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ピーチ姫になりたかった

幼いころ、シンデレラ、白雪姫、オーロラ姫....童話のプリンセスの誰かに強烈に憧れた記憶が私には無い。
「どのディ○ニープリンセスが1番好き?」という話題になっても、はっきり答える事ができず、ボンヤリと明後日の方向を向いたり、なんだか居心地が悪くなっていた。
童話の物語自体は好きで、別にどのプリンセスも嫌いな訳では無いし、幼少期はお絵描きで『名称の無いお姫様』をよく描いていた。

でも、実は私は「ピーチ姫になりたい」と思ったことをよく覚えている。

たぶん保育園ぐらいだと思う。
ファミリーコンピュータ時代のマリオのゲーム画面を見ながら、マリオがこんなにまで(炎の中、海の中、何度もゲームオーバーになりながらも死の淵から這い上がりスーパースターの力であらゆるものをなぎ倒)して助けに行くピーチ姫ってすごいんだ!と思っていた。
そして私も、そんな、誰かに助けに来てもらえるような、ピーチ姫になりたかった。

とらわれのお姫様のつもりで、大きな衣装ケースの中で眠ったはずなのに、翌朝になると布団で寝かされていたこともある。親には(棺桶っぽくて)気味が悪いから辞めなさい、と言われていたけど、当時は意味がよくわからなかった。
今思えば、画面の中のピーチ姫はドット絵で、顔はおろか性格もよくわからなかったけど、とにかくその『求められる存在』は絶対的なもので、いつか私も大人になったら、そんな女性になれるかもしれないと思っていた。

成長するにつれ、私の見る世界は、童話やゲームの外の世界に広がった。
ハミングで小鳥が寄ってくるわけもなく、白馬に乗った王子様やカボチャの馬車も無く、喋るキノコ人間もいない、スーパースターも無い現実世界へとどんどん広がっていった。

むかーし昔、とあるアーティストのファン同士として、ネットで知り合った人たちだけの、今でいうオンラインサークルのようなものがあった。
基本はネット上だけの付き合いだったが、仲良くなった人たちと番組観覧イベントやライブで待ち合わせして遊ぶこともあった(今よりインターネットをしている人も少なかったので、より特別な世界のように感じていた)

ある時、そんなネット友達のうちの一人の男の子と仲良くなった。彼は自分のプリクラを公表していて「コーキ君、イケメンだね〜!」とみんなで話題になるほどのイケメン男子・コーキ君(仮名)だった。
住んでいるところがかなり遠かったし、同年代だったのでお互い自由なお金もなく、会ったことはなかったけれど、チャットなどでテキストだけのやりとりをしているうちに、個人的な連絡も増え、相手からの明らかな好意が分かるほどになり、コーキ君と私はオンライン上だけのやりとりでカップルになった。
今思うと何ソレって感じでありえないし、めちゃくちゃ若気の至りで黒歴史っぽい。

でも、それまで私はリアルの実生活で、そんな風に誰かに熱烈な好意を抱かれたことは無く、しかも相手はイケメンの男の子。ネット上だけの付き合いとはいえ、かなり舞い上がっていた。

そんなある時、共通の友人たちと私が一緒に撮ったプリクラを、友人が「オフ会の時のプリだよ〜!」と、ネットにアップした。
するとそれまで私の顔を見た事が無かったコーキ君が
「なおちゃんはどれ?この子?」
と特に可愛い子を指してたずねてきた。

実際の私は、その友人たちとの写真の中でも1番地味で、暗そうな、太った女の子だった。
オンラインでは饒舌に話せても、現実世界の私は、コンプレックスでいっぱいだった。

でも、正直に、「それは○○ちゃんで、こっちが私だよ」と伝えると、それ以降、コーキ君から私に対する態度が明らかに変わり、連絡も途絶えがちになり、仕舞いには先の特に可愛い女の子と付き合うようになっていた。

あーーー!????どどどどどどういうことやねん!???!!!!!!??!!!!!
あれほどスキスキダイスキ一休さんみたいなこと言ってたのに
必ず最後に愛じゃなくて顔が勝つのかーーー!?!?!!!!!???


言いようの無いモヤモヤと傷心を抱え、『選ばれなかった私』は自分の容姿に更なるトラウマを抱えた。

実生活でも、片思いしていた人が、私の友達を好きになったパターンは何度もある。
片思いの相談をしてた友達に「ごめん、私も好きになっちゃって...実は付き合うことになったんだ...」と泣かれたこともある。「そっか、よかったね..私は大丈夫、ハハハ...」と言ったけど、私が片思いしていた4年間でオリンピックができたし、告白もせず、新しくできた友達に彼の魅力を教えて付き合わせるって、私は一体何をしていたのだろう。歩くツヴァイか。

また別の(可愛い)友達に「彼氏の学校の男子を紹介するよ!彼女ほしい男の子がいるんだって!会いに行こう」と誘われて、会いに行った事がある。
向こうは会う前までは電話などでノリノリだったのに、いざ会ってみたら苦笑いのまま距離をとられ、私はその微妙な雰囲気に耐えられず、滞在30分ほどで友達を置いて先に帰った事なんかもある。
ちょっとリップを塗り直した気持ちや、はるばる多摩ニュータウンまで行った電車賃を思うとしんどかった。いっそサンリオピューロランドに行きたかった。でも、みんなの人気者・ハローキティ氏にはこの気持ちはきっとわからない。優しくしてくれるとは思う。でも、その時の私は、斜に構えた性格のバッドばつ丸ハンギョドンに缶コーヒーを渡され肩を並べて慰めてもらいたかった。はみだし者にもやさしいせかい。サンリオさんありがとう。

そんなこんなでガラスの10代、私はピーチ姫になるどころか、大きな悲しみや悔しみの末に、クッパになりそうだった。
この世の全てを強奪し炎を吐きながら暴れまわり時空を歪ませバナナの皮を投げてはガハガハと笑いマリオを貶めたい気持ちでいっぱいだった。いやまてマリオはどこだ、マリオなんかいないぞガハハハ!!!!お前のモノは俺のモノ!!!ジャイアン様のリサイタルをオマエの最後の子守唄にするんだなガハハハハハ!!!吾輩は10万57歳であるガハハハハ!!!!!

かしらかしら?ご存知かしら?

アニメ『少女革命ウテナ』をご存知だろうか? 1997年のテレビアニメだ。
私はこれを中学生時代にリアルタイムで観て、何じゃこりゃー!と衝撃を受け、20年以上経った今は知る人ぞ知る伝説の作品になっている。

ご存知ない方にいきなりネタバレしてしまうと....
主人公は男装の少女・天上ウテナ。
ウテナは転校した先の学園で、姫宮アンシーという少女に出会う。
アンシーはその学園の世界で薔薇の花嫁として『世界を革命する力』を手に入れるために重要な『モノ』として奪い合われ、『王子様システム』を成り立たせる為の役割として扱われている少女で、奇妙なことに、アンシー本人は、薔薇の花嫁としての自分の扱いに何の不満も持っておらず、従順で、まるで人形のようになっていた。
アンシーの友達になったウテナは、その世界のシステムに疑問を抱き、一人の人間としてのアンシーを守るべく、あらゆる決闘を受け続けていく。

しかしラストで、実はアンシーの実態は、民衆から百万本の剣に刺された末に、ずっと一人で暗い棺の中に閉じ込められ眠っていた事が分かる。(何を言ってるかわからねぇと思うがアニメを観てほしい。)

誰にも開けられないと思われていた棺を、ウテナは血まみれになりながらこじ開け、「外へ出よう」とアンシーを起こす。

目を覚ましたアンシーは「こんなの無理だ」と言うが、ウテナの懸命な声かけに、とうとうアンシーも棺の底から手を伸ばす。
結局あと少しのところで、その世界は棺もろとも崩壊し、ウテナは行方不明になってしまう。
アニメ版では、"ある意味で"世界は革命されなかったが、劇場版『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』ではウテナがスポーツカーやバイクになってアンシーを乗せ、新たな荒野へ走り去るシーンがある。何を言ってるかわからねぇと思うが劇場版を観てほしい。(こんなにネタバレしておきながらごめんマジごめん土下座)

ラストに限らず、少女革命ウテナは、とにかくメタファーの連続なのでボンヤリしていたら置いていかれてしまう作品だけれど、私はこの作品がアニメの中でいちばん好きだ。大人になった今改めて見ても、感慨深いシーンや台詞でいっぱいだ。

ピーチ姫になりたかった子供のゆくすえ

恩年34歳になった私は、子供の頃のように、狭い衣装ケースに入って
『誰かが助けに来てくれるのを待つお姫様』
『選ばれるのを待つこと』
『愛され』
として生きることや目指すことを辞めた。諦めというより、なんだかそうして型にはまる事とか、受身で待つ状態とか、あるべき姿でいることに飽きてしまった。愛されるよりも愛したい。選ばれるのではなく、選びたい。
自分から選択する事や自発的であることは、ある意味で不安定で勇気のいる事だ。
それでも数年前、ふと白髪が生えてきた自分の髪を見て、「人間だもの、体は老いていくものだよな」と思った時に、奇跡や偶然やタイミングや誰かの何かをじっと待っているよりも、自分からやりたいことをやろうと改めて思ったのだ。

ピーチ姫だって、今はマリオカートを爆走で乗り回し、『スーパープリンセスピーチ』というゲームでは主人公になり、マリオを救いに行っている。

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あれから私は、今のパートナーを見つけだした。
彼はリュックがずり落ちるほどの撫で肩で、彼に肩を組まれるよりも、むしろガッチリした肩の私が、彼の肩を包んで歩くのがちょうど良いぐらいだ。ヒゲの生え具合とかはちょっとマリオに似ているが、もはや誰がピーチ姫でもマリオでもクッパでも無い。
どんな困難をも蹴散らす『スーパースター』のアイテムが、どんな形で、何なのかは人によって違うし、ゲームリセットは出来なくても、失敗したこともまた人生のファクターになり経験として進めていく事が出来る。

私は自分が自分として生きられる人生、スーパーリアルワールドを生きていくことにした。


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