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出席簿#09「校内大会 声援と軌跡を感じ」

【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」

5月20日、月曜日。
気がつけば5月も折り返しですね。

以前も少し書いたのですが、私はずっと弓道部の顧問をしていました。いまは育休中で、しばらく高校現場からは遠ざかっているのですが、弓道部ってとにかく4月5月は大会が多いんですよね。春休み中から各地の弓友会による大会が毎週末のようにあって、中国大会県予選。それが終わってすぐに昇段審査、連休中も練習試合に明け暮れて、中間試験期間に突入。試験が開けたら今度は一気に学校全体が高校総体ムード……。

でも、その年を含む数年間は高校総体もその前の大会ラッシュも、いつもとは違う雰囲気でした。コロナ禍で多くの大会が中止となり、再開後は無観客試合を余儀なくされて、応援席が空っぽだったんです。

その頃の様子を残したくて綴った作品でした。

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「寮に流れる不思議な時間」

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「知らない世界だから心配だったけど」、「うちもですよ、でも、楽しそうですよね」。「ロの字」型に並べた教室の机、座っているのは弓道部の保護者さんたちだ。PTA総会後、初の試みとして開催された「部活動懇談会」。コロナ禍で保護者と会う機会も激減している。だから余計に緊張したりもしたけれど、飛び交った言葉は温かかった。そして何より多かった意見が、「一度は、見てみたいんですよね」、「私も応援したくって」。

この1年は一切の応援をご遠慮いただいてきた。目前に迫っていた高校総体、すなわち多くの3年生にとって最後の大会も、無観客と決まっていた。だけど、入場者が限られる校内大会なら・・・・・・。「分かりました、校内大会の公開を検討します」。部員にとっても、緊張感のある、いい練習の機会になるはずだ。

懇談会後は副顧問さんと作戦会議。「市営の道場が空いてたら、この日ね」。高校総体まで、残された日はわずか、大会の候補日も限られていた。でも、さっき声を上げた保護者の方みんなが来れる日程なんだろうか。

「ライブ配信して見逃し視聴も出来るようにする、とか」。副顧問さんが口にした。今年、新採でやってきた彼は、どうやらそういう方面に強い模様。やったことはない、けど、やってみる価値はある。そうして挑戦が始まった。

同僚や家族に頼りつつ、限定公開でライブ配信をする方法を調べた。案内文書を配布して参観希望をとる。大会が近づくと、「先生、申し込みは1名で提出しちゃったけど、祖父母が来たいって。大丈夫ですか」、「うちも、やっぱり2人に増えそうで」、参観希望が増えていく。

あっという間にその日はやってきた。いつもより集合を30分早めて、生徒が練習をしている間にカメラの位置を確認する。「先生、保護者の方が・・・・・・」、少しずつ観客席が埋まり始めた。まもなく開会だ。カメラを回し、受付にいた副顧問さんが配信状況をチェック。保護者席と“視聴者”に向けた競技方法の説明は、部員が務めてくれた。

「起立、はじめ」。はじめて弓道を見るという保護者さんも多いようだけれど、それでも的中には拍手が起こる。接戦の射詰め競射では観覧席も緊張で満たされる。次第に道場との一体感が生まれた。最後に座射の演舞を披露して、“参観日”は幕を閉じた。競技方法や専門用語の解説、入賞者などをチャット欄に打ち込んでくれていた副顧問さんが、「チャットに、保護者の方からのコメントが届いていますよ」

遠方でお仕事をしている保護者さんもいらっしゃると思い至ったのは、校内大会と配信を企画したあとの話だった。コロナ禍で、もうずいぶん島根に帰ることを辛抱していらっしゃるだろうことも、そこで思い至った。“凜々しくって素敵でした”、遠くから届いたメッセージに、部員と一緒に盛り上がった。

感染症が応援席の姿を様変わりさせて久しい。からっぽの応援席を見るときはいつも切なかった。でも、見えていないだけで、こんなにたくさんの声援に囲まれていたんだ。たった半日の公開校内大会。それは、たくさんの応援を受けながら一歩一歩と歩んできた部員たちの軌跡を、たしかに感じさせるひとときだった。

(2021/6/27 朝日新聞島根版掲載)

作品に寄せて

この数年で、学校のオンライン環境も一気に整ったのですが、当時は試行錯誤の連続でした。学校っててんやわんやだったんですよ、本当に。そんな現場の様子が少しでも伝われば、と思って、また、離れていても生徒の部活動に思いを寄せてくださった保護者さんの心に揺さぶられて、書いてみた作品です。

ニュースで取り上げられることが多かったので、記憶に残っている方もいらっしゃるかもしれないのですが、コロナ禍にあって、山陰両県は長く感染者者が確認されない状況が続いていたんです。

様々なことへの自粛が求められていた当時、島根に帰りたくても、その気持ちをぐっと抑え込んでいた方がたくさんいました。進学したばかりの大学生たちや、単身赴任の保護者さんもそのなかにはいました。

当時の私はICT関連機器の扱いにも慣れていなくて、決して手際よく配信できたとは思っていないけれど、遠方にいる卒業生や保護者さんが見てくれたこと、コメントを寄せてくれたことは、温かい記憶として残っています。

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