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『鳥』(1963)1000年後には鳥の国

夕焼や千年後には鳥の国   青木柚紀


鳥が人を襲う話。と、たった一言で内容が言えてしまうのだが、一言では収まらない恐怖の仕掛けがあちこちにあるのだ。その仕掛けを登場順に記していこうと思う。

と、その前に、ヒッチコック作品恒例の、ヒッチコックのカメオ出演場面だが、今作は冒頭、鳥屋さんから、犬連れで出て来る紳士だった。

では、本題。

① 鳥の襲撃理由
全く分からない。急に襲い始めるのだが、この理由が分からないことが、逆に恐怖を煽る。何も悪いことはしていないのに、襲ってくるのだから、もしかしたら自分にも・・・・・・と、観客は登場人物たちと恐怖の共有をするのだ。

② 遺体の見せ方
とある家を訪れた女性。玄関先で呼んでも家の中から返事はない。で、中に入ってみると・・・・・・と、ここまでは、2時間ドラマによくある死体発見フラグが立っているだけなのだが、ここからが違う。

まず台所。
食器棚に掛けられているいくつかのコップが、ぶら下がったまま破損している。
ちなみに、このシーンの前、訪問した女性宅で、女性らが大量の鳥に襲われているところを観客は見ているので、このコップを見ただけで、もしや?と思い始める。

そして寝室。
傷だらけの足→すでに死んでいる男性の全体像→えぐられた両目のアップ。となるのだが、いったん全体を見せておいて、ダメ押しで両目とくるのだ。

③ シムラ、後ろ!
小学校の様子が気になった女性が、ベンチに座って子供を待っている。背後にはジャングルジム。女性は苛立ったように煙草を吸っている。ここからは、女性と背後のジャングルジムとのカットバックになるのだが、女性からジャングルジムに変わるたびに、カラスの数が、1羽→4羽→5羽→8羽→いっぱい!まさに、ドリフの「シムラ、うしろ!うしろ!」状態。

観客からすれば、見るたびに増えるカラスに、いったいどこまで増えるのかという不安がよぎる。

④ 鳥目線
ガソリンスタンドのガソリンが漏れ、マッチの火に引火、爆発。漏れたガソリンに沿って火柱が上がるのだが、ここで場面は俯瞰になる。まるで、これは鳥目線。鳥が嘲笑っているようだ。

⑤ 鳥の惑星
ぜひこのラストシーン見てほしい。戦争で焼け野原となり、人がいなくなった街に鳥だけがいるような――まるで、「猿の惑星」ならぬ「鳥の惑星」
猿ならまだしも鳥が征服した地球に、人類は生き延びることが出来るのだろうか?などと考えてしまった。

⑥ BGM
オープニングから一貫して、BGMは流れないので、観ている側は、静寂が緊張に変わっていく。

今作は、明確な結末を描いていない。が、飼っていたインコ2羽と一緒に逃げた主人公たちの行方が気になる。そのインコは大丈夫なのだろうか・・・・・・。


夕焼や千年後には鳥の国   青木柚紀

この作品を観た瞬間、この句が思い浮かんだ。おそらくこの句が描く世界は、今作のような鳥対人との戦争があった末のことではないだろうが、夕焼を背に群れをなしているムクドリを見ていると、きっとこうなっているに違いないと思う。

『鳥』(1963)
監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:エヴァン・ハンター
原作:ダフニ・デュ・モーリエ
出演:ロッド・テイラー/ジェシカ・タンディ/スザンヌ・プレシェット/ティッピ・ヘドレン

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