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「どこでもやっていける人」が強い3つの理由

エンプロイアビリティには、三つの観点がある。


今の会社に雇われつづけられる

一つめは、所属している組織に雇われつづけるためのエンプロイアビリティという観点だ。
これは、どんな時代でも、ビジネスパーソンにとって基本的な観点である。
ひとつの組織のなかで、長期にわたって、いい仕事をしつづけていくことができるなら、やはりそれは幸福なことだと言えるだろう。
アクティブに考えれば、自分がいる会社の事業に貢献し、会社をもっといい会社にしていくために仕事をするには、雇われつづけなくてはならない。
経営サイドから見ても、意欲も能力も高い社員を手放したくはない。優秀な社員は他社に奪われることなく自社で抱えて、会社のために活躍してほしいのである。
パッシブな捉え方もできる。
規則を守り、人間関係を良好に保ち、仕事は人並みにやる。処遇には文句を言わない。特別目立つことはなくとも、会社にとって都合のいい人材でいつづけるということが、雇われつづけるためのエンプロイアビリティに繋がるという考え方だ。
実際、そのような人材に、ほんとうになることができれば、半数以上の社員がリストラされるようなことにでもならないかぎり、ひとつの会社に居つづけることはできるかもしれない。
しかし、会社自体が永久に存続していく保証はない。会社がつぶれた場合、身につけている能力や価値観がひとつの会社でしか通用しないものであれば、どこからも雇ってもらえないということになる。
そこで、ひとつの会社に雇われつづけると同時に、いざというときに、できる限りいい条件で転職できるような準備が必要になってきた。
いっぽう、ダウンサイジングを指向する企業の側でも、いざという時に転職できるだけの覚悟と能力を持った社員を抱えておきたいというニーズが急速に高まった。
経営者からみれば、それが、機敏で思い切った構造改革を可能にし、しかも社員の早期退職をめぐるトラブルを少なくするための極めて有効な方法だからである。
社員の側からみれば、他でもやっていけるだけの能力と覚悟があるほど、今いる会社から継続的に雇われる可能性が高まったともいえる。
まったく逆説的なことだが、会社を辞めてもやっていける可能性のある人ほど会社にいてくれて結構、ということになってきたのだ。

良い条件で転職ができる

エンプロイアビリティの二つ目の観点は、好条件での転職を可能にすることだ。
プロ志向のビジネスパーソンたちはもともと、この観点を強くもって仕事をしてきた。
個人の力が事業を左右するような業界では、高い報酬を払っても価値ある人材を引き抜くことができれば、他社に対して優位に立つことができる。
野球でもサッカーでも、プロスポーツの世界では、それは昔からの常識だった。
プロスポーツでなくとも、実績をあげた外資系企業のトップには「引き抜き」のオファーなど、専門性の高い仕事をするプロフェッショナルにたいするヘッドハンティングは恒常的に行われてきた。
そうした職種の人々は、自分の能力、キャリアにたいして、どれだけの処遇(年収・ポジションなど)が与えられるのか、ということを常に意識してきた。
いい条件で転職すること事態がプロらしいキャリアになり、それが、後でさらにいい条件で転職できることにつながるということも少なくないからである。
彼らにとってエンプロイアビリティは、業界内の人材流通市場における「自分の市場価値」に他ならない。
そこにあるのは、アクティブな意味で、エンプロイアビリティを日ごろから磨いていけば、かならず好条件で転職することができ、転職によってさらにエンプロイアビリティを高め、プロフェッショナルとして堂々としたキャリアをつくることができるという価値観である。
人材の流動性がおきやすい業種では、パッシブに考えても、日ごろから、少しでも専門的な能力をたかめて、世間並み以上の条件で、いつでも、どこか自分を雇ってくれるところがあるという状況にしておくことが、もっともリスクを少なくする働き方だという発想になる。
終身雇用が実質的に崩れたいま、この観点でエンプロイアビリティをとらえる傾向は、あらゆる業界・業種のビジネスパーソンのあいだで強まっていくだろう。
 

やりたい仕事をやりつづけられる

雇われつづけるためのエンプロイアビリティ。好条件で転職するためのエンプロイアビリティ。この二つの観点のほかに、もうひとつ、エンプロイアビリティを考えるための重要な観点がある。
それは、やりたい仕事をやりつづけるためのエンプロイアビリティという、三つ目の観点だ。
ひとつの組織に雇われつづけてもいい。転職を繰り返してもいい。独立自営となってもいい。
とにかく自分がやりたい仕事を見つけ、それを長期にわたって磨いていくことができれば、専門能力も高まるし、必然的に実績もともなってくる。
実績をあげれば、組織のなかでも認められ、優遇される。外部からヘッドハンティングの声がかかる可能性も高まる。
やりたい仕事を追求していくことができる人ほど、結果的にエンプロイアビリティは高くなる。
自分の技術や自分のつくったもの、あるいは自分のサービスを買ってくれる相手がいさえすれば、特定の組織に雇われる必要はかならずしもない。
自分で自分を雇うという選択肢もうまれる。
ところが、やりたい仕事を追求していくためにはエンプロイアビリティが必要なのである。
やりたい仕事を確立し、成果をあげ、キャリアを創造していくためには、常にやりたい仕事をやる場*がなくてはいけない。あるいは、やっている仕事を、「やりたい仕事」に進化させていくための場*がなくてはいけない。
そのために、やりたい仕事をやらせてくれる相手が必要になるからである。

*場:たとえばコンサルタントになるには、経営学や問題解決手法を学ぶために学校にいくことはプラスだが、それ以上に、実際にコンサルティングを自分でやってみて成果をあげ、実績をつくることが重要だ。そのためにはコンサルティングファームで修業させてもらいながら実践できる「場」を得ることができるかどうか、あるいは自分の力で、なんとかクライアントを獲得できるかどうかが最大のポイントになる。

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