ロマネンゴ(Antica Confetteria Romanengo Milano):1780年創業、海上交易で栄えたジェノヴァ生まれの老舗菓子店
今回は、ジェノヴァで1780年に創業した老舗菓子店ロマネンゴ (Romanengo)のミラノ店について紹介したい。
当初、定期的に更新しているミラノのカフェ特集の中でこのカフェを扱おうと思ったのだが、調べているうちにジェノヴァの歴史と深く関わっていることがわかってきたので、このお店だけの記事を書きたいと思った次第である。
地中海交易の重要な港町であったジェノヴァでは、貴族たちが銀行業や交易を担い、街は栄えた。
ジェノヴァに本店を置くロマネンゴは、最近、ミラノにも新しい店舗をオープンした。
ミラノで一番の老舗コヴァ(COVA、1817年創業)よりも古いロマネンゴの歴史、それはジェノヴァの歴史とも深く関わりながら展開していったものなのでここで時系列に沿って説明していくことにしよう。
1780年、ジェノヴァの薬屋の家に生まれたピエトロ・ロマネンゴ(Pietro Romanengo fu Stefano、”fu Stefano”は「亡き父ステファノ」の意味)とその弟フランチェスコ(Francesco)は、その工房で砂糖漬けのフルーツ、砂糖漬けのアーモンド、アーモンドペーストの製造に着手した。
これらの砂糖を使った加工品は、ジェノヴァの人々が第一回十字軍の時代(1096-1099)に、シリアのトリポリを包囲した際に、砂糖とともに発見したものであり、ジェノヴァでは高級品として取り扱われていた。
十字軍遠征後、砂糖についての知識とレシピはジェノヴァに広まり、ジェノヴァでは砂糖漬けの果物が製造されるようになった。
砂糖漬けの果物は、長時間の船旅でもその栄養素をほとんど保つことができると信じられていたために、海上商人たちに重宝された。
18世紀末、ナポレオンのイタリア遠征(1796)およびジェノヴァ包囲戦を生き延びたロマネンゴ家は、フランスの復古王政(1814-1830)の始まりとともにジェノヴァのソツィリア通りに新たに店を構えた。
さらに1853年にはパリのエレガントな洋菓子店に倣い、店を改装したロマネンゴ。
この頃、店を切り盛りしていたロマネンゴ家のステファノと息子のピエトロは、頻繁にパリを訪れ、チョコレートやコンフィズリーなど、最新のパリのお菓子を豊富に店に取り揃えた。
この時期には大きな工房を完備していたロマネンゴは、砂糖漬けのフルーツ、栗、チョコレート、アーモンド、ジャム、シロップ、そしてパリ風の洗練されたお菓子を生産した。
また1853年にこの息子のピエトロ・ロマネンゴ・フ・ステファノ(Pietro Romanengo fu Stefano)が店を「パリ風」に修復した際、彼は自身と18世紀の創業者の名前の頭文字を取った社名(P R fu S)にトレードマークを付けたいと考えた。
ピエトロは、ロマネンゴの店がナポレオン戦争末期の1814年に開店したことを思い出し、平和の鳩をそのトレードマークに選び、今でもそのロゴは使われ続けている。
1848年革命が勃発し、ウィーン体制が崩壊し、ヨーロッパ全体が混乱に陥った時もロマネンゴは、菓子を愛し、注文・購入してくれる顧客のために菓子を作り続けた。
音楽家のジュゼッペ・ヴェルディ(Giuseppe Verdi;1813-1901)も頻繁にこの店を訪れ、ジャーナリストである友人オップランディーノ・アリバベーネ伯爵(Opprandino Arrivabene;1807-1887)に砂糖漬けの果物を贈った際には、次のような手紙を添えた(手紙の原本はミラノのスカラ座博物館が所蔵)。
「私はお菓子に囲まれて暮らしていますが、これほどまでにロマネンゴがあらゆる種類の果物を絶妙に味付けすることができるとは知りませんでした。パリから来た人々が教えてくれたのです。この発見を、あなた方と分かち合いたいと思ったわけです。」
とこのように、イタリア人のヴェルディは、パリの人々から「ジェノヴァには「パリ風」の美味しい菓子店がある」と聞きつけ、その味に感嘆し、つい友人に紹介したくなったと述べているわけである。
ロマネンゴを愛した顧客の中には、多くの王族や貴族がいた。
例えば、イタリア統一(1861-1870)の象徴であるサヴォイア王家のヴィットーリオ・エマヌエーレ2世の息子にあたるウンベルト1世(Umberto I; 1844-1900)は、自身の婚礼の際にロマネンゴの菓子を買い求めた。
またエレナ・デル・モンテネグロ(Elena del Montenegro;1873-1952;モンテネグロ王女/ イタリア王ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世の妃)は、ピスタチオ・ヌガーを注文しに店に訪れた。
さらにロマネンゴを贔屓にしたアオスタ公爵夫人エレナ・ドルレアンス(Elena d'Orléans;1871-1951)は、ロマネンゴの看板に公爵家の紋章を入れることを許可した。
しかしながらロマネンゴは、その製品が王侯貴族向けの高級品になることを危惧した上に、平和の象徴の鳩のモチーフを大事にするためにその特権を辞退したのであった。
20世紀に入りスペイン風邪や世界大戦など困難な時代にあっても、ロマネンゴは、伝統的なレシピと製品の品質を守り続けた。
最近、その経営に加わったフランスの企業家ジャン・セバスチャン・ドゴー(Jean-Sébastien Decaux;1976-)は、老舗洋菓子店の伝統と価値を尊重しつつ、より多くの人々にロマネンゴのお菓子を届けるために新たなプロジェクトを遂行しているとのことである。
ここまでに紹介したカフェスペースの隣には、ロマネンゴの商品を扱う販売専門店があるが、写真撮影禁止とのことだったので、簡単な紹介にとどめる。
小さな店舗ではあるが、木のショーケースの中には砂糖漬けのフルーツや砂糖菓子、チョコレートが並び、ギフト用に好きなものを詰め合わせることができる。
またタブレット型のチョコレートもあるので、可愛らしいパッケージデザインやクラシカルな店内の雰囲気を楽しみながら買い物するのも良いであろう。
アンティーカ・コンフェッテリア・ロマネンゴ・ミラノ(Antica Confetteria Romanengo Milano)
住所:Via Caminadella, 23, 20123 Milano, Italy
営業時間:10:00-19:00(火曜から土曜)、9:00-14:30(日曜)、月曜定休
公式ホームページ:romanengo.com
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?