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第11号(2023年10月20日)いよいよ制空ドローンが本格化へ(9月期)
みなさんこんにちは。今号は9月期の話題と論考についてご紹介します。
ロシアがヘリによる対自爆ドローン部隊を創設
概要
DEFENCE BLOG が9月8日に投稿 (記事本文)
原題:Russia creates special helicopter units to hunt Ukrainian drones
要旨
ロシアに近い複数の報道機関は、最近ロシア軍がウクライナの自爆ドローンを撃破するための特別ヘリコプター部隊を配備していると報じている。この部隊はMi-28N攻撃ヘリコプターに搭載された30mm 2A42シプノフ機関砲(元は装甲車両撃破用)でドローンを排除するという。
Mi-28により無人機を迎撃する動きは以前からある。特に、ウクライナ国防情報総局(GUR)はほぼ1週間前、ロシアのMi-282機と航空機1機が一時的に占領したクリミアのタルカンクート岬付近でウクライナの無人機1機を追跡していたが、迎撃は失敗したと報告した。
コメント
自爆ドローンに使われるようなドローンは皆さんご存じの通り「小型」で「一般的な航空機より低高度を飛び」「一般的な航空機より遥かに低速度で移動」します。ロシアがやっているのはハエを高級な電動ガンで退治しようとしているような印象を持ちました。小型ドローンを完全に封じ込める兵器は今のところ開発されていませんが、あまりにもドローンの優位性である「相手に非対称な対応を強いる」点にハマり過ぎてて何か裏があるのではないかとすら思ってしまいます。
自爆ドローンが重火砲に対する大きな脅威となっていることは今に始まったことではなく、甚大な打撃を与えている様子は こちらの記事でも取り上げられているとおりです。勿論対抗手段が増えていることも、開戦当初よりも非常にシビアな環境下でドローンが使われていることも事実ですが、量での対抗が容易な点はドローンに軍配が上がり、非対称性の克服には至っていないと考えます。
ドローンは、それ自体は小さく、既存の兵器とは比べ物にならないほど非力な存在です。しかしながら戦い方の柔軟性は桁違いに広がり、それによって克服困難な非対称性を相手に強いる存在となりました。この存在がいわゆる「ゲームチェンジャー」か?という点は、皆さん自身が考える「ゲームチェンジャー」の定義や規模によると思いますが、戦場において無視できない存在かつ、戦闘~戦略の各レベルまで対応できるマルチメディアツールであることは明らかでしょう。
人々がこの非対称性をどう克服するか?そしてどのような新しい戦い方をドローンから発見していくか、勿論そのための犠牲は食い止める必要があるものの、興味深いものがあります。(以上S)
対ドローン対策に攻撃ヘリコプターを投入するのは、S氏のコメントにもあるようにコスパ上の問題があるように思える。さらには他の攻撃ヘリコプターでできる任務に割く兵力を減少させてしまうことになり、これまた問題と言えよう。対ドローンに銀の弾丸はないというのは自明だが、よりよい方法を模索すべきだ。(以上NK)
ポーランドが制空ドローンのプロトタイプを発表
概要
BREAKING DEFENSE が9月5日発表( 記事本文)
原題: Poland unveils HAASTA prototype for drone-on-drone warfare
要旨
ポーランド政府支援の研究機関であるウカシェヴィチ航空研究所は、毎年恒例のMSPO防衛見本市の開幕に向けて、小型無人機に対抗することを目的とした新しい武装無人航空機コンセプト「ハースタ」を発表した。
この無人機の主な任務は、低速飛行するシャヘド型無人機(ロシアがウクライナで多用している無人機)を追跡し、エンジン排気を識別した後、胴部に取り付けられた5.45mm機関銃で敵目標を破壊することである。
ウカシェヴィチ航空研究所の代表者によると、同機は一連の飛行試験に合格したという。 まだコンセプトのデモンストレーション段階ではあるものの、開発者たちは将来に向けた顧客獲得に意欲的だ。
コメント
無人機攻撃への対抗手段はロシアによるウクライナ侵攻でその困難さが如実になり、世界中が頭を悩ませている問題です。この状況下で、「無人機による要撃を可能にする」この無人機は、まだプロトタイプではあるものの、画期的な存在であると言えるでしょう。また、多様な通信手段をとることができる上、搭載可能な火器も複数検討されていることからスペックとしても申し分ないと考えられます。
ちなみに、このようなスタイルの無人機は英国のMARSS社も開発しています。( JANESの紹介記事) こちらは頑丈な翼によって体当たりで敵を切り裂いて破壊するタイプであり、長らくイメージ図だけが公開されておりましたが先日のDSEIでモックアップが公開されました。コスト的にはこちらの方が安上がりそうですが、実用化にはどちらが先に到達するか、またどちらの方がユーザーフレンドリーに成果を出すことができるか注目です。
本文ではイタリアの企業であるユーロテックとの共同開発であることが述べられています。国際的な官民の連携は、日本では非常にハードルが厳しいように思われますが、こうした欧州の動きは今後広く一般的なものになり、世界規模になっていくものと考えられます。こちらは別に取り上げる韓国とトルコのパートナーシップにも見て取れるでしょう。日本は兵器の研究開発が即戦争に…と考えがちですが、現代では民生技術と軍事技術の境はほとんど存在せず、どちらもお互いに影響を与え合っています。例えばETCや複合材技術は、既に我々が享受している軍事技術のスピンオフです。
崇高な理念は素晴らしいものですが、どんな包丁鍛冶だって自分の包丁で殺人事件を起こされるなんてことは考えていないはずです。どこで線を引き、どこまで科学技術の恩恵を受け、国を守る力にするかを考える転換点に来ているのではないでしょうか。 (以上S)
航空機を迎撃する際に、どのようなアセットを使うだろうか?対空ミサイル、戦闘機?地上にある対空アセットだけで迎撃するわけではないことは明らかだ。傾向を見るに対ドローンにおいては、今のところ地上アセットで迎撃しようという方向が主である。しかし記事にあるような、同じ戦闘空間を共有するドローンによる手法も利点があり、増えていくと思われる。
既存の対ドローン用のドローンと記事のドローンの違いは搭載火器によって迎撃する点にあると思われる。既存のドローンはネット等で捕獲する等の迎撃方法をとるが、今回は搭載した機銃による迎撃を目指す。こうした方法をとるドローンはこれから増えていくのだろうか、これからの発展が楽しみである。(以上NK)
韓国がトルコとの防衛産業パートナーシップを計画
概要
Clash Report が9月11日発表(記事本文)
South Korea turns to Türkiye for UAV cooperation
— Clash Report (@clashreport) September 11, 2023
South Korea is planning to cooperate with Türkiye, whose experience and expertise it trusts.
Turkish President Erdogan and South Korean President Yoon Suk Yeol discussed ways to expand partnerships in the defense industry… pic.twitter.com/thf5Ed6Ci8
要旨
韓国の尹錫烈(ユ・ソンニョル)大統領とトルコのエルドアン大統領は、UAV、軍用輸送機、その他の兵器に焦点を当てた防衛産業におけるパートナーシップを拡大する方法について協議した。
エルドアン大統領は、防衛産業におけるパートナーシップをUAV、軍用機、装甲車にまで拡大すべきだと述べた。韓国は、この分野でのトルコの経験と専門知識に基づいて、UAVの技術と操作スキルを学ぶことを期待している。
コメント
インドで行われたG20での一幕だったようですが、韓国は防衛産業での他国との連携を強めており、他にインド、インドネシア、イタリア、ドイツなどとも首脳会談を行ったとのことです。
キャノングローバル研究所の伊藤弘太郎主任研究員が発表した記事( こちら )によると、韓国製の兵器は特にアジアと東欧諸国を中心に採用されており、積極的な国による売り込みと、顧客のニーズに合わせたコストパフォーマンスで評判も上々だそうです。
特にロシアによるウクライナ侵攻が発生してから兵器開発はそのペースを急激に上昇させていますが、様々な最新技術を詰め込んだ超高級兵器よりも、既存技術の兵器(勿論そのレベルもじわじわ上がっていると思いますが)の火力をUAV等の導入コストが安価かつアップデートが容易な兵器が支援するなどといった「組み合わせ」による戦い方に価値がシフトしています。読者の皆さんには耳タコな話ですが、何百億円をかけた兵器も今や何十万円単位で大量生産可能なUAVにいつ攻撃されるか分からない世の中になってしまいましたから、それはパラダイムシフトが起きて当然でしょう。
伊藤主任研究員も述べているように、今後は装備移転が自国の技術を鍛え、殖産興業に繋げていくキーワードになると考えます。完成品輸出のハードルが下がらないのであれば、日本が得意であるセンサーや素材等を売り込んでいくことも一手でしょう。2000年代への回帰とまでは言い切れませんが、日本は今一度「買う国」から「売る国」へのシフトを迫られているのではないでしょうか。(以上S)
この記事はドローン大国としてのトルコの存在感を示す記事だと言える。トルコはドローン開発において最先端であるのはもちろんだが、シリアではトルコ軍自らがドローンを用い、他のアセットを共同して武力行使を行っている。こうしたトルコの経験が、韓国軍が進めるドローン戦力整備にどのように活かされるのか今後も注目すべき点であろう。(以上NK)
ウクライナ侵攻が変える米軍の戦車戦略と兵器開発
概要
National DEFENSE が9月6日発表(記事本文)
原題: Ukraine Changes Army’s Thinking About Battle Tanks: New Build Program Announced
要旨
陸軍は9月6日、古いエイブラムス主力戦車の改修は行わず、代わりに新しい戦闘車両を製造すると発表した。陸軍はM1A2 SEPv4(システム強化パッケージVer4)の開発を打ち切り、「2040年以降の戦場で将来の脅威と戦い、勝利するために必要な能力の向上に重点を置く」M1E3エイブラムスを開発すると陸軍の声明で述べた。
M1E3エイブラムスの開発にはM1A2 SEPv4の最高の機能が組み込まれ、最新のモジュラーオープンシステムアーキテクチャ標準に準拠するため、より迅速な技術アップグレードが可能になり、必要なリソースが少なくなる、と声明では述べている。
声明によると、初期の運用能力は2030年代初頭に予想されるという。
コメント
米陸軍が思い切り舵を切ったニュースです。特に注目した点として、「モジュラーオープンシステムアーキテクチャ標準の準拠」を挙げます。何ですか?って話なんですが、要するに「業界標準に基づいたモジュラー型かつシステムにおけるオープンアーキテクチャを採用する」ということです。以下で説明します。
まず製品アーキテクチャという製品の大枠の構造を示す言葉がありますが、「モジュラー型」「インテグラル型」の2種類に大別されます。モジュラー型はPCに代表され、既成(又は個別開発)の構成品を組み合わせて作られた製品、インテグラル型は自動車に代表され、完成品の絵姿に合わせて構成品を開発し、個々の構成品のフィッティングや性能の関係を調整しながら作られた製品を指します。
次にオープンアーキテクチャという言葉がありますが、これはソフトウェアやハードウェアの仕様を公開し、他社や研究機関による開発を促進するものです。流石にすべてのシステムを無条件に公開することは考えづらいものの、これによって製品の機能を安価にアップデートしていくことが出来ます。また、このようなシステムの多くは業界によって標準が定められており、これに基づいて開発していくことでより多くの企業の参画、及び様々な機能のインターフェースの柔軟化を図ることが出来るわけです。規模が全く異なると思いますが、LightningケーブルよりもUSB TypeCを使える機器の方がいいよね!とかそういう話です。
自動車産業をはじめ日本の多くの製造業が持つ製品の多くはインテグラル型の製品アーキテクチャとなっています。このアーキテクチャの製品は各担当や取引先のすり合わせを綿密に行いながら製品を作ります。完成した製品のクオリティは大変高いものになりますが、反面コスト抑制には各セクションの努力が必要不可欠である上、製品の応用性や柔軟性はモジュラー型に比べて少ないものとなってしまいます。これは防衛産業も例外ではありません。特に顧客が防衛省に限られる日本の防衛産業の製品アーキテクチャは、インテグラル型の極と言っても過言ではありません。
私は世界の防衛産業、特に戦闘機等の大型かつ技術の粋を結集した製品ではインテグラル型の製品アーキテクチャを採用せざるを得ないものと考えていましたが、今回報じられたM1E3事業においてモジュラー型の製品アーキテクチャ、しかもシステムのオープンアーキテクチャを採用するということは大変画期的なことだと思います。コストを抑えつつ、参入各社が開発した最新のシステムを取り入れられるという柔軟性を確保できます。
このアーキテクチャは顧客である軍にとっても、製造元にとっても、参入を狙う第三者にとってもありがたい話だと思います。M1E3事業が上手くいった場合はモジュラー型製品アーキテクチャの防衛装備品が増え、シェアを一気に持っていかれるのではないでしょうか。そうなると、現状防衛省向けのニッチで高コスト、かつ柔軟性に乏しく大規模な能力向上改修を前提としない防衛装備品は移転しづらくなると思います。
Glenn Dean少将は「ウクライナでの戦争は、兵士のための、付け足しではなく内部から構築される統合防御への致命的なニーズを浮き彫りにした」と述べ、進行しているM1A2 SEPv4のような付け足し型の能力向上ではなく、新たなプラットフォームとシステムでの開発の重要性を説明しています。更に「最近および進行中の紛争を研究する中で、将来の戦場が戦車に新たな課題をもたらすことを認識している」とGeoffrey Norman准将は取材に答えています。記事で仄めかされているとおり、ウクライナ戦争での自爆ドローンや徘徊型兵器による重火器への深刻な損害が、「より軽く、機動性に優れ生存性の高いものを」という戦車戦略の転換をもたらしたと考えられます。そして戦車戦略の転換は、どうやら兵器開発における製品アーキテクチャの転換という大きなパラダイムシフトに至りそうです。今後10年間は、米陸軍の戦車開発に注目すべきでしょう。 (以上S)
このニュースの重要な点はS氏のコメントで大体解説されているので、小生からは少し別の話をしたい。2000年代に米軍がFCS(Future Combat System)としてエイブラムス等の既存の装甲車両を、共通プラットフォームを持つ装甲車両群によって置き換える計画があった。結局FCS計画はコスト高のために頓挫することになったが、今回の計画はそれに近い性質を持つように思える。2000年代にはコストが高すぎてできなかった計画が、技術の進歩によって実現に近づいている例の一つにこのニュースはあてはまるのではなかろうか。
2000年代の夢が現実になるのに20年ほどかかりました、ラムズフェルド国防長官、どうか見守っててくださると幸いです。(以上NK)
電子戦環境下では量が質となる
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