第2号(2023年6月16日)規制緩和が切り開く軍事ドローン開発の成功他(4月期)

第2号は2023年4月期の話題を紹介します。

独ラインメタル社が新型ドローンLUNAを開発

概要
Rheinmetall社 が4月19日に発表 記事本文(YouTube)

要旨
 
ドイツのラインメタル社が新型攻撃ドローンLUNAを開発した。この攻撃ドローンは離陸重量40kgでカタパルトから発射可能である。加えてペイロードに爆弾を装備すれば空爆が可能となり、攻撃ドローンとしても運用できる。このペイロードには爆弾だけでなく、小型の自爆ドローンを8機搭載可能であるとのこと。

コメント
 
このニュースのポイントは2つあるように思われる。
 ①従来型兵器からドローンへの防衛産業側のシフト 
 Rheinmetallという、今まで戦車といった兵器を開発してきた企業もドローン開発に乗り出している。これは防衛産業の移行を意味しているのかもしれない。
 ②ドローンから更に小型のドローンを複数発進させるコンセプトの進展
 母体となるドローンから、さらに小型のドローンを複数発進させるというコンセプトは、ドローンのサイズに関係なく開発が進んでいることが伺える。例えばGA-ASIはMQ-9から発進可能なドローンを開発している。今回のLUNAは、ドローン母艦としてはMQ-9より小型ではあるが、小型ドローン複数機が発進可能なペイロードを有している。ドローンを、ドローン母艦として運用できるのは、数で質を圧倒するというドローンの性質に非常にマッチするものとなるだろう。(NK)

 搭載するドローンは恐らく適合する型式のものに限定されると予測されますが、これがもし重量とサイズが制限範囲内ならOKということあれば、大変柔軟な運用になる(≒大きな脅威となりうる)と感じました。
日本は重工業会社がドローン開発にあまり積極的でないように思えます。せっかく積み上げてきた有形無形の資源がある上、国産ドローンの開発はルール作りも含めてこれからのところ、勿体なく感じます。(S)

KIZILELMAとAKINCIが世界初の快挙

概要
Savunmasanayist が4月24日に発表(記事本文

要旨
 
バイカル社によって開発された無人機アクンジュと無人戦闘機クズルエルマが、編隊を組んで飛行している映像が公開されたとのニュース。
自律飛行か手動飛行なのかは不明だが、異種機体による編隊飛行は世界初の試みである。

コメント
 
このニュースは二つの点で非常に大きな意味を持つ。まずは機種の異なる無人機の編隊飛行が可能であると証明したことだ。これがより発展すれば異なる無人機によるスウォーム運用が可能となる。
 加えてこの快挙がアメリカやロシアといった既存の軍事大国ではなく、トルコによって行われたということが画期的である。CNAの軍事アナリストであるサミュエル・バンディットは "Ten years ago, we probably would not name Turkey as the country to do accomplish this. #Innovation knows no boundaries. And #drone development is growing exponentially."とツイートしている。無人機開発において今まで誰もなしえなかった段階に、トルコが至った。これはトルコが無人機開発のスピードという面において一歩先を行っていることの証左である。(NK)
 トルコは無人機を外交、産業及び安全保障の中心を担うアセットにすべく長期戦略を立て、人材及び資金に集中投資したからこそ新技術開発をリードすることが出来たのだと思います。勿論国に売り込んだ技術者たちの手腕もありますが、彼らがもたらしたチャンスを国家資本として活かしきった国の影響は大きいです。
 翻って無人機研究システムを中止し、無人システム開発をほとんど切り捨ててしまい、未知のアセットの可能性に気づくことができなかった日本の先見性のなさが悲しいです。無人機に限らず、日本はすでに世界に普及するモノを取り入れ更に機能を向上させるような開発は強いと思いますが、生活に根差さないモノの開発や受容が弱いと感じています。例えば自動車も、国産に前向きな方は戦後も少数派でしたが、少数派の彼らのロビー活動で国が奨励・保護し、爆発的に普及しました。
 約30年に渡る取り組みを継続し、男女共同参画で成功した鳥取県庁の事例が注目されましたが、構造的な問題を解決するには四半世紀以上はエネルギーを注ぐ必要があり、短期的な利益を度外視する必要があることを前提に戦略を立てる必要があると考えます。(S)

Andril社製自律型ドローンがウクライナ支援へ

概要
Australian Defence Magazine が4月13日に発表(記事本文

要旨
 
米国Andril社製ドローンがウクライナに供与され電子戦下でも活躍しているとの創業者の発言。カンファレンスでの発言によると自律性を持ったAltius 600Mはオペレーター一人で1~2ダースのドローンを同時に運用させることができ、ウクライナの戦場でも様々な任務に使用されている。
加えて他の非公開のAudril社製ドローンはロシア軍の電子戦下でも任務を遂行できたとのこと。電子戦下においても自律性を活かして飛行するテクニックや、ロシア軍の戦術やシステムの変化に対応してソフトウェアの変更を加えることを通じて対抗している模様。

コメント
 
ドローンの自律性が如何に重要かを示す記事である。
 自律性を用いることで一人で複数のドローンを運用できたり、電子戦下でも任務を遂行することができる。
 加えて記事にもあるように、対抗手段とそれを無力化する手段との競争は常時行われている。つまり、現状完全な対ドローン戦手段というものは存在しないということであり、一部でもてはやされているドローンに対する電子戦の有効性には限界があることを再確認すべきだ。
 また、相手のシステムの変更に対してアジャイルに対応して開発を進められるシステムがあるからこそ、Andril社製ドローンは活躍できた。将来戦においてはそうしたアジャイルに開発を進める基盤が必要となるだろう。(NK)
 Andril社は米国資本ですが、2022年3月にオーストラリア現地法人と主要製造拠点の設立を発表するなど、AUKUSを足掛かりとしたオーストラリア軍との繋がりを深めています。米国資本企業の話題ながらオーストラリアの軍事メディアに好意的に報じられている点から、Andril社のプレゼンスはオーストラリアが考える安全保障の絵姿になくてはならない存在であることが伺えます。日本の防衛予算の拡大をチャンスと考える外国企業は少なからず存在しますが、技術の進歩も安全保障環境も目まぐるしく変化する中で、目先の能力補填ではなく長い目で見たパートナーシップを築いていく必要があると考えます。(S)

海兵隊はMQ-9操縦者の早期養成に課題

概要
Braking Defense が3月28日に発表(記事本文 )
原題:The Marine Corps can’t train MQ-9 operators fast enough

要旨
MQ-9の調達拡大に躍起になっている海兵隊であるが、オペレーターとなる将校の養成が追い付いていないという壁にぶつかっている。本格的にISR用無人機を導入し始めた2007年以降、オペレーターの養成を空軍に委託してきたものの、養成のペースが海兵隊の要求に合致していないと考えられており、海兵隊は自前の術科学校又はGeneral Atomics社への委託教育が望ましいと考えている模様。一方で空軍は48機のMQ-9を退役させようとしているほか、先のロシア軍機との接触事案もあって「ウクライナ上空のような航空優勢が難しい空域においてMQ-9はもはや生存が難しくなっている」とロイド・オースティン国防長官が述べる等、そもそもMQ-9の調達継続について議論が起こっている。

コメント 
 
新技術を軍隊が受容する時に問題となることの一つに、教育・訓練の側面がある。今回のMQ-9のパイロット養成問題に表れているよう、海兵隊が、今まさにこの問題に直面している。いかに海兵隊がこの問題を乗り越えていくかということは日本も参考にすべき事例であろう。
 MQ-9の脆弱性についてはメーカー側も認識しており、リーパーにドローンの射出と回収機能を持たせようとする動きもある。脆弱性があるからと言ってすぐに退役にはならないとは思うが、今までとは違った運用が求められるだろう。(NK)
 HALE機/MALE機はその滞空性能と飛行高度からほぼ落とされることはないとされてきましたが、日本がまごついているうちに相対的な優位性は低下していることが読み取れました。しかし数年前はリーパーが爆撃しているだけで未来感があったのに、この分野の技術や戦術の陳腐化は速すぎますね。
 元記事は前半と後半で問題の焦点が異なっていますが、前半の海兵隊の教育システムが整備できていないという問題も、後半のそもそもMQ-9今後も増やすのか問題も戦略的な問題ですので、慎重な議論が必要だと思います。
 防衛調達の問題を委員会で建設的に取り上げることができることは、揚げ足取りと、それを忌避して秘密裏にことを運ぼうとする勢力の影響がともに小さいことの証左ですので羨ましいです…。(S)

ドローン大国インド"への道程―国産化のジレンマ―

概要
GIEST が4月26日に発表( 記事本文


要旨
インド政府は世界のドローン製造のハブになるという目標を打ち出し、調達の強化と国産化を近年急速に進めてきた。 背景には隣国パキスタンからのドローン脅威の増大がある。当初国と軍ではドローン戦略を異なる方向性で進めてきたが、近年は政府・軍共同の開発事業も増えている。軌道に乗りつつあるインドのドローン戦略であるが、政府の国産化戦略に軍のニーズが間に合っていないことに加え、ドローンに関する軍の方針は各軍異なっており効率化が必要である等、課題も山積している。

コメント
 
 インドはドローンの国産化と戦力整備のジレンマに悩まされているという指摘は興味深い。国産ドローンの調達を優先すれば、戦力整備が遅れることになり、輸入によりドローン戦力の拡充を進めれば、国内産業は育たなくなるというジレンマに陥っているのである。言葉を選ばずに言うと、こうしたジレンマに直面しているインドがある意味羨ましい。なぜならこうしたジレンマはインドがドローン戦力の拡充と国産化に注力しているから発生するからである。果たして我が国はこうしたジレンマを感じたことがあったのだろうか。(NK)
インドのドローン戦略はかなり昔から始まっていたことがわかり、停滞していた時期が惜しいです。他方、国家戦略レベルで時間と金を投資すれば追い付けることもわかり、日本の科学技術振興における課題が見えました。
 特に興味深ったのはインドでは規制緩和を大々的に実施したところです。日本は規制の上に規制を塗り重ねるような政策を長年繰り返していますが、このような増築型の法制定も限界にきていると思います。長年の積み重ねを打破するのは非常に困難が伴いますが、これ以上のギャップの放置は社会の許容レベルを超えるのではないでしょうか。
 軍で言えば、3軍のドクトリンが異なっている点は自衛隊も同じです。日本は統合司令部の設置に向けた動きが進みつつありますが、統合幕僚監部との違いを明確にし、いい役割を担ってくれることを切に願っています。国家防衛戦略はあれども、プロフェッショナルとしての統合ドクトリンが欠けている状況では、ユーザー目線の効果的な防衛力整備は難しいのではないでしょうか。(S)

部谷コメント

第一報は、最近のドローンを巡るトレンドを示すもので、無人兵器から無人兵器を運用させるというもの。これは単純なものではなく、ざっと考えても①複数機を運用する管制システム、②母ドローンから複数の子ドローンを運用する火器管制システム、③複数機を同時に運用する周波数帯確保や通信システムの用意と手間のかかることがわかる。この点でも日本の本質的な遅れがよくわかる。

第二報も同様だ。異なる機種ー推進方式すらジェットとレシプロで速度に大きな違いがあるーがほとんど接近した状態で”共同運用”できていることは、トルコの制御システムの優秀さ、周波数帯確保や通信システムの優秀さを示している。見た目ではたんに複数の機体が飛んでいるだけだが、その技術的背景やノウハウには驚嘆すべきものがある。

第三報は、産業政策の観点から注目すべきものだ。Andril社は2017年創設のスタートアップ企業だが、こうした自爆ドローンを開発・量産し、しかもそれを海外で実戦投入し、実戦データを得ていることは日本の見習うべき未来であり、それができていないことは絶望だ。ウクライナにロクな民生ドローンを供与できなかったことはその象徴だ。

21世紀この方、日本の補助金はドローン関連で大量に投資されたが、国際的どころかアジアですら競争力をほとんど持っていないのが現状であり、補助金漬けによる産業政策の見直しを示唆している。東日本大震災で補助金に頼らなかった企業しかドローンを福島第一原発に対し飛行できなかったとされることは、その証左だろう。

ドローンの研究開発・運用までの複数の省庁に渡る規制緩和や投資環境の整備がなければ意味がない。なぜ海外では小国も含めて軍用・民生ドローンのスタートアップが大量に成功し、日本では成功しないのか。補助金ありきの産業政策を見直し、書類仕事や行政ロビーに特化した企業群を生むのではなく、規制緩和によって技術をシステムで考えることができ、ビジネスモデルにも秀でた企業をこそ育成すべきだ。

第四報は人材育成の観点から興味深い。新しい兵器システムを実装する上で、人材育成がカギとなるのは戦史を見ればあきらかだ。太平洋戦争時、米国がパイロットの大量育成に成功し、日本は失敗し技量未熟なパイロットが投入され悲劇的な結末を迎えた。これは米国では郵便などの分野で民間にパイロットが大量に存在し、これの転用に成功したからだ。一方、日本は航空産業が軍需に偏り、民間にパイロットが存在しなかったために、航空機に無縁な学生を予科練という形で促成栽培せざるを得ず、これが悲劇の一因となった。司馬遼太郎的余談だが、私の祖父も中学卒業後に予科練に志願した特攻兵だったが、航空機は”憧れ”の対象で、日常のインフラではなかった。

ロシア・ウクライナ戦争でも戦前からドローン農業など、ドローンの民生利用が盛んだったウクライナではドローンパイロットはいくらでも存在し、それを支える技術者も運用構想を考える人間も民間にいくらでも存在している。他方、ロシア側は軍事ブロガーが強く嘆くようにドローンを利用する産業が未成熟だったためにドローンパイロットの不足が問題となっている。

ある意味で日本はロシア側に近い。ドローン規制ー特に本来は需要と資本と人材に富む首都周辺ーが強く、利活用する産業も未成熟だ。ロシアよりもある意味、かなり遅れている面も多い。

自衛隊内でも空中も水中も地上もドローン運用者は少なく、理解している指揮官もかなり少ない。そもそも自衛隊の運用は民間事業者よりも石橋をたたいて爆破する様な慎重さで本来の性能を発揮することもできていない。

果たして有事に大量調達なり、支援されるドローンを前にしても使う人間もおらず、運用する指揮官も理解できない可能性が高い。実際、災派におけるドローン運用でも、せっかく得たドローンの映像が総監部で上映されているだけといった話も複数聞く。

パイロットから調達、そして指揮官にまで人材育成を怠れば、第二次大戦の悲劇を繰り返すことになりかねない。人材育成の戦略から計画までの策定を官民や国内外の垣根を越えて急ぐべきだ。

特に指揮官は重要だ。太平洋戦争時の海軍の航空戦の専門家とされる人材は、実のところ大砲屋や水雷屋の”転籍”であって、小沢治三郎も山口多聞も大西瀧次郎も角田覚治も航空機を大砲の弾や魚雷の延長線上でしか理解できていなかったー実際、彼らは自らの航空戦力をまるで弾のように早期に消耗させた”実績”を持っているー節がある。

今の日本にもドローンを在来兵器の延長線上で理解しようという空気があるー典型がミサイルや特攻兵器の亜種で理解しようとするものーが、それは過去の過ちを繰り返すことになる蓋然性が高い。

ドローンだけでなく、サイバーやAIといった新たな革新を前提とする指揮官の育成や教育を行うべきだとこの第三報は示唆していると評せよう。

第五報は、畏友・牧田純平氏の健筆が光る傑作だ。牧田氏は日本ではもっともはやくトルコの軍用ドローンに注目し、しかもその産業政策に関する論文を執筆してきた唯一の人物だ。兵器のスペックや企業の売り文句をそのまま転載する兵器評論家とは異なる本当の専門家だ。

その彼が今度は注目したのは、2年前まで日本とどっこいどっこいだったドローン後進国インドの巻き返しの苦悩だ。同志NKも指摘しているようにインドはドローンの国産化と戦力整備のジレンマに悩まされているが、これは必死に巻き返している国家だからこその苦悩であり、日本も一刻も早くこうした苦悩を味わう段階に進むべきだ。国産化もままならず、戦力整備もままならず、運用構想も各職種ごとに進めているのではいけない。

また同志Sが指摘するように規制緩和も繰り返しになるが重要だ。日本の規制官庁も頑張っているなどという意見は、戦争には相手がいることを考えれば愚の骨頂そのものだ。日本のドローンに関する規制緩和も整理も現在検討中のものを前提にしたとしても敵に勝つという視点ではとてもとても不十分であり、戦争に勝つことを考えていない。

2対1ルールの導入もいまだに実現せず、民間活動に対する役所の許認可権も増え続け、根拠となる法令の条項数は1万5千件を超えて今もなお肥大化している。こうした規制官庁ですら把握できなくなっているとされる日本の規制の積み重ねがテクノロジーのイノベーションや社会実装を遠ざけることがあっても、近づけることがないのは英国の赤旗法ー自動車を運用する際に人間が赤旗を掲げることを義務付け、英国の自動車産業を自壊に追い込んだ悪法ーの例を見れば明らかだ。

安全保障問題では憲法9条という究極の規制にばかり視点が行くが、自衛隊の運用やそれが本来扱える民生技術の研究や活用、そして技術産業基盤が様々な規制によって自縄自縛となり、諸外国に劣後している現状にこそ注目されるべきだ。


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