見出し画像

地元ラブ~北カリフォルニア

日曜日の午後、
近所のワイナリーに、お店で提供するワインを選ぶため、ワインテイスティングに出かけた。

私は、お店のワインリストにあるものは すべて地元から、と決めている。

チリやアルゼンチンやフランスのものはないし、カリフォルニアで有名なワインの産地、ナパバレーでもない。

うちに来るお客さんが経営する、もしくは働くワイナリーのワインを、うちの店で売る。これがコミュニティの良さで、しかも地元のカリフォルニア・ワインはどこもそれぞれにユニークで、美味だから都合がいい。いくらローカルだからって、美味しくなくてはね。

そして一般のお客さんのほうでも、うちで飲んで気に入ったワインがあれば、そのワイナリーを簡単に訪れたりもできる。実際、この町には、ワイン畑を見晴らすテイスティングルームのあるワイナリーがいくつもある。
サンフランシスコやその周辺から、週末に訪れる人々も多いのだ。

ワインリストと言っても、うちで、そんなに多くのワインを扱っているわけではない。

何といってもうちには 日本酒というものがあるしね。

この町に、日本酒を出す店は他にあっても、うちほどのお酒のラインナップはないと 密かに自負している(笑)。
お手軽なものから、味の違いが分かりやすいものをサンプルセットにしたり、ちょっと、これ、飲んでみてよ、と私がおすすめするものまで。

でも、残念ながら私イチオシの、うちの庶民的な店にしては高級なお酒を、試してくれるお客さんはそういない。それでもそのお酒を目当てに来店してくれるわずかな常連さんがいてくれるだけで 私は嬉しい。

日本の誇れる日本酒の味わいを、紹介できる喜びは格別なのだ。


さて、ワイナリーに話を戻すと、
暑い午後にあっても、そこにはひっきりなしにお客が訪れていた。

クーラーのきいた店内でテイスティングをする人たちもいれば、庭のレッドウッドの茂る木陰のテーブルで、チーズやクラッカーを買って、それをつまみに楽しんでいるグループもいた。

私たちグループ4人は、(そのうちの一人は運転手役をかってくれた夫、そしてうちのスタッフの2人と私)ブドウ畑を見渡せる風通しの良いテーブルを選んだ。

好きなワインのボトルを頼んで、それをじっくり楽しむこともできるけれど、今回の目的は、店の料理と合うワインを選ぶこと。
実際は、手頃な価格で、いいシャルドネがあれば、現在持っているのと差し替えようというアイデアがあった。

私たちはひとまずスパークリングワインを頼み、喉を潤すことにした。ワイナリーに来る途中の農家のスタンドで、摘みたてのイチゴとブラックベリーを買って、それをツマミにした。

完熟で甘みが最高の域に達していた赤と黒のベリーは、最高のワインのツマミになった。

ピノ・グリジオ、ソービニヨン・ブラン、シャルドネ、ビオネー、
と、ひとつが終わるごとに、店内に入って次を注いでもらうのだけど、そのたびに店の人と話したり、店内でテイスティングしている他の客とも、どんどんうちとけていく。

アルコールが入っているせいで、たいていの人はノリもよく、軽い会話と笑いが店内に響いている。ほんと、こういう雰囲気が好き。

たまたま出会った人たちと、グラスを傾けながら、ちょっとしたいい時間を、つかの間に過ごす。多くを言わずとも、それぞれの人の人生の、きらりとしたエッセンスがかいま見れる瞬間がある。

まるでひと時のさわやかな風が吹くように時が流れる。


そして、風が吹いたあとには何も残らない。

うちの店でも、寿司カウンターに隣同士で座った見知らぬ人たちが、そんなふうに打ち解けて話したり、お酒を酌み交わしたりする場面に遭遇すると、
「ほんと、これが醍醐味よね」
と、私はひとり、心の中で微笑んでいる。

先にも書いた、お酒に目のない常連さんが、寿司カウンターに座ったとき、隣の見知らぬ人に、自分のボトルからお酒を彼女にシェアした。
彼女は、「私が今まで飲んでいたのは、何だったの!?」と、驚きを隠さなかった。

さて、ワイナリーでは、初めは興味のなかった赤ワインにまで手を出して、私たちのテーブルのある外のエリアと、店内を何度も往復した。

結局、夏に人気のピノ・グリジオの白と、ピノ・ノワールの赤をお店に置くことに決まった。

3人でこんなに飲んだのに、お代はいらないと言われ困ってしまったので、お礼に何本か、個人的に気に入ったボトルを購入して、チップもはずんだ。

コミュニティは、お金も人も物資も循環してうまくいく。
地元の人がやっているスーパーマーケット、
地元の本屋、ギフトショップ、ブティック。
今日、訪ねたワイナリー、そしてイチゴとブラックベリーを買った農家。

そんな横のつながりが、ちょうどよく見渡せるこの町が私は本当に好き。

20年前は、アメリカで素敵な小さな町100選に選ばれたこともあったけれど、年々人が増えて、もう「小さな町」カテゴリーではなくなった。
その証拠に、数年前にコストコができた。

現在は、小さくもなく、大きくもない町。

大型の店ができて、どこも同じような顔をもつ町が増えたけれど、小さなワイナリーがたくさんあるお陰で、ここはどの町とも違う気がする。って言うのはきっと私のひいき目で、どんな町もそれぞれにユニークなのに決まっている。

ワインテイスティングの帰り道。

羊が寝転ぶ、舗装されてない道を、私たちを乗せた車は走った。
そして、間もなくカリフォルニア、ハイウェイ101に入る。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?