第4号(2023年7月15日)メディア兵器としてのドローン(5月期)

第4号は第3号に引き続き、5月期の話題と論文について紹介します。


ウクライナによるFPVドローンを使った攻撃①

概要
Rob Lee (https://twitter.com/RALee85/) が5月15日にTwitterへ投稿

要旨
ウクライナ軍は競技用のFPVドローンにRPG-7の弾頭を搭載したものを、自爆ドローンとして運用していることが知られているが、FPVドローンによる攻撃の映像が公開されている。動画ではT-72B3といった戦車やBMPやBTRといった装甲車両が攻撃されている。

コメント
ウクライナ戦争初期は対戦車ミサイルのジャベリンが注目されたが、今ではそれよりも遥かに低コストで制作されるFPVドローンが機甲部隊に対して攻撃を加えている。
FPVドローンの機動性の高さは、動画を見ればよくわかる。実際にT-72に備え付けられた屋根型装甲を回避しながら砲塔に命中している姿が、動画で納められている。
(以上NK)
装輪車両はともかく、戦車の多くは履帯(キャタピラ)走行のため回避が難しく鈍重である点をよく突いた戦闘だと思います。戦車や車両に搭載でき、死角のない電子妨害装置がつかない限りFPVドローンの優位性は保たれると考えます。(以上S)

ウクライナによるFPVドローンを使った攻撃②

概要
Special Kherson Cat (https://twitter.com/bayraktar_1love/) が5月24日に投稿

要旨
ウクライナ軍所属のFPVドローンがロシア軍の偵察用ドローンを、飛行中に発見し体当たりで迎撃している様子が動画で投稿された。

コメント
ドローンとドローンによる対空戦闘が納められた動画はあまり多く公開されていないが、ドローンによる対ドローン戦闘というのはもうすでに現実になっている。
対ドローンというと電子戦や銃器による迎撃が想定されるが、FPVドローンのようなドローンによる迎撃も一つの手段である。戦闘機に対抗するためには対空ミサイルだけが手段ではない。対ドローンに対する重層的な防衛体制を構築していく中で、ドローンによる迎撃も取り入れていくべきである。
(以上NK)
重要施設等における不審ドローン対策において、日本では捕獲ネット搭載ドローンが開発されていますが、世界では全方位型レーダー+このような物理攻撃ドローンがメジャーになりつつあります。
ドローンがベ〇ブレードのように直接戦闘を行うのはアナログへの回帰の様相ですが、電子戦・対電子戦が日に日に苛烈になる中で、有効性は高いものと考えられます。また、倫理上の問題はあるかもしれませんが、殺傷能力があることから、今後対人作戦でも使われそうな予感がします。
戦闘・戦術的優位性が高い小型ドローンが注目されがちですが、今後中~大型ドローンとはどのように組合わされてその能力に幅が生まれていくのかにも注目すべきでしょう。皆さんでしたら、どのように使いたいですか?
(以上S)

ウクライナ軍が模擬手りゅう弾投下による対ドローン訓練を実施

概要
The Warzone に5月12日掲載 (原題 ”Ukraine Is Preparing For Drone Attacks By Dropping Training Grenades On Its Troops”)

要旨
ウクライナ軍は、行軍中の自軍部隊に対し模擬手りゅう弾をドローンから投下する訓練を行っている模様であり、その様子がTwitterで公開された。
動画では一列になって進む兵士達の列に、ドローンから模擬手りゅう弾が落とされ、それに対して兵士達は素早く伏せていた。この訓練にはURG-Nの訓練用手りゅう弾が使用され、改造された小型ドローンから投下されたと推測されている。
記事では、訓練の目的は小型ドローンによる空爆の技量向上と、兵士達に対し戦場における小型ドローンの脅威を実感させることの二つであると指摘している。

コメント
小型ドローンからの自軍部隊への模擬手りゅう弾の投下訓練は、まさにドローン前提戦争の時代における訓練のはしりと言えるだろう。
記事にあるように、小型ドローンによる攻撃は国家主体、非国家主体問わず実行可能であり、ウクライナの戦場ではそれが前提になっている。
今後は小型ドローンが常に飛行している戦場を前提として軍隊の訓練を構築していく必要があるが、その点においてこのウクライナ軍の訓練は先進的である。各国軍はこうした訓練を将来的に行っていく必要があるだろう。
(以上NK)
このような訓練は運用国にしかできないものと思料します。訓練の方法、ノウハウは単純な形式知ではなく、暗黙知になってしまう部分も大いにあります。机上の理論で部隊は育たない好例だと感じました。少なくとも演習や大規模な訓練における実践的な活動に耐えられる数(即ち使い捨てを想定した数)の小型ドローンを導入し、早く運用すべきだと思います。
一つのアセットによって歩兵の戦闘、戦術の基礎が更新されるのは歴史的な出来事だと思います。訓練により、次の戦場がどのように洗練されていくのかが興味深いです。
(以上S)

量で攻める:米空軍がドローンウィングマンを求める理由

概要
The Defense News が5月12日に発表(原題:”US Air Force wants drone wingmen to bring ‘mass’ airpower on a budget”)

要旨
米空軍のリチャード・ムーア中将はDefense Newsのインタビューに対して、有人機だけではこれからは米国は制空権を維持できなくなるため少なくとも1000機程度のドローンウイングマン(有人機と協働する無人機)を配備し実戦投入できるようにすることが不可欠と述べた。米国の保有する戦闘機はF-15シリーズのように老朽化が進んでいる機体も多く退役が進んでおり、航空戦力の量を確保することが困難となっている。量を有人機で確保しようとすると法外なコストがかかるため、ドローンウイングマンの整備に空軍は注力している。またドローンウイングマンの開発においても、米国は航空産業界と共に開発していく今までとは違った開発アプローチを取ることになっている。これはドローンの技術的発展の予測不可能性によるものである。

コメント
有人戦闘機は性能が高度化していくにつれ、調達価格が上がり数が確保できなくなってきたが、無人機は相対的なコストの安さから数を確保できる。米軍の無人戦闘機への大規模投資は今までの「量より質」の戦力整備アプローチに対して修正を加えるものである。
「量より質」を求める戦力整備アプローチは米軍に限った話ではなく、冷戦後国防予算が減らされた各国がとってきたアプローチである。今回は空戦についての言及であったが、「量より質」を求めるアプローチは陸戦や海戦においても今後修正が求められ、そこでは無人機が量を担当することになるのではないだろうか。
(以上NK)
今後の軍備増強のトレンドは無人アセットの保有そのものから、保有無人アセットの数と自律性にシフトしていくものと考えられます。無人アセットは軍事力増強の重点をも一変させるという点でも、ゲームチェンジャーといえるのではないかと考えます。
しかしながら、今のドローンウィングマンの大きさと性能だと、規模の経済が働くからと言って無尽蔵に増やされても保管場所や整備作業の問題があるのではないかというのが元後方職の懸念です。パイロットは駆逐されていくかもしれませんが、維持管理を考えた導入をしないと結局低コストのメリットを生かせなくなってしまうと思います。整備の自律性(オンコン化、自己診断による整備の合理化の拡大等)も必要になってくるかもしれません。
(以上S)

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