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”コロナ”なんかより”健康イデオロギー”の増殖のほうがよほど怖ろしいんです

【画像:著作者:macrovector_official/出典:Freepik】

第3回❐2023年3月16日記


 寿命の話に関して言えば,『ナショナルジオグラフィック日本版 1月号』(特集:より長くより健康に生きる)(2022年12月30日発行)に,興味深い記事がいくつか掲載されていたので眺めておこう。

 1900年から2020年までに世界の人々の平均寿命は2倍以上延びて,73.4歳に達した。だが,この目覚ましい成果には代償が伴った。慢性疾患や進行性の疾患が劇的に増えたのだ。老化はがん,心臓病,アルツハイマー病,2型糖尿病,関節炎,肺疾患など,あらゆる主要な疾患の最大のリスク要因だ。(p.41) 
 
 老化に伴う多くの健康問題の根源には,老廃物の蓄積がある。~老廃物を除去する薬や,その蓄積を遅らせたり防いだりする治療法が開発されれば,痛みや不調なしに80代半ばや90代まで長生きできる人が今よりはるかに増えるだろう。人間の寿命は120歳から125歳と考えられているが,その限界まで長生きする人も増えるかもしれない。今のところ,先進国でも100歳まで生きる人はおよそ6000人に1人,110歳を超える人となると500万人に1人にすぎない。(同上)
 
 もっと長く生きられるよう人体の機能を最適化することは可能なようだ。その方法を解明した者は,莫大な富を手にするだろう。当然ながら,投資家は長寿研究に惜しみない資金をつぎ込む。グーグルはその先陣を切り,2013年に医療関連企業のカリコ・ライフサイエンシズを設立した。
(中略)
この分野の研究に威力を発揮するのは,人工知能(AI),ビックデータ,細胞の初期化,そして人体の機能を支える無数の分子についての知見だ。今や老化は「治癒」できると語る研究者までいる。(p.43)

(『ナショナルジオグラフィック日本版2023年 1月号』)

 もう一つ,デジタル技術を使って病気の予防や治療をはかる「デジタルヘルス」なるものの市場が,欧米を中心に急成長しているという話が「朝日新聞」(2023年2月5日4面 Sunday World Economy)で特集されていたので,それも取り上げておきたい。

 2023年1月上旬にラスベガスで開催された世界最大級の技術見本市「CES」会場の注目をさらったのが,デジタルヘルスだったそうだ。関連の出展企業・団体は467にのぼり,ウェアラブル端末だけでなく,手軽に健康状態を検査できるような機器やサービスが登場したということである。
 この分野の世界市場は,2016年には約733億ドル(約9兆円)だったものが,2021年には約1650億ドル(約21兆円)と倍増,2031年には何と約8261億ドル(約106兆円)まで膨らむ予測というから驚くばかりだ。
 もっとも,わが国は例によって,データの安全性やプライバシーの信頼性の低さがネックとなって大きく出遅れているようではあるが…。
 
 ことほどさように,人間の”健康”は今や「資本」の恰好の標的となってしまっているのだが,”健康”保全に対する過剰な執着がいつの間にやら”健康”管理の強化を助長し,「権力」にとって甚だ都合の良い情況を生み出してしまう危険性をも内包するという事実に思いを馳せる人は少ない。 
 
 今般のコロナ騒動に引きつけて言うならば,コロナ禍に対応した一連の統治諸策に安易に与することは,同時に,ひたすら”健康”であることを志向する不安心理にうまく付け入り,”健康”管理体制の強化を正当化せんとする言説にも巧妙に搦め捕られてしまうということでもあるのだ。

 ひとまず今回は,『対論 1968』(集英社新書,2022)の中での笠井潔氏の発言をもってまとめとしよう。

~パンデミックがいったん終息しても,強化された生権力のイデオロギーと統治システムは,何かあればすぐに例外状態,戒厳令的な治安秩序を全面化してくるに違いない。
 人間いつかみんな死ぬんだ,人口半減でもない限り気に病むほどのことではない(笑),そういう気楽さ,いい加減さが社会的に共有されていればコロナぐらいで動揺はしないはずだよ。しかし健康管理の徹底化に,ここまで国民の大多数が合意するとはね。例外化した主権権力は,そのほうが秩序維持には効率的だから,健康イデオロギーの浸透を誘導してきた。」(pp.232~233)

『対論 1968』(集英社新書,2022)

 ちなみに笠井氏は,推理作家,SF作家としても著名であるが,現代では本当に数少なくなったきわめて真っ当な批評家であり,その著作からは学ぶべき点が多い。

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