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バール・ルーチェ(Bar Luce):ウェス・アンダーソンが手がける、ミラノのプラダ財団美術館併設カフェ

ミラノのプラダ財団美術館(Fondazione Prada)の敷地内に映画監督ウェス・アンダーソンがデザインしたカフェ、バール・ルーチェ(Bar Luce)がある。

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ウェス・アンダーソンといえば、代表作に『ダージリン急行』(The Darjeeling Limited;2008)や『グランド・ブダペスト・ホテル』(The Grand Budapest Hotel; 2014)、『犬ヶ島』(Isle of dog;2018)が挙げられ、その独特な世界観にハマった人はとことん好きになってしまうという魅力がある。

こちらは、プラダ財団美術館敷地内の見取り図。

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プラダ財団美術館の正門から入ってすぐ、左手にある建物が、ブックショップ(Biblioteca)とカフェ(Bar)である。

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今回のnoteでは、ミラノやプラダ財団とも関わりが深いウェス・アンダーソンの世界観満載の美術館併設カフェについて書いていきたい。

何を隠そう、ミラノのカフェが好きな筆者にとって、この美術館併設カフェだけは好きの度合いが高過ぎて、そこへ行く時には、ちょっとした遠足気分になってしまうほどなのである。

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カフェをデザインしたウェス・アンダーソンは次のようにコメントを残している:


「この空間に観念的な観点はないんだ。


現実の営みとして捉えるために、会話、読書、食事、コーヒーのために快適な場を設ける必要があった。


ここはそれをするのに最高の場だと思っているけど、映画を書くのにも相応しい場だとも考えているよ。


映画のようではなくいつも過ごしている午後のような一つの場としてこのバールを造ろうとしたんだ。」

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そう語るウェス・アンダーソンは、自身のミラノに対する愛をこのバールに詰め込んでいると分かるポイントが3つ挙げられる。


まず一つ目のポイントは、ウェス・アンダーソンが、このカフェの内装をミラノ中心地にあるヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガレリアをモチーフに作っているということである。

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よく見るとガレリアのアーチや内壁のモチーフが、店内の至る所に見られ、そこはまるでミニチュア版ガレリアである。


次に2つ目のポイントは、店内のインテリアは、イタリアの1950年代から1960年代のポップカルチャー美学からインスピレーションを得ているのである。

1943年にムッソリーニが失脚し、敗戦国となったイタリアであったが、1950年代に入ると、経済的・文化的に奇跡の大復興を遂げた。


このような輝かしくも涙ぐましいイタリアの歴史の歩みの中で、イタリアの文化は息を吹き返し、映画スターや監督たちは生き生きと活動を始めた。


このような空気のもとイタリアで始まったネオリアリズムの傑作として、ヴィットリオ・デ・シーカ作『ミラノの奇跡』(Miracolo a Milano;1951)やヴィスコンティ作『若者のすべて』(Rocco e i suoi fratelli;1960)が挙げられ、これらの作品は、この内装に大きな影響を与えている。

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ウェス・アンダーソン自身の短編映画『カステッロ・カヴァルカンティ』(Castello Cavalcanti; 2013)も、戦後のイタリア文化に着想を得て制作されたとのことである。

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鮮やかなパステルカラーのソファーに腰かけ、また実際に動いていないようだが、ポップなデザインのジュークボックスやボードゲームを見ていると、自分もそれらの映画の一部になっていくような気持ちに浸ることができる。


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最後に3つ目のポイントは、店内で提供されているドリンクとフードは、ミラノの老舗バールであるマルケージ(Marchesi 1824)が提供しているものであるということでる。

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テーブル席では15%のサービス料が加算されるものの、カウンター席での値段は、エスプレッソ1杯1€と、市内のバールでの値段とあまり変わらない値段である。

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こちらは2019年に撮影した写真であるが、店内の窓際にテーブル席が並んでいる。


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一方で、店内中央のソファー席(座れたらラッキー)と立ち飲み用のカウンターでの飲食は、カウンター席の値段設定となっている。


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またカウンター席には充電スポットあり。

館内には撮影禁止スポットもあるものの、撮影可能な場所も比較的多いため、鑑賞中に消費したバッテリーの充電にうってつけである。

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カフェメニューも絵本のような装丁で心躍る。


メニューを見つつ、カウンター利用の場合、注文はレジで行う。

テーブル席の場合、カメリエーレが注文を取りに来てくれる。


ここで筆者が頼んだことがあるものをいくつか紹介。

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こちらのカフェ・コパンナは1.5€、クリームが小さなカップにもりもりである。


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またソイカプチーノは1.7€。


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フルーツタルトはニベアクリームの青缶よりちょっと小さいくらいの程よいサイズで5€。


マルケージが提供しているというケーキの見栄えは、『グランド・ブダペスト・ホテル』に出てくるお菓子を食べてみたいという願望をかなえてくれるのではないであろうか。

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ショーケースに目が釘付けになってしまう。

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(ちなみにコーティザン・オ・ショコラは、物語上のお菓子であるためここにはもちろんない)


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ジェラートやアイスも販売されている。


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甘いものばかりではなく、注文を受けてから作ってくれるパニーニ(野菜のパニーニ6.5€)のメニューも実に豊富である。

パンズ部分は薄めでパリパリ、具がたっぷりなパニーニである。


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階段を降りていく仕様になっているトイレのデザインも凝っている。




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以上、美術館併設カフェを余すことなく紹介した。

なお過去に当美術館では、2019年9月20日から2020年1月13日までウェスアンダーソンがキュレーションした特別展「トガリネズミのミイラの棺と宝物たち」( ”Wes Anderson e Juman Malouf
Il sarcofago di Spitzmaus e altri tesori”
) が開催され、彼とプラダ財団の結びつきの強さが改めて確認された。

この特別展のレポートを記したnoteはこちら:

(「《前編》 プラダ財団美術館特別展、ウェス・アンダーソンの世界観あふれる驚異の部屋」(2019年9月25日付note)/ 「《後編》プラダ財団美術館特別展、ウェス・アンダーソンの世界観あふれる驚異の部屋」(2019年9月28日付note))

極めでデザインに拘っているカフェであるものの、ウェス・アンダーソンが述べる通り、食べる、飲む、座るための場所とそのカフェそのものの機能は人々の生活の基本に根付いた極めてシンプルなものである。

またプラダ財団美術館の常設展・特別展のチケットを買うことなく、バールだけの利用も可能である。

とことんプラダ財団美術館と縁の深いウェス・アンダーソン。

これからもプラダ財団とウェス・アンダーソンのコラボレーションに注目である。



(※バール・ルーチェについての記事は、2019年3月に一度こちらのnoteで書いたが、文章を修正・加筆、さらに写真を追加した上、今回、2020年9月に改めてポストした)

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(2021年5月追記)

ロックダウンを経て半年ぶりにオープンしたプラダ財団美術館を鑑賞後、バールに寄ってみると、メニューがQRコード化されていた。

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その一部を紹介。

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また美術館とは別にバール・ルーチェ独自のWi-Fiも飛んでいる模様。

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2021年6月から店内飲食も再開される予定らしいので、再びカラフルなシートが使える日々が待ち遠しい限りである。

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Bar Luce (バール ルーチェ)

住所: Largo Isarco 2, 20139, Milano, Italy

営業時間:月・水・木曜日:9:00-20:00(月・水・木)、9:00-22:00(金・土・日)、火曜定休

公式HP:fondazioneprada.org

アクセス:

・Centrale FS(中央駅)から:地下鉄M3(黄色線)Lodi (ローディ) T. I. B. B.駅より徒歩10分
・Duomo(ドゥオーモ)から:ドゥオーモ裏側Piazza Fontana(ピアッツァ・フォンターナ)発着トラム24番から10駅目Via Lorenzini (ヴィア・ロレンツィーニ)停留所より徒歩5分

(文責・写真:増永菜生 @nao_masunaga






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