ミラノのスフォルチェスコ城にて、レオナルド・ダ・ヴィンチの素描を公開:...per Gitar Diverse Linee, "Disegni a pietra rossa da Leonardo alle Accademie al Castello Sforzesco"
ミラノにゆかりのあるルネサンス期の知の巨人、レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo Da Vinci)。
現在、ミラノのスフォルチェスコ城では…per Gitar Diverse Linee, "Disegni a pietra rossa da Leonardo alle Accademie al Castello Sforzesco"(「レオナルドからスフォルツェスコ城アカデミーまでの赤石のデッサン」)と題した特別展が開催されており、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品として保管される「レダの頭部」を鑑賞することができる。
ミラノの僭主であったスフォルツァ家が建てたスフォルチェスコ城。
ミラノの大聖堂に向かい合う形で建っており、歩いてみると意外に近いことに気づく。
城の中には美術館や図書館、公園などいくつもの施設があり、いわばルネサンス式の文化複合施設である。
ちなみにミラノのスフォルツァ家に仕えていたレオナルド・ダ・ヴィンチが、15世紀末には教皇庁に仕え、さらに16世紀に入るとフランス王フランソワ1世と出会い、王に招かれてフランスに渡ったという話については、フランスのシャンボール城のnoteを参照していただきたい。
スフォルチェスコ城内にあるサレット・デッラ・グラフィカ(Salette della Grafica)では、A. ベルタレッリ 印刷物コレクション(Raccolta delle Stampe "A. Bertarelli")とドローイング・キャビネット(Il Gabinetto dei Disegni)のアーカイブを使った特別展が定期的に開催されている。
例えば過去には、アルベリコ12世こと、バルビアーノ・ディ・ベルギオイオーソ・デステ(Alberico XII, Barbiano di Belgioioso d'Este;1725-1813)の素描コレクションの特別展が開催されたこともある。
今回の特別展では、画材として長く人々に愛用されてきた赤い石、サンギュイン(La sanguigna、レッドチョーク)を使った15世紀末から1920年代まで、およそ4世紀にわたる作品が展示されている。
主なものを挙げるとするならば、レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci)、フランチェスコ・メルツィ(Franceco Melzi)、アンブロージョ・フィジーノ(Ambrogio Figino)、ジュゼッペ・ボッシ(Giuseppe Bossi)やルイジ・サバテッリ(Luigi Sabatelli)といったアカデミーの人たち。
ヨーロッパ各地で採石された天然石であるサンギュインは、その色合いが独特であることもあり、15世紀には建築の図面や素描など様々な用途で使われるグラフィックツールとして普及していった。
またこの素材は、乾いた血液の色に似ているために、血を意味するイタリア語 "sangue"(サングエ)からサンギュインと呼ばれるようになった。
ルネサンス期の芸術家たちは、スケッチや、建築や解剖学の研究などをする上で、この赤い素材を選んだ。
またレオナルド・ダ・ヴィンチなどの芸術家は「赤地に赤」というように赤い素材にこのサンギュインでスケッチしたり、サンギュインと黒や白鉛など他の色の素材とを混ぜたりなど、自由自在にこの赤を使った。
最初の展示室では、レオナルド・ダ・ヴィンチやその弟子フランチェスコ・メルツィからプロカッチーニ、モラッツォーネに至るまで、15世紀末から17世紀にかけてミラノで活躍した主要な画家たちの代表的な作品が展示されている。
本展の目玉であるレオナルド・ダ・ヴィンチの素描と並べて展示されているのは、ミラノの貴族の家庭に生まれ、レオナルド・ダ・ヴィンチの弟子となった画家フランチェスコ・メルツィ(Francesco Melzi;1491-1570)の作品である。
実は彼の作品とされる素描はほとんど残っていない。
本店で展示される作品は、メルツィの作品だと考えられている、現在ミラノのアンブロジアーナ絵画館に所蔵される作品やウフィッツィ所蔵の『レダと白鳥』(Leda col cigno)のデッサンや技術の面でも共通点が見られる。
またこの素描は、今は現存していないレオナルドの絵画の下絵である可能性がある。
今は現存していないという絵は、16世紀の史料に記載されており、17世紀初頭にはフランスのフォンテーヌブロー城に保管されていたことが確認できるが、その時にはすでに状態が良くなかったという。
ウフィツィ美術館には、この絵の模写であると考えられる作品が保存されており、全体としては、レダとその子供たち(ディオスクーリ)が描かれている。
第一展示室をさらに奥に進むと、エミリア派、ローマ派、ナポリ派、ヴェネツィア派の作品が展示されている第2展示室に行き着く。
ここではアイディアを素早くまとめるためのスケッチから、細部や人物、構図の研究に至るまで、いかにしてサンギュインが使われたが説明されている。
第2展示室の多くの作品は、鑑定家でありコレクターであったジョヴァンニ・モレッリ(Giovanni Morelli;1816-1891)が所有していたもので、彼の死後、コレクションはミラノ市に寄贈された。
モレッリが所有していた作品には、頭文字Mのインクスタンプが押されている。
またこの作品にはもう一つの印が押されているが、これは19世紀のミラノで最も規模の大きい素描コレクター、出版社兼版画商ジュゼッペ・ヴァッラルディ(Giuseppe Vallardi)のものである。
このデッサンは、カミッロ・プロカッチーニ(Camillo Procaccini)による聖母被昇天を描いた祭壇画の上部の下絵であることが確認されており、その祭壇画は、かつてはポンテデーラのサン・マッテオ教会に、現在はウフィツィ美術館に所蔵されている。
この素描自体は、アルベリコ12世、バルビアーノ・ディ・ベルギオイオーソ・デステ公の所蔵品であり、1943年にトリヴルツィオ家からの寄贈としてミラノ市のコレクションに加わった。
また本展は、ミヒャエル・W・クワッケルシュタイン(Michael W. Kwakkelstein)とルカ・フィオレンティーノ(Luca Fiorentino)がキュレーターを務め、オランダやイタリアの研究者が参加した国際的な研究プロジェクトの成果でもある。
例えば、パリ国立美術史研究所(Institut National d'histoire de l'Art)nヤコポ・ランザーニ(Jacopo Ranzani)は、工房における赤石の使用について調査した。
イタリア・バーリ大学のフランチェスコ・ロファーノ(Francesco Lofano)は、ナポリの画家ベルナルド・カヴァッリーノ(Bernardo Cavallino)など、17世紀のナポリの画家による特有の三色の使用について研究した。
フィレンツェにあるオランダ美術史大学教育機構(Niki Florence)の研究員
ルカ・フィオレンティーノ(Luca Fiorentino)は、17世紀前半ミラノにおけるグラフィック技法を分析した。
このキュレーターたちは、スフォルチェスコ城が持つドローイング・キャビネットコレクション3万点以上の中から、レオナルド・ダ・ヴィンチやその弟子フランチェスコ・メルツィ、プロカッチーニ、モラッツォーネなど、16世紀から17世紀にかけてミラノで活躍した主要な画家たちの「赤」を使った作品を本展のために選び出した。
会場を出て、スフォルチェスコ城を散歩。
今回展示されていたのは、完成された絵画や彫刻ではなく、あくまでもその下書きの素描である。
完璧な作品ではないかもしれないが、そこには、描き手のフレッシュ、かつ躍動感あふれるアイディアが反映されており、見るたびに新たな発見があるのである。
Per Gitar Diverse Linee, "Disegni a pietra rossa da Leonardo alle Accademie al Castello Sforzesco"
会場:スフォルチェスコ城(Castel Sforzesco)
住所:Piazza Castello, 20121 Milano, Italy
会期:2024年5月8日から8月18日まで
公式ホームページ:
特設ページ→★
参考:「La nuova mostra (gratuita) al Castello Sforzesco di Milano」『Milano Today』(2024年5月7日付記事)
おまけ
鑑賞の帰りに寄ったカフェを紹介。
スフォルチェスコ城近くにあるシュガー(Sugar)、周りは緑に囲まれておりとても気持ちがいい。
このカフェは中央駅の近くにも新しい別の店舗がある。
緑いっぱいのテラス席はいつも人気だ。
カフェ1.5€、パスティチーノ1.5€、チョコ1€、席料なし。
このオレンジピールチョコはイタリアのパスティチェリアで扱っているところが多いが、筆者のお気に入りである。
参考:
シュガー(Sugar)
住所:Via Vincenzo Monti, 26, 20123 Milano, Italy
営業時間:8:00-20:00(月曜から土曜)、8:00-18:00(日曜)
公式ホームページ:sugarmonti.com
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