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行動経済学における「ナッジ」がなぜ重要か?セイラー先生に聞いてみた#41

心理学と行動経済学の記事 第41回


これまで、私の記事でも、行動経済学の分野の一つである「ナッジ」について記事を寄稿した。本記事の一番最後にそれらに関する記事を貼っておく。


アメリカ、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞した。

従来の経済学では、説明できないこと(価格が下がれば需要が上がるは絶対じゃない)を、行動経済学者たちは、多くの学問を融合させ、世界に対する私たちの見方を変える経済学の一分野を創り出した。

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行動経済学者は、お金などのより日常的な観点から重要なことを説明してくれた。


そのような偉大な行動経済学者の中で、「ナッジ」の提唱者であるセイラー教授が、現代の最も重要な経済学者である理由は、以下に挙げる行動経済学の4つの考え方のためだ。


1. 「ナッジ」は「ナッグ」より重要

アメリカでベストセラーとなったシカゴ大学法科大学院教授、キャス・サンスティーンとの共著「実践 行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択」(原題: Nudge)の中でセイラー教授は、私たちが金融行動においてより良い結果を得るためにはどうすべきかについて議論している。


教授らによれば、私たちは何かのやり方を変えるようしつこく文句を言うこと←(ナッグ)されたときよりも、「ナッジ(肘で軽く突く)」されたときの方がずっと良い結果を出す。


例えば、退職後に備えて蓄えておく必要があることは、私たちの誰もが分かっていることだ。だが、企業年金制度の大半は、ナッグなのである。つまり、私たちに貯蓄することを自発的に選択させようとするため、ほとんどの人たちにとって要求が過剰なのだ。

そのため、貯蓄が不足する人が大半になる。さらに、アメリカでは、およそ半数の雇用者が、退職金制度を設けていない。


そこで、セイラー教授とカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のシュロモ・ベナルツィ教授は、「セーブ・モア・トゥモロー(Save More Tomorrow、明日はもっと貯めよう)」というプログラムを考案した。

一定の金額を企業年金制度への積み立てに回すことを基準とし、貯蓄を増やすよう従業員たちを「ナッジ」するというものだ。

つまり、「貯蓄する」がデフォルトになり、「貯蓄しない」ならそれを選ばなければならない。この場合、大半の人は貯蓄をするようになる。

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自動的に貯蓄する企業年金制度に加入している人は、その他の制度に入っている人の3倍以上、貯蓄をしている。



2. 「簡単さ」が重要


そもそも、私たちは金融行動に関して、あまりに複雑な意思決定を強いられている。

国民の中に、国や民間を含め、すべての金融知識を網羅している人は、ほとんどいない。

セイラー教授はかなり以前に、そのことに気付いていた。そこで教授は、選択に関する基本設計概念「選択アーキテクチャ」を改善することに注目した。つまり、選択肢の提供の仕方が違いを生むということだ。

例えば、加入するクレジットカードを選ぶとき、支払うことになる料金や手数料を事前に確認できたらどうだろうか?規約や規定を苦労して読むよりも、選びやすくなるのではないだろうか。

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そういった多くの人が利用規約を読まないことを考慮した上で、あえて分かりにくくしているところに、私たちの消費者へのアプローチが企業ごとで明確になる。信頼とはそういうものなのかと考えている。



3. 経済学は理論である前に「人間」の問題


経済学、そして何が市場やお金を動かすのかといった問題については、多くの大理論がある。

だが、何が起きているのか突き詰めて考えていくと、最後には、最優先されていない私たちの感情や意思決定にあるということが分かる。

伝統的な経済学は私たちが自らの利益のために行動する「合理的経済人」であるとの見方を維持している。

だが、それでは不合理な例が多くある。(私たちはなぜ、当たる確率が低い宝くじを買うのだろうか?)

セイラー教授らが注目するのは、実際には私たちの脳がどのように働いているかという点だ。

私たちは繰り返し、良くない決断をする。それは、私たちの感情が合理的思考を抑え込むためだ。



4. 重要なのは金融知識の「使い方」


アメリカではほとんどの人が、緊急時のための貯蓄が不足している。連邦税の還付を受ける納税者に、自動的にその還付金を貯蓄に回すことを選択できるようにしてはどうだろうか。

また、企業年金制度に加入する人は、列挙されている数十もの投資先の中から、自分が投資するものを選ばなくてはならない。

その負担を強いる代わりに、ポートフォリオは事前に設定しておき、加入後にそれぞれのリスク許容度や年齢、キャリアに応じてカスタマイズできるようにしてはどうだろう(ターゲットデートファンドは、すでにこのような形態を採用している)?

あるいは、個人の信用情報や収入に基づき、利用可能な住宅ローンやクレジットカード・ローンの中で最も低金利の商品を即座に見つけることが可能なアプリケーションを開発してみてはどうだろうか。

はるかに効率的に、そして簡単に、貯蓄ができるようになるだろう。選択肢が多いことがより良い選択肢だとは、限らないのだ。(ジャムの数を変えて陳列棚においた実験はそれの代表例だ)

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行動経済学の科学が直面する課題は、私たちが退職後に個人の尊厳を維持することを支援し、金融に関するその他の目標を達成することを支援するということだ。

当然ながら、行動経済学には今後も直すべきことが数多くある。

だが、私たちはお金の問題に関して、以前より安全な世界にいる。



セイラー教授の優れた働きのおかげだ。





ここでサポートいただいたものは、全て私の母の病気への還元に使わせてただいています。