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創作集-空想

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#創作

本音

それで、私たちって、一体どういう関係だったんだろうね?
偶にこうして会って。近況報告とか、趣味の話とか、そんな他愛もない話をして、それで終わり。
この喫茶店でよく会う。店員さんにも覚えられたかもしれない。
意外と、意外と?学校の中では会わない、大学なんて人でごった返してるんだから仕方ないけれど。
一度見かけたことがあったけれど、数人で仲良く歩いてて、普通の、ごく普通の男子大学生って感じで、そりゃそ

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細胞

電車には、まばらに人がいる。私はなるべく端っこにいる。そんな人間だ。
同じ車両、対極に、あの人がいた。あの人は、窓の外をぼーっと見ている。あの人はこちらには気付きそうもない。声をかけようか、しかしそんな勇気は無い。そんな人間だ。
冴えない顔の、面皰を一つ引っ掻いて血が滲んでいる、そんな私は一方的に眺める以外方法は無い。
同じ世界の、しかも同じ時間同じ車両にいるはずの、私達は全く別の世界にいる。私に

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救世主

夏の特別暑い日。
扇風機を付けても、生温い空気をかき混ぜるだけでちっとも効果がない。
なるべく節約したいから、エアコンは付けない。勿論身体に良くないのは分かっている。
でも、お金がない。バイトとはいえがむしゃらに働いて、家賃も出来る限り抑えてボロアパートに住んでいる。ギャンブルもしないし、何かに課金したりもしないのに、何でただ生きているだけでこんなにもお金が無くなるのか。
親は借金に塗れて消えた。

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夏闇

みっちゃんは、転んでも叩かれても泣かないわたしを、「あいこちゃんは変だ」と言った。
わたしからすると、みっちゃんの方が変だと思った。
蛙や虫を捕まえたわたしを見て、「やだ、そんな気持ち悪いの」と言った。
みっちゃんの方が、気持ち悪い。子供のくせに、いやに背が高い。ませている。
「こんな田舎はいやだ。将来絶対に都会で暮らすんだ。」
ああ、失敗するだろうな、と思った。
別に、みっちゃんのことが嫌いなわ

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神隠し

私は部屋で、ぼうっと窓の外を眺めながらインスタントコーヒーを飲んでいた。よく晴れている昼下がりである。

しかし、ここは私の部屋ではない。

私は、大学に入学してから、写真部へ入部した。永尾とは、そこで出会ったのである。彼はとにかく幸の薄そうな顔立ちで影も薄く、それに加えて自分から喋ろうとはしなかったし、話しかけられても小さく返事をするのみであった。
部員たちは、(少なくとも表面では)意地の悪い人

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ボーッと歩いていたら、軽く人にぶつかった。
相手が軽く舌打ちをし、僕は「あ…すいません」と言う。
それが今日発したたった一声だった。

映画やドラマ、小説や漫画。何でもいい。冴えない主人公だろうが、そこには運命の人が現れたり救いの手が差し伸べられたり、そこまでいかなくとも何かしら友人がいたりする。とにかく誰かしらが周りにいる。
現実はそう都合よくいかない。
この話だって、普通に考えればこの後誰かと

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下衆

あたしはバカだから、人間が嫌いになった。
自分含めて誰のことも信じなくなった。
タバコで噎せるとか、一夜限りの愛とか、そんな悪いことだってしてみたかった。
あたしは、何のために生きてるとかそんな答えのない問題なんて解きたくない、けれど、ここに流れてる空気が、死の匂いが、ねえ、死の匂いがする気がして。
間違ってるのかしら?????
あたしが間違ってるのかしら??
あたしの生が間違ってるのならば、今す

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浄土

あたしは良い子でままはそんなあたしが大好きだからあたしは今日も良い子でいるままはとても優しいあたしも大好きだよああでも血も涙も貪って歪んだ視界の先のあたしのことを最近嫌っていてままは悪くないあたしが歪んでいるのままは化け物じゃない違う化け物じゃない化け物じゃないあたしはあたしの普通で生きていて他人の普通は異常でしかないこうやって今日も毛を目を口を胴体を脚を心臓を肺を胃を細胞を細胞を細胞を酷く惨く上

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悪夢と現実と、(前)

男が、ゆっくりと近付いてくる。
私は、跳ね上がる心臓を抑えつけながら、ゆっくりと後ずさる。
そうすると、曲がり角に差し掛かって、私は咄嗟に右に曲がった。そして、曲がった瞬間に勢いよく走り出す。後ろは見ず、ひたすらに走った。
そうして、どこまで来たのか分からなくなった頃、私は走り疲れて立ち止まった。
後ろを見た。流石にいなかった。
はぁ、と溜息を吐いて、ふと前を向いた時。

私は、これほどまでに驚き

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