものすごい多作なのに日本では『天国と地獄』と『ホフマン物語』ぐらいしか知られていないので、もっとオッフェンバック作品が日本で上演されるといいのに、と思っている私としてはこの企画はとても嬉しい。今回は東京芸術劇場のコンサートホールでの演奏会形式上演。お芝居の部分は、エロス(キューピッド)に扮した声優の土屋神葉の語りに任せ、

        二つの『蝶々夫人』〜現代におけるポリティカル・コレクトネスとオペラ演出の問題

        • オペラの解体、その先へ〜【Opera】アンドロイド・オペラ『MIRROR』/『Super Angels excerpts.』

        • 【Review & Interview】務川慧悟×ナターリア・ミルステイン 公開リハーサル

        • 【Opera】オッフェンバック『美しきエレーヌ』(演奏会形式)

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          3本
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          11本
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          20本

        記事

          和と洋の幸福な融合〜全国共同制作オペラ『こうもり』

           2023年の全国共同制作オペラはびわ湖ホール、東京芸術劇場、やまぎん県民ホールによるヨハン・シュトラウスのオペレッタ『こうもり』。野村萬斎が初めてオペラの演出を手がけるということで前評判も上々だったが、初演となったびわ湖ホールでの公演はその期待を裏切らない、本当に楽しい舞台となった。  「洋物を洋物でやるとコスプレ感が強くなるので、なんとか和にできないか」と考えたという萬斎。舞台を明治初期の文明開化の日本に移した。序曲の前に桂米團治が登場。舞台上にある畳がちょうど高座のよ

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          「幻想」と「現実」によって結ばれたダブルビル〜新国立劇場『修道女アンジェリカ/子どもと魔法』

           新国立劇場2023/24シーズンは、プッチーニとラヴェルの、それぞれ上演機会のあまり多くない作品の2本だて公演で幕を開けた。大野和士芸術監督によれば、両作品をつなぐテーマは「母の愛」だという。『修道女アンジェリカ』は、未婚で子どもを産んだことで修道院に入れられたアンジェリカが子どもが亡くなっていたことを知らされ絶望して自殺を図るが、聖母マリアへの祈りが通じ、死んだ子どもと共に天国へ昇っていく。『子どもと魔法』の物語は、母親に反抗していたずら放題の子どもが、家具や食器や動物た

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          ヴェルディ・バリトンの新星誕生〜藤原歌劇団『二人のフォスカリ』

           ヴェルディの第6作目のオペラである『二人のフォスカリ』が日本で上演されたのは、わずかに2001年に東京オペラ・プロデュースが行った1回だけだそうだ。この非常に演奏機会の限られた作品に藤原歌劇団が取り組んだ(新国立劇場と東京二期会との共催)。公演回数は2回。主要キャストを入れ替えたダブルキャストだ。これは2公演とも観なければ、と会場となった新国立劇場オペラパレスに足を運んだ。  そもそもなぜこの作品があまり上演されなかったのだろうか。ヴェルディの創作時期では初期に当たる作品

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          声とオーケストラが描き出すドラマを堪能〜【Opera】神奈川フィルハーモニー管弦楽団『サロメ』(セミステージ形式)

           このところ『サロメ』づいている。昨年は東京交響楽団の演奏会形式、そして今年は新国立劇場での舞台上演に続いて、神奈川フィルハーモニー管弦楽団がセミステージ形式の上演を行った。本公演は京都市交響楽団と九州交響楽団との3オーケストラによる連動企画である。劇場の共同制作による企画は全国共同制作オペラをはじめこれまでにもいくつかあるが、オーケストラ主体の共同企画というのは珍しい。昨年から神奈川フィルの第4代音楽監督に就任した沼尻竜典のプロデュース力によるものと推察する。  その沼尻

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          その一歩は世界に通じる〜【Concert】中野りなヴァイオリンリサイタル

           2021年第90回日本音楽コンクール優勝、翌22年に第8回仙台国際音楽コンクールで史上最年少の17歳で優勝した中野りな。その時から群を抜いた演奏技術の高さで注目を浴びていた弱冠19歳の若手ヴァイオリニストが初のソロ・リサイタルを開いた。プログラムはモーツァルトの「ヴァイオリン・ソナタ イ長調」K.305、プーランクの「ヴァイオリン・ソナタ」、イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第5番ト長調」op.27-5、リヒャルト・シュトラウスの「ヴァイオリン・ソナタ変ホ長調」op.18

          その一歩は世界に通じる〜【Concert】中野りなヴァイオリンリサイタル

          「始めよう、私たちのオペラを」〜【Opera】全国共同制作オペラ『田舎騎士道』&『道化師』

           全国共同制作オペラは毎年、オペラ畑ではないところで活躍している演出家を呼んできて、いわゆる「読み替え」演出によるプロダクションを発表し続けている。大成功といえる時もあれば、これはちょっと、と思う時もあり、そうした賛否両論含めて極めてチャレンジングな企画であることはまちがいないが、その最大のポイントは、「今」と「日本」、というところにあると私は思っている。例えば、他の団体が海外の歌劇場との共同制作で現代的なプロダクションを上演することはあるが、全国共同制作オペラはあくまでも複

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          オペラを「聴く」ということ〜【Opera】東京交響楽団『サロメ』(演奏会形式)

           東京交響楽団が音楽監督のジョナサン・ノットとリヒャルト・シュトラウスのオペラを演奏する「コンサートオペラ」シリーズ。その第1回『サロメ』は、直前で日本人キャスト3名が体調不良のために交代するというアクシデントはあったものの、予定されていた海外キャスト4人が揃って出演する贅沢な公演となった。ミューザ川崎シンフォニーホールとサントリーホールの2回公演だったが、私はミューザ川崎で聴いた。  全出演者の中でも白眉はタイトルロールのアスミク・グリゴリアンだったことは、おそらく当日客

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          歌、そして言葉の力〜落語とオペラの融合『蝶々夫人』

           ヨーロッパを中心に世界9カ国で『蝶々夫人』を歌ってきたソプラノの百々あずさがプロデュースする本公演は、落語家の春風亭愛橋を演出に迎え、日本の伝統芸能である落語と西洋芸術であるオペラの融合を目指したものだ。オペラはしばしば歌舞伎と比較されて語られるし、また、能と融合させた舞台も近年ではつくられており、日本と西洋の芸術を組み合わせるという発想自体はそれほど新しいものではない。その中で落語に関しては、オペラの物語を落語でやるとか、その逆はしばしばみられるが、本公演はオペラの舞台の

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          今年一番の傑作か〜【Opera】新国立劇場『ジュリオ・チェーザレ』

           2020年に上演される予定だったがコロナ禍のために直前で中止に追い込まれたロラン・ペリー演出の『ジュリオ・チェーザレ』が、ついに私たちの前にその姿を現した。キャストの変更はチェーザレ役のマリアンネ・ベアーテ・キーランドのみ。そのほかの日本人キャストは、2年前に予定されていたメンバーが(奇跡的に!)全員揃った。指揮もバロック・オペラのスペシャリストであるリナルド・アレッサンドリーニが予定通りの登板。  ペリーの演出は「読み替え演出とはかくあるべし」とでもいうべき、素晴らしい

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          世界を救うのはだれ?〜【Opera】東京文化会館オペラBOX『子供と魔法』

           オペラ『子供と魔法』は、元々はパリ・オペラ座の監督ジャック・ルーシェが童話バレエの企画としてコレットに台本を書かせ、それにラヴェルが作曲した作品。ラヴェル自身「ファンタジー・リリック」と名づけており、いわゆる純粋な「オペラ」というよりはオペラとバレエの融合体のような作品となっている。1幕の短いオペラで、登場する人間は主人公の「子供」のみ。他は。ティーポットや安楽椅子や絵本のお姫様や時計や動物たち。キャストも子供以外はほとんどが複数の役を兼ねる。ストーリーはシンプルなもので、

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          将来を嘱望される逸材の実力〜【Concert】清水勇磨バリトン・リサイタル

           これまで数々の優れた音楽家を送り出してきている五島記念文化賞。清水勇磨は第28回のオペラ新人賞を受賞したバリトンで、イタリア研修の帰国記念演奏会が東京文化会館で行われた。すでに清水は東京二期会会員として2017年に『ばらの騎士』ファーニナルで日本デビューを飾っており、最近では今年4月に「エドガール』のフランク、7月に『パルジファル』のアムフォルタスを演じて高い評価を得ている。私も、「非常に安定した声のバリトンが出てきたな」と注目していたところだった。  リサイタルの前半は

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          濃密な声の芸術〜【Opera】DOTオペラ『仮面舞踏会』

           ソプラノの百々あずさ、ピアノの小埜寺美樹、メゾ・ソプラノの鳥木弥生の3人がプロデュースするDOTオペラの第4弾は、ヴェルディの『仮面舞踏会』(演奏会形式)。舞台で観る機会の少ない作品だが、ヴェルディの「ヴェルディらしさ」を堪能できる、という点ではピカイチの傑作といえるだろう。ではその「ヴェルディらしさ」とは何か。ひとことでいえばそれは、「声によるドラマ」ということではないだろうか。「ギリシャ古典劇の復興」を目指して生まれたオペラは、バロック時代を通じて何よりも「声の妙味」を

          濃密な声の芸術〜【Opera】DOTオペラ『仮面舞踏会』