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人はみな楽器として生まれついている。

ある人に突然そういう風に言われた。
だから、どんな楽器でもいいから演奏しなさいよ、と。

自分はいまは「聴き専」だが、大学生の頃までは、毎日のようにピアノを弾いていた。
誰にも教わったことはないけれど、近くの書店で楽譜を買ってきて、どうしても弾きたい好きな曲、ベートーヴェンの悲愴やショパンのイ短調のワルツ、ブラームスのop.117のインテルメッツォやラフマニノフの嬰ハ短調のプレリュードを、自分だけのために我流でよく弾いていた。シューベルトやシューマンの歌曲のピアノ部分だけを弾くのも好きだった。

実家にあったアップライトピアノはとても音が元気でうるさく感じたので、
いつもソフトペダルを踏みっぱなしで、できるだけ小さい音で控えめに弾くのが好みだった。

好きで続けていれば、それなりに曲らしい感じにはなってくる。
指使いは滅茶苦茶だし、リズムもテンポも、第三者からしたら聴くに堪えないものだったろう。けれど、楽譜を読みながら、一音一音自分の指で響きを確認しながら、えっちらおっちら進めていくのは楽しかった。
それがのちに仕事の役に立つようになるとは、夢にも思わなかった。

今はとても忙しすぎて、再びピアノを弾く余裕は全然ないけれど、
いつか再び、鍵盤で遊ぶ日々が来るのかもしれない。
ペルトとかシルヴェストロフとか、鍵盤を押さえてみるだけでも楽しそうだ。
そんな甘いものじゃない、とプロの人は言うだろうか?

人はみな楽器に生まれついている、という言葉が、まだこだましている。

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