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自分の家を建てる(1)

信じてもらうために、信じる

ヴィルヘルムハーツというハンドメイドの杖の職人の所に丁稚奉公をすることになり、いざ彼と彼の家族が待つ家に移住したその日のこと。コーヒーを飲みながら彼が言った。

「実はNao(筆者の呼び名)が住む家のスケッチを描いていたんだ。キャンピングカーを買おうかと迷ったが、冬は寒過ぎて、過ごせたもんじゃないから…建てた方が良いと思ってね」。

僕は驚きの余り「アメイジング!」ぐらいしか返答できていなかった。自分の住む家を建ててくれるということに現実味がなく、イメージすらできない。でもとにかく嬉しかったのは「お前にもプライベートな空間は必要だろう。一緒に住むわけだから、うちらの顔が見たくない時だってあるはずだ」という言葉。この時点で、自分が個として受け入れられている気がした。

 次の日、起きた時には木材が届いていた。彼は本職が建具屋さん。早速、道具を器用に扱いながらカットしていった。デンマーク人らしく、1時間ごとに休憩しながら、床を作り、壁を作り、屋根を作り、日が経っていく。

 数日が経ったときに、思い切って聞いてみた。「なんで見ず知らずのアジア人にここまでしてくれるんだ?」。すると「何事も信頼が先だ。私がお前を信頼しない限り、お前は私を信頼することはできないだろう」と。この言葉を聞いた時に、自分は彼のもとに杖の作り方や手法を学びに来たのではなく、どうやって、こんなにも素敵な杖が出来たのかを知るために来たのだと確信した。それだけ心が揺さぶられた。そして小屋の形が出来てきた時、部屋の中の色はどうするかと聞かれた。ここにも大きな意味があったのだが、それは次回に。

(尚工藝代表・宮田尚幸)

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ここに建てることに!

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庭の一角に建設中の自分の家。

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断熱もしっかりと。


シルバー新報 2020年(令和2年) 3月13日(金曜日)発刊号より

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