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広告媒体から見る2020年5月のイタリア・ミラノ

1. モードの街から消えた広告たち

1-1. 広告媒体に現れた変化

今回のnoteでは、2020年5月のイタリア・ミラノで見た広告媒体から、イタリアの今について考えてみる。

なぜ広告媒体に注目したか、その理由は次の通り。

ロックダウン中に自宅でYoutubeを流している時にあることに気がついた。

「スーパーマーケットと食品のCMばかり」

Youtubeの広告やバナー広告などは、特に個人の検索履歴などをもとに、ユーザーの興味・関心のあるものが表示されるようになっていると思っていたが、それにしても食品のCMが多い。

また家から一番近いスーパーマーケットを往復する間に見る街頭広告も、スーパーマーケットか食品会社のものばかりであった。

ロックダウン以前は...と考えてみると、香水や洋服の通販サイト、旅行会社などのCMを見ることが多かった気がする。

なぜ広告媒体がこれほどまでに気になるのか。

それはYoutubeや公共交通機関の広告など、人々が日常的に目にする場に広告を出せる企業とは、それだけ集客と利益を見込むことができる企業ということである。

3月上旬以降の措置により、食料品店と薬局以外の店は、従来のような営業ができなくなり、粛々とその再開できる日を待つしかないのである。

特にミラノといえば、街に入った瞬間から、ファッションブランドの広告や美術館の展示、スカラ座の公演の広告が街の至る所で出されているイメージがあったので、この変化には驚いた。

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(ミラノ中央駅に設置されるドルチェ・ガッバーナの大きな広告、2020年5月14日撮影)

つまり広告を読むということは、この2ヶ月間の人々の消費行動を考察するということにつながるのではないであろうかと考えた。

そこで5月4日以降に、散歩がてらちょっと歩いてミラノの街に出されている広告をいくつか撮ってくることにした。



1-2. 少しだけ外出制限が緩和されたイタリア、フェーズ2とは?

ミラノの街に今出されている広告を知るためには、街の中をくまなく歩いて、すべての地区の広告を撮影する必要があると思うが、今は「フェーズ2」の段階。

フェーズ2とは、2020年3月上旬からおよそ2ヶ月間続いた厳しい外出制限が少し緩和された段階のことである。

これがどういうものかと簡単に説明する。

4月26日付のコンテ首相の発表によると、5月4日から17日までの2週間の間、

《市民生活と移動》

・対人距離1メートルを確保し、マスクを着用した上で、証明される業務上の必要性,健康上の理由のみによる移動は可能。

・州内の親族に会うための移動は可能。

・州外へ移動は自宅に戻る場合、職務上・健康上の理由を除き禁止。

など。


《産業活動》

・製造業、建設業、不動産仲介業、卸売り業などの稼働は可能。

・食料品店、薬局などを除く小売店は、5月17日までは引き続き閉鎖。

・飲食業(カフェ、レストラン、菓子店など)営業休止。

・ケータリングサービスは、最低1メートルの対人距離を確保する条件で,営業可能。

・飲食業の宅配サービス及び店舗からのテイクアウトはOK。


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(ミラノ市内のとあるバールの様子。入り口に砂糖やナプキンがのったテーブルが置かれ、客は店の中に入ることなく、店の外でコーヒーを受け取るようになっている)


以上のような規制を設けた上で、感染拡大が再燃する可能性を念頭に置きつつ、ソーシャルディスタンスを保つ、マスク着用、手洗い、うがいなど個人で意識して生活をする段階をフェーズ2として、コンテ首相は、国民に協力を要請した。


つまりイタリアのロックダウン緩和とは、具体的にはこのようなことであり、ロックダウン当初よりミラノに滞在している筆者も、少し行動できる範囲が広がりホッとしている。

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(スーパーマーケットに入る前には必ず検温と、手の消毒とビニールの手袋の着用が求められる。手袋と言っても生産が追いついていないのか、指の先が分かれていない袋が設置されていることが多い)


いくら外出制限が緩和されたとはいえ、やみくもに長時間外出するのは良くない。

そのため、筆者が個人的に歩いて撮ってくることができた広告だけになるが、それをもとに街の状況を考えてみたい。


参考:

・日本貿易振興機構(ジェトロ)「ビジネス短信」(2020年4月30日付記事)

・在ミラノ日本国総領事館からのお知らせ



2. 食品系の色鮮やかな街頭広告と時が止まったファッション系の広告

2-1. 食品系の美味しそうな街頭広告

最初に、道端で目についた食品会社の広告たちを紹介する。

写真を撮影した場所は、いずれも宿泊施設や飲食店、企業ビルが立ち並ぶエリアであるミラノ中央駅付近である。

このようなミラノの玄関口の一つであるエリアにおいて、今、どのように広告が出されているのであろうか。



まずこちらはイタリアのスーパーマーケットで必ずと言っていいほど見つけることができるムリーノ・ビアンコ(Mulino Bianco)というクッキーのメーカーの広告。

広告には「あなたの朝食、いつも同じだけどいつも違う」と書かれている通り、定番ながらもいつ食べても美味しい、新しい食べ方があるというシンプルなクッキーの魅力が伝わってくる。

こちらはミラノ市内交通局(以下ATMと表記)の広告として、バス停に貼られていた。

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(2020年5月10日撮影)



そしてこちらもスーパーの定番、ダミコ(D'Amico)という缶詰や瓶詰め食品メーカーの広告である。

缶詰や瓶詰めの野菜、豆、またはオイル漬けのトマトやソースなど、イタリアの家庭料理に欠かせない食品であるため、イタリア在住の方ならば、このメーカーの食品を一度は手に取ったことがあるのではないであろうか。

この小さなポスターは、ミラノのレンタルバイクサービス、バイクミー(bike Me)の広告として掲示されていた。

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そしてこちらのバス停には、スイス生まれのチョコレートメーカー、ミルカ(milka)の広告。

筆者も誘惑に負けてスーパーマーケットでこのチョコレートを購入したことがあるが、他のメーカーのものよりミルク分が多く、まったりした甘さのチョコレートである。

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(2020年5月17日撮影)


こちらはバス停にあったマクドナルド・イタリアの広告。

2月中旬に新発売されたメニューの宣伝であるが、マクドナルドは店舗での営業は休止中、宅配サービスのみやっているとのことであった。

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(2020年5月16日撮影)


こちらはイタリア各地に店舗を展開するスーパーマーケット会社エッセルンガ(Esselunga)の広告。

筆者は、イタリアのイオンのようなものだと思っている。

因みに、3月末頃、最寄りのスーパーマーケットで2時間以上も並ぶことに辟易していた筆者は、エッセルンガのオンラインスーパーを使おうとしたことがあったが、その頃は、配送が追いついておらず、オンラインスーパーを利用することができないという状態であった。

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(2020年5月16日撮影)



こちらは日本でもお馴染み、アメリカの多国籍食品会社ドール(Dole)の広告。

イタリアは日本に比べると、格段に果物が安く、またプルーニャやブドウなど、国産のフルーツの種類も多いが、輸入物のフルーツの人気も健在のようである。

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(2020年5月10日撮影)


もう一つ、食品系ではないが、バス停に、有料放送を手がけるヨーロッパ有数のメディア企業スカイ(sky)の「Ready Music Play!」という番組の広告があった。

おうち時間を楽しくということで、NetflixやAmazon プライムなど、動画配信サービスを利用している人も多いのではないであろうか。

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(2020年5月10日撮影)



2-2. 3月から時が止まっているファッション系の広告

次にファッション系や劇場などの広告を見ていこう。


まずスカラ座のポスター。

ミラノが誇る歴史ある劇場スカラ座のポスターであるが、2020年5月の時点で、二ヶ月前の3月のポスターが貼ったままになっていた。

2ヶ月間、雨風にさらされて、ボロボロになっているポスターを見ているとなんだか悲しくなってくる。

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(2020年5月12日撮影)


こちらは現代アートを中心に展示を行うムデック(Mudec)のポスター。

2019年10月16日から2020年3月15日までの会期の特別展のポスターであるが、下の方に3月29日まで会期延長と書かれている。

というのも2月下旬に北イタリアで感染拡大して以降、2月24日から3月1日まで一旦美術館などの公共文化施設は休館という措置が取られることになった。

3月2日からしばらくの間、再オープンしていたのだが、3月8-11日の一連の首相令を受けて、文化施設は休館することになってしまった。

この展示は、当初、美術館の休館は3月1日までということを想定して、会期を延長したのだと思うが、結局、3月中旬より2ヶ月もの間、長い長い休館期間に入ることになったのであった。

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(2020年5月12日撮影)


食品の広告だけではなく、ファッション系の広告もちゃんと残っていた。

ただこのドルガバの広告はいつのシーズンのものか、いつ貼られたものかは分からなかった。

ミラノといえばこのような広告が溢れている街だったので、この広告を見てちょっとホッとした。

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(2020年5月12日撮影)


もう一つ、セリーヌの広告もレプブリカ駅の近くにあった。

こちらのドルガバと同じく、いつの広告か分からないが、ミラノらしい広告であると思っている。

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(2020年5月10日撮影)



さらに冒頭でも少し紹介したミラノ中央駅のドルガバの広告は、ロックダウン中も変わらず掲示されていた。

ミラノ中央駅のこのポジションには、いつもドルガバの広告がある。

余談だが、筆者が初めてミラノに訪れた時、このドルガバの広告と豪奢な駅舎を見て、「ミラノに来たのだな」と実感したのであった。

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(2020年5月14日撮影)


こちらは、筆者が勝手に「Gucciの壁」と呼んでいるモスコヴァ駅(Moscova)近くのグッチのアート広告である。

この建物の一面全てを使って、毎回アーティスティックなグッチの広告が描かれている。

描かれるのは、単なる商品のプロモーションというよりも、一つの芸術作品のようで、毎回楽しみにしている。

イタリアを代表するブランド、グッチの広告ということで、この壁は割と頻繁に塗り替えられるのであるが、筆者の記憶が正しければ、このすきっ歯が特徴的なグッチ・ビューティーの広告は、2月頃から掲示されていた。

約3ヶ月もこの壁が変わらなかったというのは、なかなか珍しいのではないであろうか。

5月18日以降の店舗での営業再開を前に、新しい広告に塗り替えようとしているのか、5月15日の時点では足場が組まれていた。

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(2020年5月15日撮影)



こちらはジョイア駅近くの大手携帯電話会社ティム(TIM)の広告。

この場所には、だいたいアップル製品の広告が出されているが、この広告がいつから掲載されていたかは確認できなかった。

おうち時間や在宅勤務時間を快適にということで、新たな電子機器を購入した人もいるかもしれないが、その一方で、節約のため、新たな電子機器の購入は控えているという人もいるかも知れない。

個人的な事情であるが、筆者は後者の方で、今、新しいiPhoneを買うのを我慢している状態である。

家にいてもインターネットは使うため、通信会社の売り上げは落ちないとは思うが、この期間に電子機器の売り上げがどうなったかは気になるところである。

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(2020年5月17日撮影)



最後に、バス停にあったポスター。

マスクを着用して、人との距離を保って、乗車するようにと書かれている。

このタイプの広告は、ATMを利用する人およびATMで働く人の安全を守るために、バスやメトロの至る所に貼ってある。

またバスの車内では座ってはいけない席に印が付けられており、人と人が隣り合って乗らないようにと工夫がなされていた。

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(2020年5月12日撮影)



以上、これだけの数で街全体の傾向を読むのは難しいが、新しく、サイクルが早い広告は、食品系の広告、しかもスーパーマーケットで購入できる商品のものが多い印象を受けた。

平常時にもっと目を凝らして見ていればよかったのだが、ロックダウン前のミラノでは、もっとファッション系やイベント系の街頭広告およびバスやメトロの広告が多かったと記憶している。


次の章では、自宅でよく見るYoutubeのCMから、イタリアの状況について考えてみたい。




3. 毎日見るYoutubeのCM

筆者は勉強中は音楽、家事などの作業中はレシピ動画などをYoutubeで見ることが多い。

そのためYoutubeのCMも毎日のように目にしている。

このYoutubeのCMでも2020年3月以降、様々な変化があったように感じている。

最後の章では、ロックダウン期間中に特によく目にしたYoutubeのCMを思い出しながら紹介したい。


3-1. 食品系

まず、やはり多かったのは食品系のCM。

こちらは先ほども紹介した菓子メーカーのムリーノ・ビアンコ(Mulino Bianco)のCMであるが、様々な人が家の中で過ごす様子が「マイ・フェイバリット・シングス」(My Favorite Things)の曲とともに編集されている。

幸せとは小さなことという前向きなメッセージとともに、人々の何気ないおうち時間の過ごし方がとても素敵に伝わってくる動画である。


次にイタリアの大手スーパーマーケットのエッセルンガ(Esselunga)のCM。

ロックダウン期間中も変わらず営業を続け、人々の生活を支えてきたスーパーマーケット。

「虹の彼方に」(Over the Rainbow)の曲とともに、マスクをつけてスーパーで働く人々の姿が映し出されている。



そしてこちらは大手チョコレートメーカーのペルジーナ(Perugina)のCM。

「離れていても気持ちは一緒」というメッセージと共に、テレビ電話で家族や恋人、友人たちとコンタクトをとる人々の様子が映される。

人々が口に手を当てて投げキッスをしている様子が目立つが、ペルジーナ社の目玉商品・バーチ(Baci;イタリア語でキスの意味)とかけているのかなと思ったり。



食品系のCMの最後として紹介するのが、イタリアの大手パスタメーカー・バリラ(Barilla)のCM。

こちらのパスタは日本でもよく売っているため、知っている方も多いのではないであろうか。

とりあえず、イタリア語が分からなくてもこの動画を見て欲しい、と思うくらい美しいCM。

「(人々の外出制限の協力の結果による)この静寂が人々の安全を守っている」という台詞で始まるソフィア・ローレンのナレーションと共に、静まり返った美しいイタリアの都市が次々と映し出される。

このCMが配信されたのが、4月半ばということを見ると、ちょうどロックダウンが開始してから1ヶ月ちょっと経った頃。

美しいイタリアを守るために、今は耐えようというメッセージが込められている。

またバリラのチャンネルでは、#ACasaConBarilla(バリラとおうち時間を過ごそう)と言うタグとともに、バリラの商品を使った美味しいレシピが紹介されているが、全編イタリア語の上、ノーカーットのために、ちょっと見るのは大変かもしれない。


#ACasaConBarillaの他にも、分かりやすく美しいレシピ動画がたくさんアップロードされているため、料理が好きな人にはおすすめなバリラのチャンネルである。



3-2. オンライン学習系

次に、筆者は今、個人的に語学の学習をしているせいか、オンラインでの語学学習や文章添削系のCMもよく目にした。

その中でも、英語に限らず、様々な言語のオンライン講師を探すことができるアイトーキ(italk)のCMが印象的だったので紹介しておこう。

クスッと笑える、あなたに最適な、使える英語の学習をと言う趣旨のCMである。

この動画自体は、2019年12月以前に作られたもののようであるが、家で過ごす時間が多くなった結果、なんらかのオンライン学習を始めた人の数も増えたのではないかと思っている。





3-3. イタリアのラッパー・ガリのメッセージ

最後に、イタリアのラッパー・ガリのメッセージビデオについて書いていきたい。

2020年5月現在、ミラノの街の至る所で見られるこのポスター。

こちらはイエス・ミラノ(Yes Milano)というミラノの観光事業事務所の広告であり、マスクをかけて写っている男性は、イタリアの中でも1、2を争うくらい有名なラッパー・ガリ(Ghali)である。

邦楽にあまり詳しくない筆者が例えるのもよくないと思うが、日本のラッパー・コー(KOHH)と、ラップも秀逸なミュージシャン・野田洋次郎さんくらいのカリスマ性をイタリアで持っているラッパー、それがガリだと思っていただいて良いのかもしれない。

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(2020年5月10日撮影)



そのガリが出演するYesMilanoの動画は、1分30秒ほどのものであるが、冒頭より静まり返ったミラノの街の様子が映し出されている。

映像と共に

「マスクをつけることによって目が見えなくなるわけではない。

私たちは自由の価値を理解するステージにきたのだ。

最初の一歩を踏み出そう。」

というような内容のメッセージをガリが語りかける。

この動画は、一番厳しいロックダウンが少しだけ緩和されることになった5月4日の前日、5月3日の夜にアップロードされたものである。

つまり、約2ヶ月間の厳しい外出制限が終わり、新しい生活、フェーズ2に入っていくイタリア在住の人々がこのビデオを目にすることになった。

この動画は、YoutubeのCMだけではなく、街の至る所で動画でも配信されている。

ミラノの観光案内事務所のCMということだが、観光業はこの騒動で大きな打撃を受けた業種の一つであろう。

ミラノの街に観光客が戻ってくるのはまだまだ先のことになりそうであるが、影響力のあるガリのナレーションとミラノの美しい街並みの映像は、心を打つものがあり、これからの新しい生活について考えさせられる動画であった。



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以上、盛りだくさんになってしまったが、2020年5月のミラノで見た街頭広告や動画をまとめた。

この文章を書いている2020年5月18日より、一部営業が再開が許可されることになった小売店(服飾店など)もあり、さらに5月25日からは、ジムやスポーツセンターの再開、6月15日からは劇場や映画館などが再開されることになっている。

感染者の数の推移によって多少の変更は起きるかもしれないが、本当に少しずつ少しずつ、元の生活が戻ってくるという感じであろうか。

それに伴って、また街やネット上に出される広告も変わってくるのであろう。

2020年3月上旬から5月上旬まで、一番厳しい外出制限が課されていた時期の広告やCMは、本当に食品や生活必需品、スーパーマーケットの広告しか目にすることができず、元の賑やかなミラノは戻ってこないのではないであろうかと絶望感さえ覚えた。

とはいえ、このnoteで紹介した食品メーカーの動画を見ても分かる通り、改めて生活の質や人とのつながりについて考えさせられる広告も多かったように感じる。

まだまだ気を抜けない状況ではあるが、政府の発表に従いつつ、少しずついつも通りの活動を再開していきたいところである。


(文責・写真:増永菜生 @nao_masunaga


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