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認知バイアスが健康経営の進行を妨げる ~健康経営の実践方法をWikipedia的に更新してガイドブック化する②〜

前回は、健康経営を実践するのに、担当者に気軽に見て頂けるガイドブックを作ることを宣言し、「健康経営に取り組む理由」や「健康経営の数値目標の設定」の仕方について触れた。今回は、トップのコミットメントを得る方法や組織体制についてお伝えしたい。

トップのコミットメント得る前に、3つの目線合わせが大事

健康経営の実践に限ったことではないが、会社を動かしていくには、経営層や中間管理職など関わる人たちとの「①理想の目線合わせ、②現実の目線合わせ、③解釈の目線合わせ」の3つの目線合わせが重要だ。

中でも健康経営では、トップのコミットメントが重要だと言われている。これまでは、トップダウンで健康経営の実践をすることが決まっているケースが多く、「コミットメントを得る」ということに苦労する企業は少なかった。

FiNCとお取引を頂いている企業でも、プロジェクトに取締役層が深く関与していることが多い。当社はお客様のプロジェクトチームと定期的に打ち合わせをさせて頂くことが多いが、その定例会にまで参加する取締役もいる。しかし、そのような経営陣がいる企業は希少だ。

それでは、経営陣に対して、どのようにして、健康経営に取り組む判断をして貰えればいいのか。

・社会背景
・自社の課題
・課題に対しての解決方法
・取り組む効果
・競合他社の取り組み状況
・必要な体制
・投資コスト
を準備してプレゼン。

も重要ですが、1番大事なのは、まず「目線合わせ」です。

「目線合わせ」には大きく3つあります。
①理想の目線合わせ
②現実の目線合わせ
③解釈の目線合わせ

①理想の目線合わせ
ここでいう理想とは、企業のビジョン、目標、バリュー、戦略、戦術です。経営者と上申する中間管理職、その部下、皆が同じパズルの完成図を思い描いているか、どうかが肝要です。

②現実の目線合わせ
ここでいう現実とは、財務状況、それに基づく各種KPI、組織構成・人員数、自社が保有するコアコンピタンス(資産・強み)です。パズルのピースの総数がどれくらいあって、これを一緒に作れる人は何人いて、メンバーは何が得意で、いつまでに作らないといけないのか、を把握しなければパズルは作れません。

③解釈の目線合わせ
ここでいう解釈とは、その人のおかれている立場、役割、趣味嗜好、家族構成、学歴、キャリア変遷によるそれぞれの思考パターンのことです。

この3つの「目線合わせ」ができると、自ずと何をポイントにして健康経営に取り組む理由を語るべきか、明確になります。

経営層向けのプレゼンでよくあるのは、準備万端にして臨んだにも関わらず、「俺が知りたかったのは、●●●だったんだ」とフィードバックされ、「うそでしょ!?(白目)」と絶望的な気持ちになるパターンだ。

これは3つの「目線合わせ」が出来ていないがゆえに、起こる悲劇だ。思い描く「理想」が経営層と異なるにも関わらず、担当者が勝手に自分の身の回りに必要だと思う「現実」情報を集め、そして、経営層へのプレゼン前に中間管理職レビューが入ることで中間管理職の「解釈」が加わり、絶望の産物が生まれる。

しかし、3つの「目線合わせ」が出来ていれば、逆に自分の解釈で「健康経営に取り組むべきだ」と思っていたのが、今はそのタイミングではないな、と考えを改めることも出来ます。

このように、「偉い人はなんでも知ってる(経営陣はすべてのことが自分と同じ解像度で事象を知っている)」という認知バイアスを外し、「目線合わせ」から始めることが大切だ。

「目線合わせ」が出来た後は、「ポイント」を抑えた資料を作成して、上申していければ経営陣のコミットメント得られる。

実行と継続を見据えた組織体制の組成

健康経営の実践において、現実的に末端まで実践することを想定した組織体制の構築が重要だ。従来の施策以上に「ライフスタイル」「ワークスタイル」への配慮をしなければ、「行動変容」はされないからだ。

同じ企業内でも働き方は担う役割によって、大きく変わる。工場、研究員、本社スタッフ、営業、そして地域・拠点なども配慮する必要がある。

例えば:
・工場で働く方は、車通勤が多く、シフト制だが、トップダウンでルールなどの遵守度合いが高い
・研究所で働く方は、時間差出勤をしている人が多く、座りっぱなしの状態が続くが論理的であることやエビデンスを求める人が多い

これらの背景を踏まえると現場の声を取り入れた実行率や継続率の高い施策を打ち出す必要性が出てくる。

これらを組織立てて取り組むには、人事部門などの健康経営推進部門、健康保険組合、経営層だけでなく、他の各組織の協力も取り付け代表者を選出すべきだ。

そしてその代表者は毎年変えることを推奨したい。各組織の中に、携わった人が徐々に増えることで、自ずと「健康経営」の考えが浸透されていくからだ。

また多様な価値観が存在しているはずなので、多くの人が関与することで施策がより磨かれていくことを期待している。

さらに出来ることなら社内広報に長けている部門や情報システム部門、法務部門などの参画ものぞましい。

①社内広報:産業保健領域に携わってきたメンバーは、健康診断の受診やストレスチェックの受検などを法的観点から事務的に連絡することが多く、従業員の立場に立った「響く」アナウンスは難しい。そこで社内広報(メール文面、プロモーション、チラシなど)が上手なメンバーの参画が望ましい。
②情報システム部門:施策実施にあたっては、システム導入が必要になるタイミングがある。これらの仕組みの導入に際し、セキュリティ面や個人情報の取り扱いについて予め議論に含めていくことで手戻りなく、施策の実行が可能となる。

このような視点で恐らく体制を組まれている2社の事例をピックアップした。

▼事例:・花王株式会社様 健康づくり推進体制
会議の目的や頻度、出席者まで明確になっている

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株式会社丸井グループ ウェルネス経営推進体制
社内全体で推進していく際に、プロジェクト体制を整え、公募でメンバーを募集。社外へのコミュニケーションまで意識されたプロジェクト体制が敷かれている。

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健康経営を進める上で、生活習慣改善施策などに焦点が当てられがちだが、その前段階として、「目線合わせ」や「組織づくり」がポイントとなる。どうしても従来の「健康」への取り組みをベースに考えがちだが、そのバイアスを取り除き、進めていかなければ健康「経営」にはなりえない。次回は、詳細の施策について記載をしていきたい。

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