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第21号(2023年3月8日)安価なデジタル民生技術が変えた現代戦の司令部、そして偽装(1月期)

皆さんこんにちは。第21号では2024年1月期の話題と論文についてご紹介します。



ロシア軍がジェットエンジン搭載シャヘドをウクライナで使用か?

概要
The Warzone に1月2日掲載(記事本文
原題 ”Russia May Have Started Using Jet-Powered Shahed Drones In Ukraine”

要旨
 ロシアがウクライナの戦場において、ジェットエンジン搭載型に改造された自爆ドローンシャヘド238の証拠が見つかった。残骸に残されたマーキングとエンジンの部品から、ジェットエンジン搭載型のシャヘドタイプが使用されたと推測されている。
 あるロシア軍将校がスプートニクで主張したスペックによれば、ジェット型ゲラン2(シャヘドタイプのロシアでの呼称)の最高時速は800kmである。既存のプロペラ式のシャヘド136の最高速は時速180kmであり、前述のスペック通りでないにしろ今回のドローンはシャヘド136より高速で飛翔できると見られる。
 記事ではジェットエンジン搭載により航続距離やペイロードに影響が出ているのではないかとの推測がされている。今回のジェットエンジン搭載ドローンの登場により、高速化した目標を迎撃するウクライナ側の負担はさらに大きくなることが予測される。

イランメディアが公開したジェット型シャヘド

コメント
 ウクライナは以前紹介したシャヘドキャッチャーのように、ドローン対策を進めてきた。しかし今回のジェットエンジン搭載ドローンはそうした対策を無力化するものを狙ったものと思われる。新技術が出てくれば、それを無効化するための戦術や技術が出てくるといった具合に、技術とその対抗策によるいたちごっこは戦争の歴史において繰り返し発生してきた現象である。ここで問題になるのが、特定技術に対するカウンターが出てくるまでのリアクションタイムの長さである。このリアクションタイムをいかに短くするかが、相手に対して優位性を得るうえで重要な役割を果たすからだ。昨今の民生技術の活用はこのリアクションタイムの短縮にどのように貢献するのだろうか、これは検証すべき問いである。(以上NK)

 段々ドローンがミサイル化しているような気がしなくもないですが…ミサイルに対する優位性と言えばそのコストと操作性(ドローンは最後まで誘導できる)なんでしょうか。皆さんはドローンとミサイルの境界線について考えたことはありますか?…
 それはさておき、このニュースで語られる能力が本物であれば、かなりの脅威になります。以前取り上げた通りならロシア側の生産態勢はイマイチのはずですが、イラン国内や他の親イラン国で生産態勢が整えられれば話は別です。
 ボトムアップでの小さな単位からのイノベーションとそこへの適応を国策として(テロ組織を介しつつ)やってきたイラン側にやられっぱなしであることを認めることからアメリカと同盟国のリアクション、カウンターは始まるんじゃないかと思います。
 ちょっとアウトローな考え方かもしれませんが、非対称性をはらんだ現代の戦争に対しては今まで通りの「官僚組織的な」軍事戦略が通用しなくなってきていることの証左となる事例ではないでしょうか。(以上S)

米軍はいかに現代戦を模倣し訓練するのか?

概要
Defense One が2024年1月25日に発表(記事本文
原題: How one Army unit uses cheap drones and ChatGPT to train others in modern warfare

要旨
 米ルイジアナ州フォート・ジョンソン基地で仮想敵を務める部隊は、ドローンをはじめとした安価な商用技術を使うことで現代戦を模倣し、訓練部隊へ現代戦を教育している。
 仮想敵を務める「ジェロニモ」部隊は、75ドルで作成したデコイからTS-M800ドローンまで幅広くテクノロジーを活用する。ジェロニモ部隊は、TS-M800に携帯電話やwifiの信号を見つけるセンサーを搭載し、敵部隊の位置を特定することができた。

TS-M800ドローンを持つ兵士

 ジェロニモ部隊のクリスチャン・レア主任陸軍士官は、ジェロニモ部隊がウクライナで使用されているようなラズベリー・パイの ような安価なハードウェアや、HackRFやRTL-SDRのようなスペクトル分析装置を使用していることを強調した。こうした商用オープンソース技術の使用はロジスティクスの負担を軽減することにも繋がるという。 
 ジェロニモ部隊は未だFPVドローンを使用する許可は得ていないものの、既存のTS-M800ドローンを使用して45秒で目標を補足し攻撃したことがあるという。このスピードはドローンパイロット、情報将校、砲兵下士官が並んで作業することで可能になった。 
 さらにジェロニモ部隊はChat gptを使ってソフトウェアを作成することもあった。敵部隊のMACアドレス間の通信を分析するために、ジェロニモ部隊はChatGPTを使って、PythonでMACアドレス間の通信を分析するためのソフトウェアを作成した。
 レア主任陸軍士官はそうしたソフトウェアは米軍のものより安全でないかもしれないが、敵が脆弱性を見つける前に敵を撃破できるならいい選択肢だと指摘する。 
 こうした商用技術を使うジェロニモ部隊に対して、訓練部隊も同じように商用技術で対応することを学んでいる。例えば第3歩兵師団の部隊は中隊や大隊司令部の電磁波シグネチャーを出す装置を作成して次のローテーションで実験する模様とのことだ。

コメント
 米軍がいかに現代戦を模倣し、部隊の訓練に生かしているかを捉えた記事であった。ジェロニモ部隊はウクライナの戦場で起こっていることをうまく取り込んでいるように見える。仮想敵部隊が商用技術を用いて現代戦を模倣するという取り組みは、是非とも日本でもやって欲しいものだ。記事内で触れられていた第3歩兵師団のように、仮想敵部隊との対抗演習を通じて訓練部隊もまた現代戦を模倣し始めるからだ。
 ジェロニモ部隊がドローンを使用して45秒で目標を補足し攻撃したという例は、いかに現代戦のバトルリズムが高速化しているかということを表している。これは、ドローンの持つシューターとセンサーの一体化という特徴がなせる技だろう。
 ドローンパイロット、情報将校、砲兵下士官が並んで作業することで45秒攻撃が実行できたと記事では指摘しており、この攻撃は少人数だからこそできる技であり、より組織が大きくなるとこうはいかないのではないかと考える。したがってできるだけ小規模な部隊で、キルチェーンを回していく必要があると言えるだろう。
 最後にレア主任陸軍士官のソフトウェアの安全性に対する考え方は興味深い。以前に同志Sがコメントした現代戦における確実性と柔軟性のバランスの話が想起される話であった。敵がそのソフトウェアの脆弱性を見つけるまでの間に敵を撃破できればいいという割り切りは、確実性よりも柔軟性を重要視した結果であると言えよう。
 現代戦においてはやはり確実性と柔軟性のバランスにおいて、柔軟性を意識する必要があると言えるだろう。あともう一つ気になる点が、相手が脆弱性を見つけたことにどうやって気付くことができるのだろうか?その点は気になる。 (以上NK)

 ジェロニモ部隊の取組みは非常に興味深いです。特に民生技術を取り入れた戦争への適応を意識し、実験や研究を速いサイクルで回しており、これを軍が恐らく当該年度で取り組んでいる点(予算や計画の柔軟性が無いとなかなかできることではありません)は流石USA!という所ですね。
 勿論基礎的な用兵術が完全なる過去のものとしてひっくり返ることは無いと思いますが、新しい技術が生まれれば、その分それを戦場にどのように適応させていくかは永遠に考え続けなければならない課題なのではないかと思います。恐らく研究部隊が机上検討だけ、教導部隊が年次の教導と少ない予算の中での戦術研究だけ、というのは時代にマッチしておらず、シームレスかつ立体的な取組みが求められます。 (以上S)

ウクライナ軍の司令部から学ぶ現代戦の司令部の作り方

概要
Defense One が2024年1月12日に発表(記事本文
原題: What the US military can learn from Ukrainian command posts

要旨
 ウクライナで活躍していた外国人義勇兵達はdefense oneのインタビューに応じ、いかにテクノロジーが司令部の在り方を変えたかについて語った。
 ウクライナの司令部ではスターリンクが使用されており、スターリンクにより幕僚達は素早く司令部を立ち上げ、大量のデータにアクセスできるという。また司令部では複数のドローンの映像がストリーミングされ、衛星画像やその他のオープンソースの情報も使用できるという。以前米海兵隊で通信士官をしていた義勇兵は「スターリンクがどれほど画期的なものであるか、人々はまだ十分に理解していないと思う」と指摘する。
 スターリンクのほかにも、ウクライナの部隊は暗号通信アプリであるシグナルや、ドローンからの映像を共有するためのグーグルミートなど多数の民生テクノロジーを活用している。元海兵隊員の義勇兵は、軍用通信ツールとは異なり、こうした民生テクノロジーは操作に専門のスタッフがいらない、統合が容易であるといった利点があると述べた。

ウクライナ軍の司令部の一例。デジタル民生技術や市販の汎用品で軍事技術を超えるネットワーク司令部を形成し、それを今、米軍他が学ぼうとしている。

 しかしこうしたウクライナの司令部にも問題は存在するようだ。まずは司令部に対する攻撃である。戦場では、ロシアが電波やドローンによる捜索、そしてスパイからの情報等様々な手段を持って司令部を発見し攻撃してくるという。インタビューに答えた義勇兵は、こうした司令部への攻撃を抑制するためには、司令部のスタッフの人数をできる限り少なくすることが重要だと述べた。さらには入手可能な情報が膨大であることも問題を引き起こしている。義勇兵は、ウクライナの司令部には集めてきたデータを処理する訓練を受けた幕僚がいないと指摘する。

コメント
 現代戦における司令部の様子が垣間見れる記事である。ウクライナの司令部ではシグナルやグーグルミートが使われているということだったが、どれも実験で使用していたりするアプリであり、便利さは私も実感している。
 グーグルミートはドローンからの映像を見ながら敵の裏をかくといった用途に使えて本当に便利だった。ウクライナの司令部では情報を処理する幕僚が不足しているとの指摘があるように、情報が多くてもそれはそれで問題である。
 適切に入ってくる情報を処理できなければ、情報の波に溺れてしまう。この問題は、情報RMAが盛んに宣伝されていた2000年代にも見られた問題であるので、中々改善が難しい問題なのかもしれない。
 またどの敵を攻撃するかというターゲティングにおいて、標的の脅威度が低くても、我のドローンが発見しているかどうかで標的選択を行う指揮官がいたという指摘は興味深い。なぜこのような選択をするのかは非常に不思議だが、ドローンに見えているということは即ち死を意味することには変わりない。皆さんもドローンにはお気を付けて。(以上NK)

 前号の米軍の取組にも通じますが、…理想的な司令部ですねwwww
 というのも、皆さん「いやー私は使い方が分からないから」って理由で周りから勧められても導入していないアプリとかありませんか?電子お薬手帳とか、LINE以外のSNSとか、GOとかメルカリとか…
 Signalも、Google meetも、使い方が分かる人には大変便利なのですが、使い方を知ることと、使い方のルールを決めて守らせることがとても難しい。
 そのハードルを低くする方法が民間でも利用されているアプリの活用なのでしょうけど、軍隊にも想像を絶するレベルのことをしでかす人が(稀に)いるんです。
 ということで、「あなたが便利だと思うものが、実は他の人にとっては便利じゃないものかもしれない」「当然やらないと思っていることをやらかす人がいるかもしれない」という想像力を逞しくして、あるいは、「使わざるを得ない状況ならどうにかなるだろう」という一種の鈍感力を発揮して導入する必要があります。
 もう一つのリスクは情報の錯綜・氾濫ですね。インタビューでは「集めてきたデータを処理する訓練を受けた幕僚がいない」と指摘されていますが、これは万国共通の問題だと思います。
 そもそも、この問題は意図しなくても生じるんですよ。先日能登半島のある避難所で発生した自販機破損も、これだけ情報伝達速度が向上しでも大手新聞社は真相にたどり着くことが出来ませんでしたよね。
 私も防大時代、訓練先で失禁したなんて噂が回り火消しに難儀した(実際は飛行機酔いで嘔吐)ことがありますがw、人はいつでも愉快な話題、あるいは衝撃的な話題に惹かれるものです。
 しかしそれが「誇張する(exaggerate)」方向でも「実際より深刻でないように見せかける(downplay)」でも大きなリスクとなるのは間違いありません。
 自衛隊は情報幕僚を中央集権的に配置していますが、戦術レベルで高度かつ大量の情報を扱う時代が来ていることを踏まえた配置が必要だと思います。技術を使う上では、人間や集団をそれらの技術に適応させることもお忘れなく。 (以上S)

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