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【大火傷】かなり回復しています。【その後】

パスタを茹でようとしていた熱湯を鍋からひっくり返して全部足元にぶちまけ、両足に大火傷を負ったのが2月5日の大雪の夜。
あれから1か月以上がたつが、まだ松葉杖が手放せない。痛みはほとんどなくなって、普通に歩けるようになり、左足は全快した。何なら松葉杖を持って走ろうと思えば走ることもできるのだけれど、回復の遅い右足の甲の皮膚が破けてまた血だらけになるのが怖いので、慎重にかばうように歩いている。完全に元通りになるには、もう少しかかりそうだ。

いまだから書けるけれど、最初の頃は本当に悲惨だった。火傷の瞬間は恐怖とパニックで震えが止まらなかったし、精神的なショックが大きかった。大福や肉まんが何個もできたような巨大な水ぶくれで足が化け物のようにボコボコに膨れ上がり、これが人間の足かと思うほど酷い状態になった。
立ち上がろうとして足を下におろすだけでも激痛が走るので、家の中では常に仰向けになりながら移動した。昔、アントニオ猪木がモハメド・アリと異種格闘技で戦った時のような姿勢だったので、自分は猪木なんだと言い聞かせて頑張った(笑)。
あの頃の自分は、この大火傷をできるだけ「たいしたことない」ことにしてしまいたかったんだと思う。救急車も呼ばなかったし、入院なんて絶対に嫌だと思った。仕事への影響を最小限にとどめたかった。
皮膚科に行った帰りには、ファミマに何軒か寄って、エガちゃんねる(YouTube)とファミマのコラボ商品のポテトチップスを探した。そんなことをしている余裕はないはずなのだが、そうすることで、何でもない日常を確かめたかった。「あたおか」(頭のおかしい奴ら=お笑いタレントの江頭2:50のファン)のクラシック音楽評論家が他にいるのかどうかは知らない。とにかく自分の大火傷を笑いごとにしてしまいたかった。

大火傷の5日後(2/10)には、これだけはという思いで、レオ・ヌッチを聴くためにサントリーホールに出かけた。この日は文字通り死に物狂いだった。ヴェルディのオペラを好きな人なら、そしてレオ・ヌッチがどれほど偉大なバリトンかを知っている方ならこの気持ちは理解していただけるだろう。痛みでときどき意識が遠のきそうになったが、何とか集中を保って、ヌッチの素晴らしい声を堪能した。まさに現代の至宝である。
このとき私は理解した。コンサートホールや劇場に行く理由とは、音楽や演劇を単に楽しみたいというだけでなく、ある種の自己確認なのだと。

ザルツブルク音楽祭やメトロポリタン・オペラに行ったときに思ったのは、車いすや杖をついた高齢者の姿がとても多いということだった。彼らは無理を押して老体に鞭打ちながらなぜオペラに出かけるのか。それはきっと人生のなかで何が一番重要なのかを確認する行為でもあるからなのだ。

話を火傷に戻そう。
全治2週間と最初言われて、軽く考えてついつい出歩いていたらかえって悪くなり、3週目の頃から歩くたびに右足甲から血が滲んでひどく化膿してしまった。特にやばかったのは、ガーゼをはがすときで、水で濡らしながら20分くらいかけて慎重にはがすのだが、そのたびに毎回かさぶたが破けて出血してしまい、痛くて大変だった。それを皮膚科に訴えたら、薬を塗ったらガーゼではなく、食品用でいいのでラップを貼り、その上から包帯を巻くようにと言われた。
そこからは痛みが少し改善し楽になった。最初から傷口にはガーゼではなくラップを巻いたほうが良かったように思う。もし大火傷に苦しんでいる人がいたら、塗り薬の上からはラップを巻いてみることをお勧めする。

2月中旬からは無理して出歩かず、できるだけタクシーを使うようにしたが、アプリを使うとものの数分でタクシーが呼べることに気が付いた。私が使っているのはGo pay(ゴーペイ)というアプリだが、病気で苦しんでいる人にとって、こんなに有難いものはない。迎えに来るタクシーのナンバーや、どのくらいの場所をいまこちらに向かっているかが地図上に表示されるし、現在地と目的地を指定しておけるから気遣いもいらない。アプリの課金で支払われるので、タクシーを降りるときにもお金を払う必要がない。タクシーの運転手に聞いたら、需要のかなり多くが病院関係だそうだ。地域にもよると思うが、おそらく救急車よりも早く来てくれるのではないだろうか。駅前のロータリーのような場所では呼べないのだが、ちょっと外れた場所からなら呼ぶこともできるので、タクシー待ちの行列に並ぶ必要もない。これも運転手に聞いた話だが、駅前のタクシー乗り場はある種の縄張りで、入ってもいい会社が決まっているのだそうだ。悪天候の日などなかなか乗り場にタクシーが来ないのはそんな理由もあるようだ。そういうときもこうしたアプリは使えそうだ。
健康体のときはいくらでも歩けても、いったん足を悪くしてしまうと、タクシーはインフラといえるくらいに必要になってくる。たとえ呼び賃が400円、500円かかろうとも、どうしてもタクシーを呼びたいことも出てくる。そういうときにアプリはすごく役立つということを知った。

本当は、大火傷した直後の足の状態の写真を「閲覧注意」としてここにアップし、現在のやや治った足の状態の写真もアップして比較できるようにすることも考えた。同じように大火傷して不安に思っている人の助けになればとの思いである。
しかしあまりにも怖い画像になってしまうので、それは止めてトップ画像は大好きな桃の花にした。梅の花がほころぶ頃に火傷をしたが、桃の花が咲いた数日前には痛みもほぼなくなったので、その感謝の意味もこめた。
桜の花が咲く頃にはすっかり治っていればいいのだけれど。

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