見出し画像

ニューヨーク・エリアに住んでみた現実:成長と生活の間で

「ニューヨーク」エリアに住むこと

ニューヨークには何回も旅行では来たことがありましたが、一度このエリアに長期滞在して調査してみたいといつも思っていました。今回その願いが叶ったのですが、実際に住んだのはニュージャージーです。まあそれはそれで良かったのですが、実際にこのエリアに住んでみて改めて見えてきた現実がありました。

シアトルとも比較できないくらい家賃が高い

先月はマンハッタンの家賃の平均が約$4000(約55万円)というニュースを見て、高いな〜と思っていたのですが、今月になって平均約$5000(約69万円)という値が出てきました。一ヶ月で1000ドルも平均が上がるんですね。
これは政策金利の利上げの影響で住宅ローンの金利が上がり、購入では無く賃貸を選ぶ人が増え、賃貸市場の競争が激しくなったということもあるようです。パンデミックで郊外に出て行った人たちが戻ってきたという理由もあります。

そんなわけでさすがにマンハッタンには住まなかった自分の状況を東京と比較してみようと思うのですが、現在住んでいるところはマンハッタンから電車で1時間弱、駅から時には徒歩20分程度かかります。狭くもないですが広くもない部屋です。
これを東京から埼玉方面に当てはめて検索してみると、池袋駅を起点にすると大体同条件のものが5万円くらいでした。
ニュージャージーはマンハッタンより遙かに安いですが、東京圏の同条件と比べるとかなり高いです。

ただしここでの救いは、マンハッタンとの間の電車が大体空いているというところです。行きも帰りも座れなかったことは一度もありません。
でも現在のニュージャージーの家賃を払えばシアトルだったら中心部に住めますね・・・。なのでニューヨーク周辺ではシェアしている人が多いのも分かります。

近所で鹿が目撃されるくらいにはのどかなニュージャージーの住環境です(3回ほど見ました)

ちなみに日本での論調は「アメリカ大都市では物価が上がっているが賃金も上がっている」とありますが、ニューヨーク市の資料を見ると、市内住民の1/4は世帯収入が3万ドル(約400万円)以下だそうです。この場合、換算では月600ドルが賃料の限界とされています。(参照:NYC Planning, "SoHo/NoHo Neighborhood Plan:Housing Info Session"資料 p.17)
そのような状況で平均4000ドルの賃料と言われても・・・ですよね。

ニューヨークの公園も本当に美しい

改めてセントラル・パークなど多くのアメリカの公園を設計したオルムステッドの偉大さを感じるところです。今年はフレドリック・オルムステッドの生誕200周年なんですよね。セントラル・パークの美しさはいつ見ても「ユーフォリア(幸福感)」を感じさせます。

セントラル・パークはどこを切り取ってもピクチャレスクです。

ブルックリンのプロスペクト・パークもオルムステッドによるものですが、こちらはもう少し日常の公園の風景という感じです。もちろんプロスペクト・パークも素晴らしい公園です。
その他にも
・ブライアントパーク(夏の夜はよくコンサートをしています)
・マディソンスクエア(周辺の建物と合わせた景観がすばらしいです)
・ユニオンスクエア(いつもマーケットが行われています)
・ワシントンスクエア(NYUの学生が多く、活気があります)
・リヴァーサイドパーク(セントラル・パークと平行に延びています)
などがあります。
シアトルの公園も素晴らしいですが、シアトルは多くは既存の自然環境の保護エリア、マンハッタンは巧みに演出された都市の自然という感じです。

マンハッタンでは密集した都市構造から自然光を部屋の中で得ることが難しい場合も多々あります。また、住宅そのものも非常に狭いです。
オルムステッドが全ての人のために開かれた「公」園をデザインしたように、マンハッタンに埋め込まれた各パークはそういった住環境の中でもマンハッタンでの生活を豊かなものにしてくれたようです。(時々自由に使いすぎでは・・・と思うこともありますが、文化の違いと言うことで)

ワシントン・スクェア:寒い日でもにぎわいがあり、みなさんかなり自由に過ごしています

ウォーターフロントは移動中も含めて美しい

マンハッタンは川に挟まれており、長いウォーターフロントを有します。ウォーターフロントの開発の初期の例が住宅・商業開発と一体になって行われたバッテリーパーク・シティです。

バッテリーパーク・シティ(マンハッタン):
埠頭の再生からコミュニティづくりへ(1968〜)

ニューヨーク・ニュージャージーのウォーターフロントは人々が集う場所として次々と開発されています。加えて公共のフェリーがその間をつなぐことで、移動中に見ることができる景観も含めて観光資源としての価値も高めていると感じます。(フェリーは$2.75だったのですが、もうすぐ$4に上がるようです)

ドミノパーク(ブルックリン):
人気のウィリアムズバーグ地域の砂糖の精製所跡地周辺のリノベーション
精製所は現在工事中で、オフィスに生まれ変わるようです。

生活の風景としてのマンハッタンの外側

旅行ではマンハッタンの外に行くことはあまり無いと思いますが(ブルックリンの一部を除く)マンハッタンの外側は、普段の生活や文化の多様さ・豊かさが感じられてとても興味深かったです。
特に今まで行ったことのなかったクィーンズは、本当の生活の場という感じで、文化がストリートで混じり合っていました。
これまではマンハッタン=ニューヨークと捉えていましたが、クィーンズやブルックリンはニューヨークの生活の場としての風景を見せてくれます。大都市を支えるエコシステムが空間的にどうつながっているのか、今回ようやくある程度理解できた気がします。

ニューヨーク・エリアは東京圏やシアトル以上に、経済的な成長圧力が追求する都市のかたちと、そうは言っても毎日の生活を続け、都市を支えていく市民のつくる都市のかたちの間の断層が激しいなと思いました。それもまたニューヨークの活気を作り出しているのだろうと思いますが。
その断層間のせめぎ合いについてまた研究として整理していきたいと思います。

ブルックリンのダウンタウン:
何年も変化していないであろう生活の風景に、開発圧力が忍び寄っている最前線です