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No. 13 雨後の物語

 朝霧が光る庭、昨夜のスコールが過ぎ去った後の清々しい空気。木々は雨の恵みを全身で受け止め、新しい一日の息吹を感じさせる。アユタヤの古都は、そんな朝の訪れとともに、私たち旅人の心にも一歩を踏み出す力を与えてくれる。​​

 今日は、それぞれの道を歩むために、この地を離れる日。隆は、故郷のネオン街への帰途に着くために空港へ向かった。清美は、バンコクで待つラオス人の恋人の元へと急ぐ。

 龍太郎は、自転車での冒険を再開し北へと向かう。ラオスを経て、最終的には中国の雲南省から北京を目指し日本へ帰国するという壮大な計画だ。途中でアユムの家を訪れる予定。出会いは、新たな道を作る。

 私も、列車でノンカイからラオスを目指す予定なので、アユムの家で落ち合うことになった。
 そして、ゆか。彼女は昨夜、ナイトマーケットから宿に戻ってきて、ンゴの家を訪れたいと言い出した。

 先日の龍之介との会話が頭をよぎる。ゆかが私に気があるのかどうか、その答えを探るような複雑な気持ちを抱えながら、私は彼女と共に行くことになった。
 Teeも寂しそうだ。彼は常に私たちと行動を共にし、私たちを助けてくれた。ちょっとした買い物や食事、バスで行った滝へのピクニック。そうだ、ここに残る彼が一番寂しいのかもしれない。
 先生は、朝早くに学校へ行ってしまったが、彼女の存在が一番大きなものだったに違いない。毎日隅々まで掃除をしてくれ、時には口うるさく私たちを叱る、母親のような存在だった。

 もう、みんなと会うことは、ないかもしれない。それでも、たった10日ほどのPSゲストハウスでの出会いは、私たちの心に深く刻まれ、忘れがたいものとなった。それぞれの道を歩む私たちだが、アユタヤでの日々は、これからの旅路において、大切な光となって私たちを照らし続けるだろう。


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