未来を切り拓くデザイナーに求められるアントレプレナーシップとは
毎年この時期になるとアドベントカレンダーでクリスマスがほぼ徹夜になるグッドパッチ土屋です。
今年も色んな事があったのでアドベントカレンダー最終日で何を書こうかと迷いましたが、今日は私がグッドパッチを始めてから大切にしている「アントレプレナーシップ(起業家精神)」について書いていこうと思います。
グッドパッチでは入社時にオンボーディングの社長研修があるのですが、その中でも必ず触れられるのがアントレプレナーシップ(起業家精神)です。
今年は社内でデザイナーを事業家に育成するアントレパッチというプログラムもスタートしました。
僕はこれからの時代で世界を前進させるデザイナーいや全ての人材にとって、最も重要なマインドセットが「アントレプレナーシップ」になると思っています。
アントレプレナーシップ(起業家精神)とは何か?
アントレプレナーシップはフランス語の「~を行う」という意味のEntreprenendreが語源になっています。「アントレ」の部分がbetween(の間で)、「プロンド」の部分がtake(引き受ける)の意味を持つ造語で、13世紀のマルコポーロを始めとする仲買人のことを指していました。
シルクロードにおける物流を支えていたのは、当時の環境での危険や災難にもかかわらず、富のために事業に尽力する商売人たちでした。
リスクとともに事業に挑む者が、元来の意味でのEntrepreneurです。
その意味で、大航海時代や産業革命以降においてもEntrepreneurは時代を牽引していったのです。
その後、「起業家」という概念を最初に用いたのは、フランスの実業家、リチャード・カンティヨンです。
そこから現代に入り、Entrepreneurship(アントレプレナーシップ)という概念が生まれてくるのですが、有名な定義の1つとして、ハーバード・ビジネススクールのハワード・スティーブンソン教授によるものがあります。
ぜひ引用元の記事も見ていただきたいですが、起業家精神と日本語訳されるこのアントレプレナーシップという言葉を聞くと起業家のためのマインドセットなのかなと勘違いしてしまうのですが、このアントレプレナーシップという言葉は起業しろという話ではなく、多くのビジネスマンが持つべきマインドセットなのです。
TOYOTAの豊田章男社長も通っていたアントレプレナーシップ教育で有名なバブソン大学の定義は僕にとっては一番納得感のある定義でした。
日本でも企業カルチャーとして「起業家精神」を掲げている有名な企業としてリクルートがあります。
常識や自分の領域に縛られずに、今までになかった価値や未来を切り拓いてきたイノベーター人材が共通して持っているマインドセットがアントレプレナーシップ(起業家精神)です。
世界を変えた「起業家」のバックグラウンドの変化
過去、シリコンバレーから生まれた世界を変えてきたスタートアップの起業家は実はほとんどがエンジニア出身でした。
しかし、2010年代に入ると明らかに今までとは変わった流れが出てきました。それはデザイナー出身の起業家が成功する事例が明らかに増えたのです。
おそらく、それまでの時代でもデザイナー出身の起業家がいなかった訳ではないと思いますが、この10年間で明らかにデザイナー出身の起業家が作った会社、もしくはデザイナーが共同創業者にいる会社が世界を大きく変えるような成功事例が目に見えて増えました。
これはそれまでの20年の中ではなかった大きな変化だと言えます。
この10年は明らかに世界でデザインの重要性が高まった10年だったと思います。
デザイナーの起業家が増えた要因
では、デザイナー起業家が増えた背景にはどの様な要因が関係しているのでしょうか。この10年で起きた主な変化は以下です。
この10年の起きた大きな変化
スマートフォンの世界的普及
人とソフトウェアの接触頻度が急増
企業と消費者の関係性の変化(戦略よりも顧客志向への揺り戻し)
SaaSなどのビジネスにより顧客と長期の関係を築く事が重要に
この全てに影響する言葉 “UX - User Experience”
ユーザー体験の重要性は明らかに大きくなりました。
ビジネスモデルや戦略よりもUX(ユーザー体験)が重要視されるケースが多くなったのが、この10年でした。
スマートフォンの爆発的な普及により、人々の生活の中にソフトウェアが密接に入り込み、ソフトウェアを通してサービスを利用する頻度が多くなりました。
そして、SNSの登場により一般の消費者が企業よりも発信力を持つ時代になり、企業は不都合な面を隠すことができなくなり、透明性の高い企業経営を強いられる事になり、より顧客目線のサービス提供が求められるようになりました。
さらにSaaSなどのサブスクリプションビジネスの普及により、顧客と長期の関係構築が重要になり、KPIが一時的なコンバージョン率ではなく、継続率、解約率、エンゲージメントなどが重要になってきました。
顧客と長期の関係構築をしていく上で、企業ブランドのメッセージング、ユーザー体験の一貫性、コミュニケーションのデザインなどユーザーがサービスを心地よく使い続けるためにデザインの重要性は大きく上がりました。
真に愛され、顧客に驚きや喜びを提供できる企業となることが必要になったのです。
悪い商品でも売ってしまえばこっちのもの、というのでは成り立たなくなり「ごまかしではなく真に愛される会社」となることが、綺麗事ではなく成長する上で合理的な戦略になっています。
「愛される」とか「驚きを持って記憶に残してもらえるものを作る」という部分で、今デザイナーが起業家として力を発揮しているのではないでしょうか。
デザイナー起業家の特徴
この10年でデザイナー出身の起業家が作ったスタートアップはかなり増えました。
その中でも、デザイナー起業家として有名なAirbnbとSnapの創業者から見える特徴を探ってみました。
Airbnb
Airbnbはデザイナーが起業したスタートアップの事例として最も有名だと言っても良いと思います。Brianと Joe は RISD(ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン)出身のデザイナーです。
美大のハーバードとも呼ばれる有名校であるRISDで出会った2人に、本家ハーバード大学でコンピュターサイエンスを学んだNathanが加わり、Airbnbは生まれました。
昨年コロナ禍にも関わらずナスダックに上場を果たし、時価総額10兆円を越える大成功を収めたスタートアップであるAirbnbですが、最初のアイデアは人の家にお金を払って泊まるという当時ではあり得ないアイデアでした。
多くの投資家がその馬鹿げたアイデアに呆れ、出資を断りました。しかし、彼らはアメリカで世界的な大規模イベントが行われる時にニューヨークやサンフランシスコでは一時的にホテルの部屋の数が足りなくなることを知っていたので、お金を払ってでも人の家に泊まりたいニーズはあるはずだと考え、2008年に自らがホストとなり見ず知らずの人を自分の家に泊めた経験が非常に良いものだったため、これは経験すれば多くの人が共感できるはずだと信じていました。
Snap
Snapchatを運営するSnapの共同創業者Evan Spiegelはスタンフォード大学のインダストリアルデザイン専攻出身の起業家です。
Snapも2017年にニューヨーク証券取引所に上場しており、時価総額8兆円の企業になっていますが、Snapchatの初期のアイデアはなんと24時間で消えてしまうメッセージでした。
当時、多くの人はメッセージが24時間で消えてしまうなんて意味ないじゃんと思ったことでしょう。しかし、Snapchatの創業者達はミレニアル世代の若者たちはすでにFacebookなどの既存のSNSには親の世代もおり、SNSに自分のプライベートな画像などが残ってしまうことを嫌がっているインサイトを掴んでいたのでした。
Snapchatのしばらく経つと消えてしまうメッセージと独特なユーザーインターフェイスと絵文字とフィルターなどがミレニアル世代の若者たちに刺さり、その後24時間で消えてしまう投稿はInstragramなどもStoriesとして真似され多くのSNSに実装される機能となったのでした。
AirbnbとSnapの創業者の特徴として最初は一見すると馬鹿げたアイデアだけど、実は普通の人では気づくことができなかった深いユーザーインサイトを読み取り、今までにはない全く新しい体験のサービスを生み出していることが分かります。
この深いユーザーインサイトを捉えるという能力はデザイナーというバックグラウンドから来ているのではないかと私は考えています。
デザイナーに共通する態度や文化の特徴
ビジネスコンサルタントのカミル・ミヒレウスキがデザイナーに共通する態度や文化の特徴をまとめているのですが、これらの考え方もデザイナーの起業家に共通する部分だと思います。
不確実性や曖昧さを受け入れる:予想を裏切るプロセスの展開をむしろ心地よく感じる
ユーザーに共感を寄せる:先入観を捨ててかかる。消費者をマネジメントの都合で抽象化された対象ではなく、リアルな人として扱う
五感を駆使する:五感を組み合わせることで、最高のブランドや体験をつくりだす
遊び心を持って取り組む:創造的だが、ばかばかしくも見える方法を使って本質的な問いを投げかけ、既存のゆるぎないやり方に挑戦する
複雑性から新たな意味を創りだす:多様で相互に矛盾する視点や情報源に進んで関わり、それらを融合させて、まったく新しい考え方を生みだす
※引用:サービスデザインの教科書
世界に広がるデザイン×アントレプレナーシップ教育
海外では、多くの美術大学・デザインスクールで デザイナー向けの起業家教育が行われています。
例えば、Royal College of Art(RCA)のサービスデザイン修士のコースの中にはUnleashing Innovationというプログラムがあります。
他にも
Savannah College of Art and Design(SCAD)
MA in Service Design
Bern University of the Arts(HKB)
Entrepreneurship Track
Rhode Island School of Design(RISD)
Exploring Entrepreneurs
KAOSPILOT
Creative Leadership Program
世界のデザインスクールでもアントレプレナーシップ教育のニーズは高まっているように思えます。
なぜデザイナーに起業家精神が必要なのか
今、世界は明らかに時代の転換点にいます。
行き過ぎた資本主義経済の限界
経済合理性に基づく意思決定の限界
ESG、SDGs、サステナビリティ
循環型社会への世界的な流れ
共感の力によって社会を動かす時代に世の中は流れています。
ビジネスシーンでは過去にはないくらいデザインへの注目が集まっています。
しかし、僕がこの業界に15年いてずっと感じていたのが日本のデザイナーに最も足りていないのがアントレプレナーシップ(起業家精神)だと思っていました。
海外ではデザイナー起業家が結果を出している一方で、日本ではデザイナーが常にサポート役にまわり、自分で大きな事業を起こしたり、経営層に入ってくる事例もまだまだ少ないのです。
僕はデザイナーバックグラウンドの起業家及び事業家をもっと増やすことが世界にとっても良いことだと思っています。
起業家の思想は少なからずバックグラウンドに影響される部分はあると思っていて、ビジネス・ファイナンスがバックグラウンドの起業家は競争の中でどう勝っていくか、資本主義の中でいかに戦っていくかを重視し、エンジニアバックグラウンドの起業家はテクノロジーを使って問題解決をする、技術でできることから発想する傾向があります。※もちろん、全ての人がそうではありません。
デザイナーバックグラウンドの起業家はやはりユーザーのペインから発想し、ユーザーの感情を想像しながら事業をデザインするというのが中心にあると思っています。
ユーザーの感情をケアしながら、社会課題にも目を向け、世界を最も美しくアップデートしてくれそうなのはデザイナーバックグラウンドの起業家だという期待があります。
デザイナーバックグラウンドの起業家を増やすことはより美しく住みやすい世界へと繋がるのではないかと。
個人的な想いとしては日本からもAirbnbのブライアン・チェスキーのような デザイナーバックグラウンドで世界を変える起業家を生み出したい。
でも、アントレプレナーシップ(起業家精神)とは自分で起業しなさいということだけではないです。
企業の中でも起業家精神を持つデザイナーを増やせば、その企業内からイノベーションが生まれる可能性は増える。
ぜひ、これを見たデザイナーの皆さんはビジネスのイニシアティブを自分で取りに行って欲しいです。デザイナー視点の意思決定が経営や事業に加わる事で世界はより良くなります。
デザイナーよ、
アントレプレナーシップ(起業家精神)を持とう!
※今回のコンテンツはDesignship Do+の僕の動画授業から一部抜粋して編集しています。
アントレパッチに興味のある方
グッドパッチではデザイナーを事業家に育てるためのプログラム「アントレパッチ」を僕が講師として開催しています。
将来、事業を立ち上げたいと考えているデザイナーや今現在デザイナーじゃなくても興味のある人はぜひキャリアページや僕のTwitterからコンタクトしてみてください。
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Goodpatchに入社する人材は美大・芸大出身に限らず、総合大学出身、営業、事業開発、コンサルなど多岐に渡ります。 私たちのバリュー「Go beyond」を体現する、多様なデザイナーたちを紹介するムービー
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記事を読んでいただきありがとうございます!これからも頑張ります!