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【Review & Interview】務川慧悟×ナターリア・ミルステイン 公開リハーサル

 6/18(火)に東京芸術劇場コンサートホールの人気シリーズ「VS」に登場する務川慧悟とナターリア・ミルステイン。ストラヴィンスキーの三大バレエを2台ピアノで演奏するという意欲的なプログラムだが、その関係者向けの公開リハーサルが、前日の今日、東京・青山のスタインウェイ&サンズ東京で行われた。通常の演奏会のゲネプロのように通しで演奏するのではなく、「僕らが普段どんなふうにリハーサルをやっているのかを見ていただきたい」という務川の希望で、「ペトルーシュカ」を互いに話し合いながら合わせていくところを見学するというもので、滅多に見られない演奏家の共同作業の現場は、とても面白く、また刺激的だった。

はじめはゆっくりとしたテンポで合わせる。

 6/14には奈良で同じプログラムの演奏会が行われているので、お互いの思い描く音楽像は把握できてはいたようだ。務川も「奈良の演奏会は、このプログラムとしては一旦は満足できる出来だった」と語っている。それでも、実際に2人が顔を合わせたのが10日前。パリで6時間のリハーサルを3回行い、その後来日して奈良公演、さらにその2日後が今日、というスケジュールなので、まだまだ音楽的に深めていく余地はあるのだろう。最初はゆっくりとしたテンポで始まったリハーサルは、各楽章を一度通して弾いた後、お互いに細かいディティールについて話し合いながら詰めていく、というやり方で、実際にそうしたやり取りの後では明らかに音に変化が生まれてくる。インテンポでの演奏では音のエッジが際立ち、ストラヴィンスキーならではの多層の音色やリズムのエネルギーが素晴らしい。

熱が入ると音のエッジが際立つ。

 演奏会のプログラムの中では「ペトルーシュカ」のみ、ナターリアがプリモ・ピアノを担当するそうで、そのためか、「音楽のエネルギー的には、今日はナターリアに引っ張ってもらった」と務川は語る。そのバランスの良さもこのコンビの魅力だな、と感じた。ちなみに最後に、明日のアンコールに予定しているという曲を披露してくれた。何の曲かはまだ秘密…どうぞお楽しみに!

 リハーサル終了後に、2人にインタビューをする機会を得たが、務川とナターリアはフランスのエージェントが同じだということが判明。お互いに、出会う前からその音楽性については意識していたようだ。

務川 フランスのエージェントの候補が2つあって、それぞれの所属アーティストの演奏を色々聴いていた中に、ナターリアのプロコフィエフ「束の間の幻影」のCDがありました。彼女の演奏は、とてもスケールが大きい。それはもしかするとロシア出身ということに関係があるのかもしれません。例えば日本人の演奏家だと、1時間半ぐらい練習したら「そろそろ休憩しようか」と言うんですが、ロシア人はその単位が大きくて3時間ぐらいある(笑)ナターリアの演奏には、僕が知っているフランス音楽とは明らかに違うダイレクションの大きさがあって、そこに感銘を受けました。演奏家が共演する場合、音楽の方向性が近いから合うとは限らないところがあるんですが、ナターリアとはとてもうまくいきました。最終的にはCDを聴いた時に受けた印象通りだったと満足しています。

ナターリア 私のマネージャーが慧悟は素晴らしい、一緒に仕事をしたらきっとフィーリングが合うのでは、と言っていたので、今回のオファーをもらった時には本当に驚きました。実は私の父(ピアニストのセルゲイ・ミルステイン)は日本でピアノを教えていたことがあり、私も子どもの頃2、3週間ほど父に会いに日本に来たことがあります。だから日本で演奏する機会を与えてくれて、慧悟には感謝しています。慧悟とはバックグラウンドも先生も違うので、一緒に演奏する時には、探り合いながらという部分も当然ありますが、結果的にとてもうまくいっていると思います。私は彼の耳を信頼していますし、共に演奏することで音楽の魔法を感じるのです。

務川 僕らがひとつの場所に到達できたのは、2人とも室内楽の経験があることも大きいかもしれません。

 東京芸術劇場の「VS」シリーズは、話題のアーティスト同士や、思ってもみなかった組み合わせの妙でいつも私たちを楽しませてきた。今回、芸劇が務川に「ストラヴィンスキーの三大バレエを2台ピアノで」とオファーし、そのタイミングで務川が注目していたのがナターリアだったというのもまた、不思議な巡り合わせを感じさせる。明日の本番では、この奇跡のような出会いが生み出す彼らならではの「ストラヴィンスキー」を存分に堪能してもらいたい。

ナタリーア・ミルステイン(左)と務川慧悟(右)

2024年6月17日、スタインウェイ&サンズ東京。


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