カーザ・カンパニーニ(Casa Campanini):さくらんぼ柄の天井やステンドグラスが素敵なミラノのリバティ様式の邸宅
ミラノの街中では、美術館やお店ではないにもかかわらず一際目をひく美しい造りの建造物があちこちで目にすることができる。
世界中から音楽家が集まるジュゼッペ・ヴェルディ音楽院(Conservatorio di Musica "Giuseppe Verdi")があるミラノのポルタ・モンフォルテ(Porta Monforte)エリアや、ポルタ・ヴェネツィア(Porta Venezia)エリアでは、特に美しいアール・ヌーヴォー様式(リバティ様式)の建物を多く目にすることができる。
今回紹介するカーザ・カンパニーニ(Casa Campanini)も、以前記事にしたカーザ・ガリンベルティと同様にそのミラノを代表するアール・ヌーヴォー様式の建物の一つである。
参考:
このカーザ・カンパニーニは、今は普通のマンションとして使われている。
2023年現在、管理人さんのいる時間帯だけ一般の人にも開放されているようだが、中に入る際にはあくまでも普通の集合住宅であることを忘れずに、住人の方々の迷惑にならないように管理人さんに挨拶してから見学したい。
それではこの美しい建物の成り立ちやその見所について書いていくこととしよう。
この豪奢な邸宅を設計したのは、建築家アルフレッド・カンパニーニ(Alfredo Campanini)である。
レッジョ・エミーリア生まれのカンパニーニは、1891 年にミラノに拠点を移し、ブレラ大学で建築学を学んだ。
また建築家・修復家カミッロ・ボイート(Camillo Boito;1836-1914)のもと弟子として働いていたカンパニーニは、1900年に開催されたミラノ万国博覧会にて、郵便と電信のパビリオンのコンペティションで優勝し、建築家としての活動を本格的にスタートさせた。
この頃、カンパニーニは、かの有名な映画監督ルキーノ・ヴィスコンティの父ジュゼッペ・ヴィスコンティ・ディ・モドローネ(Giuseppe Visonti di Modrone, I duca di Grazzano Visconti;1879-1941)の主導のもとに行われたピアチェンツァ県の小さなコムーネ・ヴィゴルツォーネ(Vigolzone)にあるグラッツァーノ・ヴィスコンティ城(Il castello di Grazzano Visconti)周辺地域の再開発プロジェクトに参加している。
このカンパニーニ邸を設計するにあたり、カンパニーニは、建築家のジュゼッペ・ソッマルーガ(Giuseppe Sommaruga;1867-1917)が設計したミラノのコルソ・ヴェネツィアにあるカスティリオーニ邸(Palazzo Castiglioni)にインスピレーションを得て、シンプルな建物の構造と、花などの植物のモチーフで華やかで動きのある装飾というコントラストを自身の邸宅にも採用することにした。
こうして1904年から1905年にかけて、門の彫刻からステンドグラスや鋼鉄の細工に至るまで全ての装飾をデザインした自身の邸宅をこのエリアに建てたのであった。
地上3階と屋根裏部屋、地下1階という構造の石造の建物であるカーザ・カンパニーニは、外観はアール・ヌーヴォー様式の浮き彫りによる豊かな装飾が施されている。
正面玄関には、巨大な女性像が2体も掘られており、見る人を圧倒する。
カラフルなステンドグラスやドアに施された木彫りの装飾など、あらゆるところに花のモチーフが見られるほか、中庭のポルティコ(Portico)の天井は、可憐なサクランボが描かれている。
参考:
またカンパニーニは、現在は州政府事務所(Agenzia del Demanio | Direzione Regionale Lombardia)として使われているコルソ・モンテフォルテ32番地(Corso Monteforte 32)の建物やセナート通り28番地(Via Senato 28)のカーザ・トージ(Casa Tosi 4)の設計も手がけており、いずれも華やかな装飾が目を引く建築物である。
こちらは住居へと続く階段とエレベーターのエリア。
管理人さんがアメリカ製の古いエレベーターということで中を開けて見せてくださった。
筆者が「タイタニック」に出てくるエレベーターみたいと言うと「その通りさ」と嬉しそうに管理人さんは答えてくださった。
螺旋階段にもカラフルな花の絵が描かれている。
手すりの部分も花弁や葉っぱのように見える。
もう一つ、違う螺旋階段も見せていただいた。
宮沢賢治の『やまなし』に出てくるクラムボンはこんな感じだったのかなと思わせてくれるような可愛らしい装飾である。
室内のステンドグラスも鮮やか。
また庭もこのカンパニーニ邸の見どころの一つ。
外壁も花弁をモチーフにしたタイルで彩られている。
籐の花やしっかりした幹の木がのびのびと育っており、庭には心地よい木陰ができていた。
また管理人室も見せていただいた。
管理人室にはこの邸宅の設計者のアルフレッド・カンパニーニ(Alfredo Campanini)の小さな肖像が貼られていた。
管理人室からのぞむ庭も美しい。
また管理人室の照明や壁の模様、なだらかな曲線の机など全てがこだわりのものらしく、管理人さんは誇らしげに一つ一つ見せてくださった。
改めて中庭から出口の方を見てみても、ステンドグラスや天井、全てが可憐である。
こちらは出口のドアの方から入り口のステンドグラスを見た様子。
午前中は12時15分でドアを閉めるため、管理人さんがこちらのステンドグラスのドアを閉めたところを撮影したのであった。
このカーザ・カンパニーニは、美術館のような特別な建物ではないものの、まさに街の中の隠れた名所である。
普段ならば通り過ぎるようなところでも思い切って入ってみると素敵な風景が広がっているということを実感したのであった。
カーザ・カンパニーニ(Casa Campanini)
住所:Via Vincenzo Bellini, 11, 20122 Milano, Italy
開館時間:8:00-12:15、15:00-19:30(月曜から金曜)、8:00-12:15(土曜)
※入場無料、しかし個人のアパートであるため、見学の際には管理人さんの許可を取り、管理人さんが許可したエリアにしか立ち入らないこと。
参考:
・「Casa Campanini」『Lombardia Beni Culturali』
・「Casa Campanini, quando il liberty diventa protagonista」『Milano Da Vedere』(2019年12月22日付記事)
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