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ヨウジヤマモト 未来への手紙(Yohji Yamamoto. Letter to the Future):ミラノの10コルソ・コモで開催、イタリア初の山本耀司展
2024年初夏、ミラノの文化複合施設 10 コルソ・コモ(10 Corso Como)にて、日本を代表するデザイナー 山本耀司にクローズアップした特別展「ヨウジヤマモト、未来への手紙」(Yohji Yamamoto. Letter to the Future)が開催されている。
過去にもコルソ・コモのギャラリーでは、ファッションイラストレーターのアントニオ・ロペスやジャーナリストのアンナ・ピアッジにクローズアップした企画展が開催されてきた。
また過去にヨウジヤマモトにクローズアップした特別展としては、パリの装飾美術館(MAD, Musée des Arts Décoratif)で2005年に開催された「Juste des vêtements」やアントワープのMoMu(ModeMuseum)で2006年に開催された「Dream Shop」のが挙げられるが、イタリアでヨウジヤマモトが取り上げられるのは、史上初とのこと。
参考:
キュレーションを担当したファッション研究者のアレッシオ・デ・ナヴァスケス(Alessio de’ Navasques)は、ヨウジヤマモトを象徴するコレクションと最近のコレクションから25点のルックを選び出し、未来のコレクションとの対話を想起させる空間を生み出した。
1980年代のパリで衝撃的なデビューを飾って以降、ヨウジヤマモトの作品に共通するのは、黒という色、シルエットとフォルムへのこだわりである。
広々とした本会場には、白い壁に書かれたヨウジヤマモトの言葉とともに、彼が愛する黒の服が満遍なく散りばめられ、そこには時折、赤やグレー、白の洋服やアイテムが配置されている。
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またヨウジヤマモトの作品に現れている特徴は、原型を解体し、再構築する能力である。
会場には、写真家ニック・ナイト(Nick Knight)が撮影したことで有名な1986年秋冬の燕尾服から、2024年秋冬の最新作までのアーカイブが展示され、そこには、彼の服が愛される理由でもある、トレンドに流されない美学がある。
山本のコレクションは、常にヨーロッパのファッションの常識に対して一石を投じるものであった。
例えばパリのムーラン・ルージュ(Moulin Rouge)で開催された1999年の春夏コレクションのテーマは「結婚」であった。
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誰しもが純白のドレスを纏った幸せな花嫁になれるわけではない。
もっと日常着のようにカジュアルなドレスや黒いウエディングドレスがあってもよい。
山本は「結婚」という神聖なオケージョンのための洋服を、ムーラン・ルージュという最も結婚のイメージから遠いパリのキャバレーで発表した。
山本は、堅苦しい結婚という制度や先入観で固められた幸せの形を解体したかったのかもしれない。
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山本は、ジェンダーの固定観念や概念を覆すと同時に、美の概念を再定義し、普遍的なシルエットの中に新たな身体を創造した。
また山本は、まるで時の旅人のように、ヨーロッパのファッションの歴史上の様々なモチーフを自身のコレクションに取り込んだ。
このようにヨーロッパのファッションを取り込みつつも、パリ発のモードのコードをねじ曲げるのが好きな山本は、ディオールのバージャケットをリメイクしたかのような作品を発表した。
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ウエスト部分はキュッとしまっていながらも、まるで折り紙でできたマントのような形のドレスである。
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この2つのルックは、ヒップラインを強調したバッスルスタイルのドレス(bustle style, faux cul)に影響を受けたものである。
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山本耀司にとって「一人でいるときは、いつも母のことを考えています」と述べるほど、母親は大きな存在であった。
戦後日本の決して裕福とは言えない街で、早くに父親を亡くした山本は、母親をはじめとする働く女性に囲まれて幼少期を過ごした。
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少年時代の山本は、ヤクザたちが取り仕切る東京・新宿の風俗嬢たちを観察した。
このように幼少期からいわゆる「夜の女性」を見てきたせいであろうか、山本は、女性の身体を保護し、覆い隠すようなデザインの服を作ることもあった。
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1981年にパリでデビューしてすぐに、山本は、メンズ服を女性に着せるというアイデアを発表した。
以降、山本は、常に女性性と男性性のつながりを追求し、知的または芸術的な女性服を創作している。
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また東洋と西洋のスタイルを融合させることを得意とした山本の巧みな技を随所に見ることができる。
その他にも、解体され、裂け目が入ったシャーリングやナイティ、また縛られたボンデージ結びが施されたドレスにも侘び寂びの心を見ることができる。
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これほどまでに賞賛を受けながらも、山本は、ファッションの展示会が大嫌いだと豪語するほど、自分自身の過去のアイディアの遺産に酔いしれることを激しく拒否している。
本展は、単に過去の作品を振り返る陳腐な企画展ではなく、現在進行形で新たな創造に挑み続ける山本のストーリーを語るものなのである。
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実際にこの特別展から浮かび上がるのは、身体とドレスの関係である。
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キュレーターのアレッシオ・デ・ナヴァスケスは次のようなコメントを出している。
「…山本耀司は、禅の精神と肉感的で劇的なフォルムの力を融合させている。
私たちは歴史的瞬間に立ち会っている。
山本がヨーロッパでデビューした頃と同じように、身体は超構造やジェンダーの固定観念から解き放たれたように見えながらも、結局、過剰に私自身は露出され、ソーシャルメディア上で起こるような批判を受け続けてしまうという歴史的瞬間に。
一方、山本のメッセージは、(衣服やメディアが身体をコントロールするのではなく)身体の方が衣服に対して影響を持つ、作用するのであり、その衣服の方は、不完全かつ心地の良い形を持ち、あらゆる身体と精神を包み込むのである。」
«Yohji Yamamoto unisce ad un senso di spiritualità zen, la potenza carnale e drammatica della forma. Assistiamo ad un momento storico in cui, proprio come accadeva negli anni del suo esordio in Europa, la fisicità sembra essersi liberata da sovrastrutture e stereotipi di genere, eppure siamo sovraesposti, continuamente giudicati, come accade sui social media. Il messaggio di Yohji Yamamoto è, invece, quello del corpo che agisce sull’abito, attraverso le sue forme imperfette e accoglienti, che racchiudono ogni tipo di corpo e di spirito».
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山本は、完璧ではないためにあらゆる形に対して柔軟であるという「不完全」という概念のもとに、生地やボリュームを巧みに扱いながら、時間を超えて未来を見据える自由を衣服を通じて発信している。
この「不完全さ」は、ソーシャルメディアやステレオタイプに毒されてしまっている人々にとって、唯一無二のデザイン、ありのままの身体をポジティブに捉えることを思い出させてくれるものでもある。
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山本の不完全さへのこだわりは、2024年春夏コレクションにも現れている。
型にはまらない生地の扱い方、未完成の縫い目やフォルムなどなど… 服を纏うのは他ならぬ自分であり、自分を持って服が完成するということを思い起こさせてくれる。
山本は、1980年代にパリに衝撃を与えて以降、衣服と人との関係に革命を起こし、未完成な自由という普遍的なメッセージを発信し続けている。
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山本は、身体は衣服やソーシャルメディアによって規定されるものではなく、身体こそ、衣服に作用し、衣服を変容させるものであるという主張を貫いている。
ヨウジヤマモトの服は、あらゆる身体の形を優雅に受け入れるのである。
Yohji Yamamoto. Letter to the Future
住所:10 Corso Como
会場:Galleria 10 Corso Como
会期:2024年5月16日から7月31日まで
開館時間:10:30-19:30
入場無料
公式ホームページ:
・「"Yohji Yamamoto: Letter to the Future" inaugura a Milano」『Vogue Italia』(2024年5月17日付記事)
・my clothing archive(2024年6月9日最終閲覧)(リンクの中にカルラ・ソッツァーニの姉妹のフランカ・ソッツァーニのインタビューあり)
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