第9号(2023年9月22日)戦略レベルの打撃能力を手に入れたドローン(8月期)

皆さんこんにちは。ナゴルノカラバフにおけるアゼルバイジャン軍の攻勢と短期間での勝利は衝撃的でしたね。第9号では8月期の話題と論文についてご紹介します。(S)



FPVドローンがウクライナ軍のM113に命中する直前の瞬間

概要
Chronologyに7月29日に投稿(記事本文

ドローンはほんの一瞬の慈悲も与えてはくれない。

要旨
 ロシア軍のものと思しき自爆ドローンがウクライナ軍のM113装甲人員輸送車に突っ込む瞬間が投稿された。
 軍用車両は空調設備や窓が最低限となっており、状況把握や換気等やむを得ず外に顔を出した瞬間にドローンに狙われてしまう。ドローン側は5万円程度のコストとなるが、装甲車側はどれほどの損失になるだろうか。

コメント
 
自爆ドローンはその炸薬量の少なさから過小評価する方々がいますが、弱点を的確に狙える正確さを持つ。精密誘導ができるようになれば炸薬量の問題が低減されることは湾岸戦争等での精密誘導兵器の活躍が証明している。この動画を見るとそれはドローンにおいても同様であろう。
 某女子高生が戦車にのるアニメよろしく、キューポラから顔を出すことは装甲戦闘車両ならよく見る光景ではある。状況把握のためにキューポラから身を乗り出すのはRWS(リモートウェポンシステム)や外部センサーで代替できないのだろうか。例えば戦車に追従するドローンで状況把握と偵察を行うのもどうだろうか。 (以上NK)

 ロシア軍のドローンへの順応には目を見張るものがあり、ウクライナが採用してきた戦術を自軍にも積極的に取り入れてきました。また、中国・イラン・北朝鮮等の同志国からの物資ルートは途絶えておらず、西側の経済制裁はあまり効果をあげていません。
 ドローンの生産は比較的短時間で態勢を整えることができ、性能にこだわらなければ既存の兵器よりはるかに容易ですが、装甲車両を修理、再供与するコストはウクライナだけでなく支援国にも賦課されます。この影響がどの程度今後の戦いに影響を及ぼすか注視すべきでしょう。 (以上S)

ウクライナの物と思われる自爆ドローンがモスクワ中心部を襲撃

概要
OSINT defender が7月30日に投稿

要旨
 
ウクライナのものと思われる自爆ドローンが、モスクワ中心部の複合施設 IQ-Quaterを襲撃した。閃光に続いて大きな爆発音が響き、撮影者か近くにいたと思われる女性の悲鳴、そして火の手が上がるビルが見て取れる。

コメント
 
WW2の戦略爆撃に比べ小規模とは言え、ドローンによる首都への戦略爆撃が行われる時代になったのは驚きである。今回は首都の建物への攻撃であったが、このような攻撃はインフラ施設等に行うことももちろん可能だ。
 さらに言えば、モスクワはGPS妨害等や防空システムの配備など防衛に力を入れていた場所である。この攻撃がそうした防衛システムの穴をついたのか、それとも防衛システム自体が無力だったのかは検証の必要があるだろう。
 デビット・ハンブリングの記事でも指摘されているように、こうした自爆ドローンによる戦略爆撃が続けば限られた防空アセットを前線から引き抜く必要も出てくるかもしれない。ここに戦略爆撃、特に都市への爆撃、の意味があるのではなかろうか。つまり防空アセットを前線の防空に使用し、後方への攻撃を受忍するか、もしくは防空アセットを後方に振り向けて、前線の防空をある程度犠牲にするのかというジレンマを相手に与えることができる。 (以上KN)

 このドローンは「ドローン産業への集中投資は対ロシアへの切り札となるか?」において取り上げるプロジェクトで生産された新型ドローンのようです。ウクライナがモスクワ中心部に攻勢を仕掛ける狙いは様々あると考えられますが、これが戦略的な効果を発揮するかどうか現状何も言えないと思います。しかし連続して攻撃されていることを踏まえると、装甲車への攻撃を受け続けるウクライナと同様にこのドローンへの対抗に苦慮していることが伺えます。
 恐らくドローンそのものが戦争の雌雄を決することはないでしょう。しかしながらドローンをはじめとする新しいアセットや、新しい領域をいかに活用し、いかに相手の重心を打撃して国家としての機能をマヒさせるかという点がこの戦争の鍵であり、この点で軍事におけるイノベーションが発生していることは明らかだと思います。このイノベーションの特徴は、ボトムアップであり実践を通じたサイクルが猛烈な速さで回っているところです。このため、軍隊では知的能力がより問われる状況となっていると考えます。
 我々は目撃者となるだけでなく、戦訓を収集し、いつでも・どこでも・だれでも戦争の当事者となる今日の戦いにどう備えるかを考え続ける必要があると考えます。 (以上S)

ウクライナ軍の自爆USVが黒海で船舶への攻撃を複数回実施

概要
The Warzone に8月5日掲載
原題 ”Ukraine Situation Report: Photos Show Damage To Russian Tanker After Drone Boat Strike"

要旨
 
ウクライナ軍の自爆USV(Unmanned surface vehicle )が黒海にでロシア軍の揚陸艦とロシア側のタンカーへの攻撃を行った。
 ロシア海軍のロプチャ級水陸両用揚陸艦「オレネゴルスキー・ゴルニャク」が複数のUSVに攻撃され大破した。攻撃により沈没は免れたものの、船は大きく傾き自力航行も不可能で戦力復帰には大きく時間がかかると見られている。攻撃を受けたオレネゴルスキー・ゴルニャクはロシアと占領下のクリミアとの間で軍民問わず輸送任務を担ってきた。その後ロシア船籍のタンカー「シグ」が同様にUSVの攻撃を受けた。エンジンルームへの浸水やブリッジへの破損が見られる。このタンカーはシリアとの原油の輸送に従事している。オレネゴルスキー・ゴルニャクへの攻撃にはウクライナ海軍とウクライナSBUが参加しているとのことである。

コメント
 
今回のUSV攻撃によりロシアが受ける損害はともかく、今回の攻撃が意味するものはウクライナ戦争にとどまらない。USVによるシーレーン攻撃が成功したこととなり、他の手段を用いるより低コストでシーレーン攻撃が行えることとなった。記事でも指摘されているように、今後ロシア海軍は黒海での船団護衛を行う必要があり、戦力をそこに割く必要が出てくる。
 これは日本も無視できない。有事の際には自爆USVの脅威からシーレーン防衛をする必要があるだろう。低コストでシーレーン攻撃が行えるようになった以上、これに対する対策は考えていく必要があるだろう。
 現行の自爆USVでもここまでのダメージを与えることができた。もし自爆USVがさらに炸薬を増やしたり、魚雷を搭載するようになれば与える被害はさらに増えるだろう。
 また以前お伝えしたケルチ大橋へのUSV攻撃のように、ウクライナの特殊部隊がこうした攻撃に関与しているのも興味深い。特殊部隊によるドローンの使用については今後増えていくだろう。他国の特殊部隊がどのように活用しているかについては今後調べていこうと考えている。(以上NK)

 USVは不規則な風や波の影響を受けるほか近隣の船舶やその他の浮遊物等の影響を受けるため、制御がUAVやUUVよりも難しいと聞いたことがあります。その中で今回の攻撃は、今後の海上戦力の運用に大きな影響を与えると考えられます。やはりUSVも同規模の攻撃をする際のコストパフォーマンスの高さやリスク低減、柔軟性に大きな可能性を秘めており、有人艦から発艦させ洋上で航続距離の比較的長いUAVと組み合わせたり、偵察と攻撃の効率化を図ったりと、様々な使い道が考えられそうです。
 どれだけの能力があるのか、開発の経過は不明ですが中国では水陸両用無人装甲車の開発が2019年に発表されているほか、防衛省も遅ればせながら2024~2025年に水陸両用無人車両の開発を計画しています。このようなアセットも踏まえると、今後は現実/非現実問わずあらゆる空間においてシームレスな戦闘が発生していくものと思います。このような環境において人間になにをさせるか、機械に何をさせるかという選択が、諸作戦において重要な課題となってくると思います。 (以上S)

ZALAランセットの脅威とタダでは起きないウクライナの取組

概要
War Monitor が7月31日投稿

要旨
 
ロシアが生産・使用している徘徊型ドローン(Loitering Drone)であるZALA ランセット(Lancet)がウクライナの装甲兵器を中心に自爆攻撃を行い成果をあげている。ロシアはランセットの更なる生産拡大や能力向上に取り組んでおり、 こちらこちら のような写真等が報じられている。
 ウクライナは確実な対策をまだ打てていないようであるが、 こちらのようにランセットの残骸(いわゆる「切り身」)を売る等「タダでは起きない」取組を実施している。ウクライナに対するチャリティーになるとのことなので好きな方は調べてみてはいかがだろうか。

コメント
 
ランセットは対砲兵戦で活躍してるようにおもっていたが、装甲車両への攻撃に使用されている模様である。
 ドローンの増産体制を構築できている(かもしれない)ロシアを見ていると、ドローンの国産化・国内生産の重要性を意味しているように思われる。ドローンを弾薬のように消費する以上輸入に頼るわけにはいかない。何度もコメントしているが、こうした増産体制を構築するためには日頃からの投資と民間産業の育成が必要である。 (以上NK)

 以前からコメントしていますが、現状での徘徊型兵器への対抗策は各国苦慮しており、ウクライナ、ロシア双方攻撃の応酬をしている一方、有効な対抗策を導出できていないものと思われます。報じられているロシアの生産体制は情報戦の一環で、俗にいう「盛ってる」可能性も否定できません。しかし少なくともこの情報によって、敵の恐怖心を煽ったり、敵の戦意を弱めたり挫いたりすることが出来るのです。特にSNSの画像などを一目見た印象で判断してしまいがちな人は、自分が無意識のうちに戦争の当事者になることについて考えるべきだと思います。
 以前からマニアがいる「切り身」が、このように活用されているとは知りませんでした。防衛省も雑金属として業者に売り払うだけでなく、このようなアイデアを広報活動等に活かしてはどうだろうかと思います。売り上げは国庫行き…にはなってしまいますが、防衛費大幅増が注目を集める中、あらゆるリソースを消費するだけではなく、どう稼いでいくかも考えていく必要があると考えました。 (以上S)

ドローン産業への重点投資は対ロシアへの切り札となるか?

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